ボブキャットの基本情報
英名:Bobcat
学名:Lynx rufus
分類:ネコ科 オオヤマネコ属
生息地:カナダ、アメリカ合衆国、メキシコ
保全状況:LC〈軽度懸念〉
国際取引されるネコ
オオヤマネコの1種であるボブキャットは、かつてカナダオオヤマネコの南方型とされていました。
しかし、彼らがユーラシア大陸から北米に入った時期は異なります。
ボブキャットの方が先で、約200万年前。
カナダオオヤマネコは約20万年前です。
ちなみに、ボブキャットはオオヤマネコの系統から最も早く分岐した種で、ボブキャットとその他のオオヤマネコは約320万年前もの昔に分かれています。
ボブキャットも、全く違う歴史を歩んできたカナダオオヤマネコと人間なぞに一緒にされて、さぞ不服だったことでしょう。
そんなボブキャットですが、斑点のあるネコ科動物の中では唯一、国際取引が法的に認められています。
野生動物の国際取引を規定するものは、1973年に採択された、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」、通称ワシントン条約(CITES:サイテス。Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Floraの略)です。
2019年現在、183の国と地域が締約国となっているこの条約は、絶滅が懸念される動植物を3つに分類し、附属書に記載することで、生きていようがいまいがその国際取引を規制しています。
ワシントン条約について
附属書Ⅰには、現在絶滅の恐れがある動植物が分類され、学術目的以外の国際取引が禁止されています。
例えば、動物園の人気者であるジャイアントパンダはこの附属書Ⅰに記載されているため、国際取引は禁止されています。
附属書Ⅱには、現在絶滅は懸念されていないものの、取引を規制しなければ絶滅の危険性がある動植物が分類されます。
附属書Ⅱに記載されている動植物は、厳重な管理の下、商業的な国際取引も許可されています。
ボブキャットは、この附属書Ⅱに記載されているため、国際取引が認められているのです。
かつて人間の飽くなき毛皮への欲望は、ネコ科動物ではオセロットやウンピョウなど斑点が美しい種が満たしてきました。
しかし、ワシントン条約ができ、これらの種が附属書Ⅰに記載されたことで、毛皮の国際取引が禁止されました。
これに代わって人間の需要にこたえたのが、オセロットのような大きな斑点を持つこともあるボブキャットでした。
ボブキャットは、アメリカ合衆国に広く生息しており、現在その数は235万~350万頭と見積もられています。
このことなどから、彼らは附属書Ⅰには記載されず、附属書Ⅱに記載されています。
ボブキャットの毛皮の価値は、他のネコ科動物の毛皮の取引が禁止されて以降価値が高まり、2013年には毛皮1枚に対し最高589ドルもの高値がつけられることもありました。
2013年は、ボブキャットの毛皮が最も高かった年で、年間65,000の毛皮がアメリカから輸出されています。
ボブキャットは現在、最も取引されているネコ科動物となっています。
ちなみに、アメリカ政府はボブキャットを附属書Ⅱから除外するようなんども申請していますが、それらは全て拒否されているようです。
ボブキャットの生態
生息地
ボブキャットは、アメリカ合衆国を中心に、様々な環境に生息します。
生息可能なのは標高3,500mまでのあらゆるタイプの森林、草原、半砂漠、砂漠、湿地などで、近年は都市郊外にも出没しています。
ただ、開けた農作地や牧草地は避けているようです。
食性
ボブキャットは完全な肉食で、主に1~5㎏の小型哺乳類を捕食します。
食物の多くはウサギ類が占め、その他を齧歯類やキットギツネ、ハナジロハナグマなどの肉食動物、爬虫類、両生類、魚類、鳥類、昆虫が補います。
死肉も食べ、ヒツジなどの家畜や家禽を襲うこともあります。
また、オスは自分より大きなシカなどの有蹄類を襲うこともあります。
一方、彼らを食べる捕食者には、ピューマやコヨーテ、オオカミ、ヘビ、ワニなどがいます。
形態
体長はオスが60~105㎝、メスが50~95㎝、肩高は約60㎝、体重はオスが4.5~18㎏、メスが3.5~15.5㎏、尾長は9~20㎝で、性的二型が見られます。
通常、ボブキャットはオオヤマネコの中で最も小さいですが、高緯度になるほど大型になる傾向があり、カナダオオヤマネコと同所的に生息する個体には、彼らより大きいものも少なくありません。
両者は互いによく似ていますが、ボブキャットはカナダオオヤマネコのような大きな足を持っていない点(足が小さいと雪に埋もれてしまうため、ボブキャットは雪が苦手)、ボブキャットは黒い縞があり、先端が白いしっぽを持っている一方、カナダオオヤマネコは縞のない、先端が黒いしっぽを持っている点などで異なります。
ちなみに、ボブキャットはオオヤマネコの中で唯一、メラニズムが確認されています。
行動
ボブキャットは夜行性ないし薄明性で、特に明け方、夕暮れ時に活動量がピークになります。
ただ、人間の影響が少ない場所や冬には日中の活動が増えます。
単独性で、一晩に通常1~7kmを移動します。
なわばり性が強く、同種同性からなわばりを激しく防衛します。
行動圏はオスが2~325㎢、メスが1~86㎢で、高緯度の個体ほど大きくなります。
行動圏は糞尿や地面掘りなどでマーキングされ、一部異性の行動圏と重複しています。
一部同所的に生息する他のネコ科動物には、カナダオオヤマネコの他、オセロットやピューマがおり、このうちカナダオオヤマネコとは交雑することが知られています。
繁殖
繁殖は年中可能なようですが、春から夏にかけて出産のピークが見られます。
発情期間は5~10日で、オスもメスも複数の異性と交尾します。
妊娠期間は62~70日で、岩の間や木の洞などに、約300gの赤ちゃんが通常2~3頭産み落とされます。
赤ちゃんは母親に育てられます。
生後約10日で目を開き、2~3カ月で離乳します。
そしてこの頃から、母親の狩りについて行くようになり、狩りを学び始めます。
生後8~10カ月には独立し、9~12カ月には性成熟に達します。
ただ、実際に繁殖するのはそれよりも数カ月から2年ほど後になります。
野生下ではほとんど一生を通じて繁殖することができ、ボブキャットの生涯産仔数は24~30頭にもなります。
寿命は野生で約10年、最長23年、飼育下では最長32年になります。
人間とボブキャット
絶滅リスク・保全
ボブキャットは、毛皮を目的とした罠猟、狩猟や、家畜を襲うことに対する人間からの報復、生息地の破壊、イエイヌから感染するイヌジステンパーなどの病気、ロードキル、駆除用の毒を摂取した獲物の捕食といった脅威に直面しているものの、分布域は依然として広く、個体数も安定しています。
レッドリストでは軽度懸念の評価が下されており、今のところ絶滅の危険性は小さいようです。
動物園
そんなボブキャットですが、日本では兵庫県の王子動物園でのみ会うことができます。
北米では沢山いても、日本ではここだけでしか見ることができないボブキャット。
是非一度会いに行ってみてください。