アノアの基本情報
英名:Lowland Anoa
学名:Bubalus depressicornis
分類:鯨偶蹄目 ウシ科 アジアスイギュウ属
生息地:インドネシア
保全状況:EN〈絶滅危惧ⅠB類〉

島の小さなバッファロー
インドネシアのスラウェシ島とブトゥン島にのみ生息するアノア。
アノアとはスラウェシの言葉でバッファロー、つまりスイギュウという意味です。
スイギュウの名のごとく、彼らには水が必須であり、川がある森林を好みます。
また、他のスイギュウの仲間のように、泥や水を浴びることが大好きです。
アノアはローランドアノアと呼ばれることもあります。
ローランドとは低地のことで、彼らがそう名付けられるということは高地のアノアがいてもおかしくありません。
実際、そうしたアノアは存在し、ヤマアノア(Bubalus quarlesi)と呼ばれています。
ローランドアノアとヤマアノアはどちらもスラウェシ島とブトゥン島に生息しますが、ローランドアノアが標高1,000m以下に生息する一方、ヤマアノアは標高1,000~2,000mに生息するとされています。
両者は体サイズや毛の質感、角の形、体色などから別種とされることもありますが、飼育下の個体ではその成長過程でどちらの特徴も見られることから、反対意見も存在するようです。
ところで、アノア2種は他のスイギュウと比べるとかなり小型です。
アノアに近縁のスイギュウのオスが1tを超える中、アノアはせいぜい200㎏程度。
これは大型の捕食者がいない島だからこそ見られる現象かもしれません。
島に生息する種が大陸に生息する近縁の種に対して体サイズが変化することを島嶼化(とうしょか)と言います。
大型の動物の場合、大型捕食者の不在(つまり防御のために体を大きくする必要がない)や、資源の競争(体が大きいと資源の少ない島では競争が高まる)から小型化する傾向にあります。

そんな小型の2種のスイギュウですが、どちらも絶滅の危機に瀕しています。
成熟個体数は2種とも2,500頭以下と推測されていますが、低地のアノアの方が人間の影響を受けやすい分、絶滅の可能性が高いとされています。
最も大きな脅威は、肉を目的とした密猟です。
島には逃げ場がないため、島の哺乳類は大陸の哺乳類よりも絶滅リスクが高いとされています。
アノアを含め、島に生息する哺乳類にはより積極的な保全が求められています。


アノアの生態
生息地
アノアは標高1,000mまでの濃い森林に生息します。
形態
体長は約1.8m、肩高は約90㎝、体重は90~225㎏、尾長は約40㎝です。
後ろ向きに伸びた角(ホーン)は雌雄ともに生え、オスが30㎝、メスが25㎝ほどです。

食性
主にブラウザーのアノアは木の葉を食べますが、草や果実、水生植物なども食べます。
アノアは海水を飲むことが知られており、これはミネラルを補うためと考えられています。
捕食者はほとんど存在しませんが、子供はヘビなどに襲われる場合があります。
行動・社会
アノアは雌雄ともに単独で暮らすようです。
これは特にメスは群れる他のスイギュウの仲間とは異なる社会です。
ただ、繁殖期などはペアで見られることもあります。
繁殖
繁殖についてはよくわかっていません。
メスの妊娠期間は275~315日で、一度の出産で1頭の黄みがかった茶色の赤ちゃんが生まれます。
双子も見られます。
子供は生後6~9ヵ月で離乳し、2~3歳で性成熟に達します。
寿命は飼育下で20~30年です。

人間とアノア
絶滅リスク・保全
アノアの個体数は目下減少中で、250頭を超える個体群はないとされています。
狩猟や生息地の農地への転換などの脅威により、特に19世紀以降個体数を減らしたとされています。
IUCNのレッドリストでは絶滅危惧ⅠB類に指定されています。
また、インドネシアでは法的に保護されており、ワシントン条約(CITES)では附属書Ⅰに記載され国際取引が禁止されています。

動物園
日本ではアノアを見ることはできません。