ヌビアアイベックスの基本情報
英名:Nubian Ibex
学名:Capra nubiana
分類:鯨偶蹄目 ウシ科 ヤギ属
生息地:エジプト、イスラエル、ヨルダン、オマーン、サウジアラビア、スーダン、イエメン
保全状況:VU〈絶滅危惧Ⅱ類〉

ヌビアとアラビアのアイベックス
急峻な崖や山地に生息するアイベックスと呼ばれるヤギの仲間は、ヨーロッパやアジア、アフリカに広く分布していますが、アフリカ北東部とアラビア半島に生息するのがヌビアアイベックスです。
ヌビアとは金や鉄などの鉱物資源が豊富な、エジプト南部からスーダン北部にかけての地域の名称で、彼らの分布域の一部を表しています。


ヌビアアイベックスはオスが大きくても70㎏程度で、アイベックスの中でも小型ですが、アイベックスのアイデンティティである角はやはり立派で、オスの角は他のアイベックスに引けを取らない大きさです。
ウシ科の角は洞角(どうかく)、英語ではホーンと呼ばれ、頭骨から生えた突起を角質化した皮膚の鞘が覆うのが特徴ですが、一生伸び続けるヌビアアイベックスの角は、最大1.2mにもなります。
オスの角は、5歳まで毎年10~20㎝伸びますが、5歳以降は年間2~4㎝の成長に落ち着きます。
角は雌雄ともに生えますが、オスの角のみ大きいことから予想できるように、角は主にメスをめぐる闘争に用いられます。
不安定な足場で繰り広げられる戦いは命がけ。
転落して命を落とすこともあるほど危険です。
そんなヌビアアイベックスは、アイベックスの中でも特に暑くて乾燥した地域に生息します。
時に40℃を超える暑さを避けるため日中の行動は避け、朝に採餌、夜は休息や反芻をして過ごします。
また、乾燥地域に住んではいても乾燥にめっぽう強いわけではなく、水は必須であれば毎日飲みます。
過酷な環境にあるヌビアアイベックスですが、人間という脅威がさらに追い打ちをかけています。
ヌビアアイベックスは角や肉を目的として狩猟されてきた歴史があり、それにより個体数を減らしています。
現在、ほとんどの国で狩猟は禁止されていますが、密猟が行われており、彼らの大きな脅威となっています。
イスラエルを除く生息国では減少傾向にあり、全体の成熟個体数は5,000頭未満と推測されています。
彼らの分布域は、人間の文明が隆盛した地として注目されますが、ヌビアアイベックスにもぜひ注目してほしいものです。

ヌビアアイベックスの生態
生息地
標高3,000mまでの、急峻な崖や丘がある岩山に生息します。
エリトリアやエチオピアでの生存は不明です。
シリアでは絶滅していますが、再導入により現在も生息しています。
形態
体長は105~125㎝、肩高は65~75㎝、体重はオスが50~75㎏、メスが25~33㎏、尾長は15~20㎝で、オスの方が倍以上大きくなります。
オスの角は最大120㎝ですが、メスの角は35㎝程度です。

食性
山を下りて採食する彼らは、葉や蕾、花、低木、草などを食べます。
捕食者にはヒョウやオオカミ、シマハイエナ、アカギツネ、キンイロジャッカル、猛禽類などがいます。





行動・社会
雌雄別で暮らす彼らは、最大20頭からなる群れを作ります。
成熟したオスは単独で生活しますが、若いオスは若いオスだけの序列がある群れを作ることもあります。
子供は性成熟に達する2~3歳までは生まれた群れで暮らします。
繁殖期になると雌雄の群れは合流し、少数の強いオスだけがメスと交尾します。
繁殖期の間、オスはあまり食べたり飲んだりせず、メスの獲得に集中します。
繁殖
繁殖期は10~12月です。
メスの妊娠期間は150~165日で、一度の出産で通常一頭、稀に双子が生まれます。
赤ちゃんは2~3歳で離乳し、メスは2歳ごろ、オスは3歳以降に性成熟に達します。
寿命は飼育下で17年の記録があります。

人間とヌビアアイベックス
絶滅リスク・保全
ヌビアアイベックスの個体数は減少傾向にあり、IUCNのレッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。
密猟の他、家畜との直接的な競合、家畜の採食などによる生息環境の悪化、生息地の分断とそれによる遺伝的多様性の低下などが挙げられます。
このような危機的状況を受け、狩猟禁止などの法的保護含む保全活動が行われています。
ヨルダンでは飼育下繁殖プログラムが20世紀末から実施されており、一部の野生復帰が実現しています。
また、100年以上前に絶滅しているレバノンでは、再導入が実施されている最中です。

動物園
ヌビアアイベックス含め、アイベックスという名を持つ種を日本で見ることはできません。
