アダックスの基本情報
英名:Addax
学名:Addax nasomaculatus
分類:鯨偶蹄目 ウシ科 アダックス属
生息地:チャド、ニジェール
保全状況:CR〈絶滅危惧ⅠA類〉

最も砂漠に適した有蹄類
薄い体色と雌雄ともに生えた、ねじれた角が特徴的なアダックス。
彼らは最も砂漠に適応した大型有蹄類です。
年間降水量が100㎜を下回る砂砂漠や礫砂漠に生息する彼らの明るい体色は厳しい日光を反射し、蹄は広く広げることができるため、砂に埋もれることはありません。
また、彼らはエサとなる植物からほとんどの水分を摂取するため、基本的に水なしで生きていくことができます。
そんなアダックスですが、最も絶滅に近い大型有蹄類の一種でもあります。
サハラ砂漠とその南縁のサヘルと呼ばれる地域に広く生息していたアダックスは、19世紀以降の人間による過度な狩猟の餌食となった結果、今では野生個体は100頭未満しか生息しないとされるまでに激減しました。
特に20世紀以降、移動手段や銃火器が発達した結果、狩猟はさらに加速することとなり、アダックスの生息域はかつての1%程度までになってしまいました。
現在、野生のアダックスのほとんどはニジェールの保護区(Termit & Tin Toumma National Nature Reserve)に生息しています。
この保護区はアフリカでは最大級の保護区で、彼らと同じく絶滅に最も近い有蹄類の一種であるダマガゼルも生息しています。
保護区内にはいるものの、アダックスの将来は安泰ではありません。
依然として密猟が存在し、石油の探鉱による影響も懸念されています。
また、ニジェールや隣国の政治が不安定化すれば、その影響がアダックスに及ぶかもしれません。

一方で、明るいニュースもあります。
こちらもアフリカ最大級であり、ダマガゼルや一度は野生絶滅したものの再導入によって復活したシロオリックスなども生息するチャドの生物保護区(Ouadi Rimé Ouadi Achim Faunal Reserve)に、2023年、アブダビからの移送個体115頭が到着しました。
この移送は2019年の最初から数えて5度目の試みであり、これまでのものと合わせると現在150頭を超えるアダックスが生息しています。
これらの個体群が野生のものと判定されれば、彼らの状況は変わることになるでしょう。
現在アダックスは、IUCNのレッドリストでは、野生現存種に対する評価としては最も厳しい絶滅危惧ⅠA類に指定されていますが、これは2016年の評価です。
次回の評価でチャドの個体群が含まれることになれば、彼らの評価は変わることでしょう。

かつてサハラ砂漠を擁する国にはすべて存在していたアダックス。
彼らが昔のようにサハラ砂漠を歩き回るようになる日が待ち望まれます。

アダックスの生態
生息地
アダックスはサハラ砂漠やサヘルの、礫砂漠、砂砂漠、ワジと呼ばれる涸れ川などを本来の生息地としています。
形態
体長は1.3~1.7m、肩高は95~115㎝、体重は60~125㎏、尾長は25~35㎝で、オスの方が大きくなります。
角は雌雄ともに生え、どちらも70㎝程度で1.5~3回ねじれますが、1mを超えることもあります。
夏の体毛は明るいですが、冬は暗くなります。

食性
主にグレイザーでイネ科の植物を食べますが、エサが少ないときはアカシアなどの木も利用します。
行動・社会
5~20頭の単雄複雌の群れを作ります。
広い行動圏を持ち、エサを求めて季節的に移動していたことが知られています。
日中は日陰などにくぼみを掘って休息します。

繁殖
年中繁殖できますが、出産にはピークがあるようです。
メスは257~264日の妊娠期間の後、1頭の赤ちゃんを産みます。
生後半年頃離乳し、2~3歳で性成熟に達します。
寿命は飼育下で最長25年です。

人間とアダックス
絶滅リスク・保全
2013年には、ニジェールとチャド北部にあるジュラブ砂漠に300頭程度がいたようですが、現在、野生とされる個体群はほとんどすべてがニジェールの保護区内に存在し、その数は100頭未満と推測されています。
2007年の調査では、モーリタニアで15頭のアダックスが確認されましたが、現在存在しているかは不明です。
IUCNのレッドリストでは絶滅危惧ⅠA類に指定されており、ワシントン条約(CITES)では附属書Ⅰに記載されています。


動物園
アダックスは個人の所有地で飼育される個体がアメリカや中東に数千頭いる他、飼育下繁殖プログラムにある数百頭の個体がヨーロッパや中東、アフリカ、オーストラリア、北米の動物園で飼育されていますが、日本も飼育下のアダックスを見ることができる国の一つです。
日本では、岩手サファリパークと、兵庫県の姫路セントラルパークの2か所でアダックスを見ることができます。