キタホオジロテナガザルの基本情報
英名:Northern White-cheeked Gibbon
学名:Nomascus leucogenys
分類:テナガザル科 クロテナガザル属
生息地:中国, ラオス, ベトナム
保全状況:CR〈絶滅危惧ⅠA類〉
サル界のマライア・キャリー
テナガザルのなかまはみな歌を歌います。
歌はしっかりと前奏、間奏、メスによるグレートコールと呼ばれるサビ、後奏で構成されており、多くの種でオスとメスのデュエットで歌われます。
テナガザルはオスとメス1匹ずつのペア型の社会を作りますが、彼らの歌はその群れのきずなを深めたり、なわばりを防衛したりするのに役立っていると考えられています。
もちろんこのキタホオジロテナガザルも歌を歌います。
デュエットではオスとメスでパートが完全に分かれており、重なることはありません。
しかし、その歌声はめちゃくちゃハイトーン。
その高音ヴォイスはマライア・キャリーにも引けを取りません。
また、周波数でいえば、シロテテナガザルの2倍の高さにもなるらしいです。
下の動画では、そんなサル界のマライアが歌う様子を見ることができます。
その声だけでなく、最高峰のビブラートにも驚くことでしょう。
奥さんの、尻にしかれる、お父さん
先ほど、キタホオジロテナガザルはペア型の群れを作ると言いました。
この群れにはオスとメスのほかに彼らの子どもが含まれます。
これは霊長類には珍しいことですが、このサルの場合、メスだけなくオスも育児に参加することがあるようです。
そんなほんわかした人間の家族のようなキタホオジロテナガザルの群れですが、群れ内におけるそれぞれの立ち位置も人間さながらです。
群れには序列があり、大人のメスが最も優位にあります。
その下に子どもメス、子どもオスと続き、大人オスが最も弱い立場に追いやられます。
テナガザルは意外にも私たちと同じ類人猿ですが、人類の祖先もこのような家族だったのでしょうか。
キタホオジロテナガザルの生態
生息地
キタホオジロテナガザルは、中国南部、ラオス北部、ベトナム北西部の熱帯広葉樹林などに生息します。
食性
昼行性で、果実や葉、花、新芽、虫などを食べます。
彼らは一日中えさを探し、雨の少ない季節にはかなりの距離を移動するようです。
基本的に樹上で暮らし、ブラキエーションと呼ばれる移動方法で木々を渡ります。
形態
体長は45~63㎝、体重は5.7㎏で性差はありません。
また、テナガザルは他の類人猿のようにしっぽを持ちません。
キタホオジロテナガザルの名前の由来は、名前の通り白い毛の生えたほっぺたです。
しかしこのような色をしているのはオスだけで、メスは頭にちょこんと生えた黒い毛とクリーム色の体をしています。
そんな外見における性差が著しいキタホオジロテナガザルですが、実は赤ちゃんはクリーム色の体で生まれます。
そして、成長すると毛は一度黒くなります。
さらにそこから大人になると、オスは白い毛がほっぺたに生え、メスはもう一度クリーム色に戻るのです。
面白いですね。
行動
キタホオジロテナガザルは、先述のように1匹ずつのオスとメスと2~4匹ほどの子どもから成る群れを作ります。
子供は6歳ほどで群れを離れ、異性を見つけます。
繁殖
性成熟には、メスが5~8歳、オスが7歳ほどで達し、7カ月の妊娠期間を終えてメスは1匹の赤ちゃんを産みます。
生まれた赤ちゃんは、2年ほどで離乳します。
人間とキタホオジロテナガザル
絶滅リスク・保全
キタホオジロテナガザルは、現地で食料として、また伝統的な薬として狩猟の対象になっています。
それに人間による生息地の破壊などが加わり、そのために彼らの個体数は減り続けています。
レッドリストでは、最も絶滅が危険視される絶滅危惧ⅠA類に指定されています。
動物園
そんなキタホオジロテナガザルですが、日本では、大分県の別府ラクテンチで会えるようです。
彼らの歌は日本では聞けないということなので、代わりにマライア・キャリーの曲でも聞いておきましょう。