ヨーロッパヤマネの基本情報
英名:Hazel Dormouse
学名:Muscardinus avellanarius
分類:齧歯目 リス型亜目 ヤマネ科 ヨーロッパヤマネ属
生息地:アルバニア、オーストリア、ベラルーシ、ベルギー、ボスニアヘルツェゴビナ、ブルガリア、クロアチア、チェコ、デンマーク、エストニア、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、イタリア、ラトビア、リトアニア、モルドバ、モンテネグロ、オランダ、北マケドニア、ポーランド、ルーマニア、ロシア、セルビア、スロバキア、スロベニア、スウェーデン、スイス、トルコ、ウクライナ、イギリス
保全状況:LC〈軽度懸念〉

参考文献
ヨーロッパのヤマネ
日本にも(ニホン)ヤマネが生息するヤマネ科は、アフリカとユーラシアに分布しており、約30種が知られています。
齧歯目の中ではリスに近いヤマネ科の起源はヨーロッパにあります。
5,500万~5,000万年前、ヤマネ科はリス科から分岐したとされています。
始新世(約5,600万~約3,400万年前)に誕生したヤマネ科は、続く漸新世(約3,400万~約2,300万年前)を生きのび、中新世(約2,300万年前~約530万年前)に入るとさらに分岐を加速させ、特にヨーロッパでは100種ものヤマネがこの時代を生きていました。
しかし、中新世も後期になると、ネズミ科のヨーロッパへの侵入や気候変動などの影響で、数々のヤマネ科の種が絶滅します。
それすら生きのびたヤマネが今を生きるヤマネの祖先となっています。
現生のヤマネは、このような1,000万年以上の歴史を持つ、どれも古い系統なのです。

さて、そんな中、約2,000万年前に誕生したとされるヨーロッパヤマネ属の現生種が、ヨーロッパヤマネです。
ヨーロッパヤマネは、その名の通りヨーロッパに広く分布しますが、イベリア半島には不在です。
彼らの学名”Muscardinus avellanarius”は、「ハシバミの森にすむ小さなネズミ」を意味します。
ハシバミとは英語で”hazel”、ヘーゼルナッツのヘーゼルです。
英名にもこの名が見られるように、彼らはハシバミが生える森で暮らし、ハシバミがつける実であるヘーゼルナッツが大好きです。
再び英名に注目しましょう。
“dormouse”とは「ヤマネ」を指しますが、この言葉はもともと「眠るネズミ」を意味します。
動物であれば眠らないものはいませんが、わざわざこのような名前が付けられたということは、彼らは相当眠るということ。
実際、ヤマネは冬眠をすることで、他の動物よりも断然多く眠っています。
ヨーロッパヤマネの冬眠は10月ごろから翌年の4月~5月まで続きます。
彼らは地上のくぼみや落葉の下などに直径9㎝程度の球形の巣を作り、そこで冬眠します。
巣はスギなどの樹皮や枯れ葉、草でできていて湿っています。
ヨーロッパヤマネの活動時の体温は34~36℃ですが、冬眠中にはそれが環境の温度と連動し、最低0℃近くまで落ちます。
そのため、温度変化が少ないところが冬眠の場所として好まれます。
特に積雪は巣の内部を0℃に保つため重要な要素です。
こうした長期間の冬眠に加え、夜行性であることも彼らが「眠るネズミ」と呼ばれる理由かもしれません。
日中、彼らは冬眠の巣とは異なり、樹上2m程度のところに作った巣で眠ります。
日中活動する人間の目には、彼らは四六時中眠る動物に映ることでしょう。
ルイス・キャロルの児童小説『不思議の国のアリス』では、狂ったお茶会に眠ってばかりのヤマネが登場します。
ルイス・キャロルもきっと、眠ったヤマネしか見たことがなかったのでしょう。

ヨーロッパヤマネの生態
生息地
標高1,920mまでの、下生えが豊富な低木林や若い林、落葉樹林、混交林などに生息します。
イタリアのシチリア島やイギリスのワイト島、ギリシャのケルキラ島などの島嶼にも分布します。
形態
体長は6.5~9.1㎝、体重は15~30g、尾長は5.7~8.6㎝で、尾には房毛が生えています。
ネズミ科では臼歯が片側に3本ずつですが、ヤマネ科では片側に4本ずつ生えます。

食性
果実や種子、芽、花粉、蜜、昆虫、鳥の卵などを食べます。
噛む力が比較的弱いので、クルミなどの硬いものは食べられません。
リスに見られる貯食行動は見られません。
捕食者にはフクロウなどの猛禽類やアカギツネが知られています。

行動・社会
単独性で、オスは特に繁殖期、なわばり性が強くなります。
行動圏はオスが1ha、メスが0.8haほどで、特にメスの行動圏は他のメスのそれと重複しません。
6.5~52.1kHzの音声を6種類出すことが知られており、うち5種は超音波です。
特に幼獣は超音波で盛んに鳴きます。
暖かいところでは冬眠せず年中繁殖が見られる場合もあります。
メスは複数のオスと交尾します。
また、出産後5~12日で交尾するメスもいます。
繁殖
冬眠明けの5月ごろから9月に繁殖が行われます。
メスは年に最大2回出産可能です。
妊娠期間は22~28日で、一度に通常3~4匹、最大7匹の赤ちゃんが繁殖巣に生まれます。
繁殖巣はトウヒなどの樹上に作られ、長さ10㎝程度になります。
生後18~20日で赤ちゃんは目を開き、その後離乳、生後5週ごろ独立していき、翌年から繁殖を始めます。
寿命は野生で約3年、飼育下では最大6年です。

人間とヨーロッパヤマネ
絶滅リスク・保全
広い分布域を持つヨーロッパヤマネは、現在のところ絶滅はあまり心配されていません。
IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。
ただ、イギリスやオランダ、スウェーデン、ドイツ、デンマークなど分布域の北部では、都市化や農地化による生息地の破壊、分断などにより減少傾向にあるとされています。
特にイギリスでは21世紀になってから、個体数が3分の2以上減少したと推測されています。
Muscardinus avellanarius | The IUCN Red List of Threatened Species
動物園
日本でヨーロッパヤマネを見ることはできませんが、日本固有種のヤマネは日本の野生やいくつかの動物園で見ることができます。


