スウィフトギツネの基本情報
英名:Swift Fox
学名:Vulpes velox
分類:イヌ科 キツネ属
生息地:アメリカ合衆国、カナダ
保全状況:LC〈軽度懸念〉
スウィフトなキツネ
スウィフトギツネのスウィフト(swift)とは、英語で“速い”を意味します。
決して歌手のテイラー・スウィフトとは関係ありません。
スウィフトギツネはその名の通り、非常にすばしっこいです。
時速50kmで走ることができ、最高時速は60kmにも達します。
スウィフトですね。
足の速さだけでなく、個体数の増減のスピードもスウィフトです。
19世紀まで、スウィフトギツネは、北米のプレーリー150万㎢にわたる広範囲にたくさん生息していました。
しかし、20世紀前半、主にハイイロオオカミやコヨーテを狙った個体数操作の影響で、数を激減させます。
その結果、カナダでは1938年に絶滅したとみられ、アメリカでもモンタナやノースダコタ、ネブラスカ、オクラホマなどで絶滅したと考えられるまでになりました。
しかし、20世紀後半から、スウィフトギツネの個体数は回復に向かい始めます。
カナダでは、1980年代初頭から再導入プログラムが実施されるようになりました。
1996年にはアルバータとサスカチュワンに540頭が再導入され、1997年までに合計942頭が再導入されています。
この結果、2000~01年の個体数調査では、1996~97年の個体数調査時よりも3倍多くスウィフトギツネが確認されました。
遺伝的多様性も十分に高まっており、この再導入プログラムは世界で最も成功したものの一つとして知られています。
アメリカでも、ノースダコタなどで再び彼らを見ることができるようになりました。
とはいえ、それでもかつての繁栄ほどではなく、スウィフトギツネの現在の分布域は、カナダでかつての3%、アメリカで44%です。
いくら彼らがスウィフトに増えても、繁栄を取り戻すにはまだ時間がかかるかもしれません。
スウィフトギツネの生態
生息地
スウィフトギツネは、北米中部、カナダのアルバータとサスカチュワン南部からアメリカ合衆国のニューメキシコとテキサスにかけて、草の丈が短いプレーリーなどに生息します。
食性
雑食性で、オグロジャックウサギやプレーリードッグ、ジリスなどの哺乳類、鳥類、バッタや甲虫などの昆虫、両生類、魚、草やベリーなどの植物質、死肉を食べます。
機会的捕食者で、食物を巣に貯蔵することが知られています。
一方、捕食者にはコヨーテやアメリカアナグマ、ボブキャット、猛禽類がいます。
特にコヨーテは彼らの死因の20~90%と多くを占めています。
形態
体長は38~53㎝、肩高は約30㎝、体重は1.6~3㎏、尾長は22~35㎝で、オスの方が大きくなります。
キットギツネとは似たような姿をしていますが、毛色が若干違います。
このキットギツネとは交雑もし、かつては同種と考えられていました。
行動
スウィフトギツネは、主に夜行性ですが、日向ぼっこをするなど日中活動することもあります。
普段は自分で掘ったり、アナグマやプレーリードッグが残したものを改造したりした巣穴で暮らします。
巣穴は長さ4m、深さ1mほどで、出入り口が1~4つあります。
巣穴は生活の拠点であるだけでなく、捕食者から隠れるために重要です。
彼らは行動圏内に巣穴をいくつかもち、巣穴間の移動は少なく、同じ巣穴を何度も利用します。
巣穴は道路の近くに作られることも多く、一部の地域で交通事故は彼らの死因の約4割を占めることもあります。
スウィフトギツネは、主にペア型の社会を作りますが、1頭のオスと2頭のメス、2頭のメスと1頭のオスというようなトリオも観察されています。
ペア同士の行動圏はほとんど重複している一方、隣接するペアとはほとんど重複していません。
行動圏は平均8~32㎢で、メスは常に行動圏を維持する一方、オスはメスが死んだりしていなくなると、移動することがあります。
生息密度は1㎢に0.2~1.1頭で、コヨーテの生息密度と負の相関があるようです。
繁殖
繁殖には季節性があり、交尾は12月~2月、北部では3月まで行われます。
妊娠期間は約50日で、1度に2~6頭、通常4~5頭の赤ちゃんが産まれます。
赤ちゃんは生後10~15日で目を開き、1カ月で巣穴から出るようになります。
生後6~7週には離乳し、メスは約5カ月、オスは約9カ月で大人のサイズになります。
生後半年になる頃には独立して巣を離れます。
オスは1年目から繁殖をしますが、メスは2年目からになることが多いようです。
出産間隔は約1年、寿命は野生下で3~6年、飼育下では最長14年です。
人間とスウィフトギツネ
絶滅リスク・保全
スウィフトギツネは、先述のように、かつてと比べると生息地は狭くなっており、生息地の農地への転換や交通事故などの脅威にも直面しています。
しかし、個体数は全体的に安定しており、現在のところ絶滅は危惧されていません。
レッドリストでも、軽度懸念で登録されています。
動物園
そんなスウィフトギツネには、残念ながら日本の動物園では見ることができません。
彼らがスウィフトに走り、赤ちゃんがスウィフトに成長していく過程を、ぜひ直接見てみたいものです。