書籍情報
書名:ツキノワグマのすべて
著者:小池伸介(東京農工大学大学院農学研究院准教授)
発行年:2020年
出版社:文一総合出版
価格:1,800円(+税)
ページ数:126ページ
■目次
Part1 ツキノワグマの身体
Part2 ツキノワグマの生活
Part3 ツキノワグマのフィールド
Part4 ツキノワグマがわかる!Q&A
ツキノワグマのすべてを知る
この本の冒頭20ページは、写真家・澤井俊彦が撮るツキノワグマの写真から始まります。
ツキノワグマがどのような暮らしを送っているのか、この写真を見るだけで分かってしまいそうです。
この本の特徴と言えば、圧倒的な写真量。
手足の写真、骨格の写真、18枚の月の模様だけの写真、10ページ以上にわたる食物の写真、小型の記録計をつけたツキノワグマの一日が分かる写真、背こすりの写真、足跡の写真、20枚以上の食物ごとの糞の写真、食痕の写真、休息場所の写真、クマ剥ぎ(熊は主に針葉樹の樹皮を剥ぎ、形成層を接触する)の写真、40枚近くの爪痕が残った種々の樹木の写真、冬眠穴の写真。
言葉なくともオールカラーの写真だけで、ツキノワグマのすべてが分かった気になります。
しかし、写真だけでなく、言葉も豊富なのがこの本の素晴らしい所。
言葉による説明は、写真の力もあって、とりわけ分かりやすくなっています。
しかし、内容は専門性を保っています。
特にPart4の「ツキノワグマがわかる!Q&A」では、「冬眠中に筋力は落ちないの?」、「冬眠中に骨粗鬆症にならないの?」、「着床遅延ってなんのこと?」、「ツキノワグマはどれくらい食べるの?」というような、興味をそそる18の質問と言葉による説明中心の回答を通して、ツキノワグマについて詳しく知ることができます。
また、巻末の「用語の解説」では、「性的二形(型)」、「発情」、「幼期分散」などの言葉が解説されているため、さらに知識を深めることができます。
専門書となると、どうしても色や写真が少なくなり、動物たちの生活がイメージしにくくなりがちです。
かといって、分かりやすい子ども向けの本となると、逆に物足りなくなってしまいます。
本書は、専門的な知識も紹介しつつ、豊富な写真でツキノワグマという動物を分かりやすく、かつ詳しく教えてくれる、稀有な本だと思います。
近年、死亡事故が取り上げられることなどにより、ツキノワグマは猛獣といったイメージが蔓延しています。
しかし、それには様々な背景があります。ツキノワグマと共存していくためには、彼らを理解することが最も重要です。
本書はその助けとなる、最適な本ではないでしょうか。
最後に一つ、クイズを出しましょう。ツキノワグマは英語では“Asiatic Black Bear”つまり、「アジアのクロクマ」と呼ばれることが一般的ですが、和名のように胸の三日月模様を言い表した“Moon Bear”、「月のクマ」と呼ばれることもあります。
一方、クマ科の中には“Sun Bear”、「太陽のクマ」と呼ばれるクマがいます。
そう呼ばれる理由は本書を読むと分かるのですが、果たしてこの太陽のクマとはどのクマのことでしょう。
タイトル通り、ツキノワグマのすべてが分かるツキノワグマ図鑑とでも言うべき本書。
是非手に取ってページを開いてみてください。