ヨーロッパミンクの基本情報
英名:European Mink
学名:Mustela lutreola
分類:イタチ科 イタチ属
生息地:フランス、ルーマニア、ロシア、スペイン、ウクライナ、エストニア
保全状況:CR〈絶滅危惧ⅠA類〉
アメリカミンクという脅威
ヨーロッパミンクは、19世紀の生息地の85%以上から姿を消しており、20世紀の個体数と比べると、90%以上も減少していると言われています。
彼らはヨーロッパに生息する哺乳類の中でも特に絶滅が懸念されており、IUCNのレッドリストで絶滅危惧ⅠA類という最も厳しい評価を与えられています。
彼らがこれほどまでに数を少なくしたのには、いくつか理由があります。
一つ目は過度な狩猟です。
半水生のミンクの毛皮、特に冬毛は非常に密で厚く、商業的価値が昔からありました。
1900年代初頭のソ連では、平均5万頭ものミンクが、その毛皮のために狩猟されていたようです。
二つ目は、生息地の破壊です。
多くの生き物が、人間による生息地の破壊に苦しめられていますが、ヨーロッパミンクも例外ではありません。
しかも、ヨーロッパミンクは半水生であるため、水陸どちらの環境変化の影響も受けます。
新鮮な水と十分な植生を必要とする彼らが、人間の活動による環境変化に脆弱であることは容易に想像がつきます。
三つ目、彼らを絶滅の危機に陥れる特に重要な要因が、アメリカミンクの存在です。
アメリカミンクは、1900年代初頭、価値の高い毛皮の生産のためにアメリカからヨーロッパの毛皮農場に持ち込まれました。
そこから逃げたアメリカミンクが、ヨーロッパミンクを各地で駆逐していったのです。
アメリカミンクもヨーロッパミンクも、どちらも似たような生態的位置(ニッチ)にありますが、アメリカミンクの体の方が大きいです。
強い方が勝つのは、どの世界でも一緒。
毛皮目的の狩猟、生息地の破壊という他の要因と絡み合いながら、野生化したアメリカミンクという新たな脅威が、ヨーロッパミンクにさらに追い打ちをかけていきます。
その結果ヨーロッパミンクは、オーストリアやドイツ、ポーランド、オランダ、フィンランドなどなど、かつての生息地からすっかりいなくなってしまいました。
人間のせいで同じミンクであるアメリカミンクから駆逐されることになってしまったヨーロッパミンク。
かわいそうで仕方ありません。
ヨーロッパミンクの生態
生息地
ヨーロッパミンクは、川や湖の岸沿いの、植生がある所で生活します。
水が流れる場所から100m以上離れて見られることは稀です。海抜0~1,120mで観察記録があります。
食性
ヨーロッパミンクは、ネズミなどの小型哺乳類、鳥類、両生類、甲殻類、魚類、昆虫などを食べます。
主に嗅覚を使って狩りをし、取りすぎた獲物を隠すこともあります。
形態
体長はオスが37~43㎝、メスが35~40㎝、体重は450~800g、尾長は15~20㎝で、性的二型が見られます。
手足には不完全な水かきがあり、水中での移動に役立っています。
よく似たアメリカミンクとは、大きさの他、上唇の白い模様の有無で区別がつきます。
行動
単独性のヨーロッパミンクは、夜明け前と夕方に最も活発になります。
休息は、齧歯類が残した穴や、木の根っこの隙間などにつくった巣穴でとります。
行動圏は岸に沿っており、200~2,000mほどあります。
繁殖
交尾は2月~3月、出産は4月~5月に行われます。
妊娠期間は35~70日で、約7㎝、7~8.5gの赤ちゃんが2~7頭、通常4~5頭産まれます。
赤ちゃんは生後4週で目を開き、生後10週までに離乳します。
その後2.5~4カ月齢で独立し、約1歳で性成熟に達します。
寿命は飼育下で約8年です。
ヨーロッパミンクはヨーロッパケナガイタチと交雑することが知られています。
人間とヨーロッパミンク
絶滅リスク・保全
ヨーロッパミンクの個体群が存続できる可能性が最も高いのは、ルーマニアの世界自然遺産、ドナウデルタです。
デルタとは三角州のことで、ドナウデルタは人の手があまり入っていないことで知られています。
現在、ドナウデルタに生息するヨーロッパミンクは、1,000~1,500頭と推測されています。
絶滅が危惧されるヨーロッパミンクを守るために、ヨーロッパミンクの保全、繁殖、再導入が計画、実施されたり、アメリカミンクの駆除が行われたりしています。
これらがどのような結果になるかは分かりませんが、ヨーロッパミンクにとっていい方向に進むことを祈るばかりです。
動物園
そんなヨーロッパミンクですが、残念ながら日本の動物園では見ることができません。
ただ、アメリカミンクには北海道の旭山動物園で見ることができるようです。
彼らに会った際には、是非ヨーロッパのミンクの方も思い出してあげてください。