書籍情報
書名:ヒグマ大全
著者:門崎允昭(農学博士、北海道野生動物研究所所長)
出版社:北海道新聞社
発行年:2020年
価格:2,200円(+税)
ページ数:271ページ
■目次
第1章 身体
第2章 繁殖・成長・寿命
第3章 行動と習性
第4章 食性
第5章 札幌圏の自然環境とヒグマ
第6章 ヒグマによる人身事故
第7章 人との共存を目指して
第8章 アイヌ民族とヒグマ
ヒグマの記録集
日本には、北海道にのみ生息するヒグマ。
本書は、筆者が半世紀もの長い間、研究してきた北海道に生息するヒグマについての「大全」です。
本書の特徴は、まずその細かで膨大な記録です。
そしてそれらをもって、食性や行動、形態といったヒグマの生物的側面だけでなく、人との関わりといった文化的側面をも描いていることです。
本書の前半では、ヒグマがどのような動物であるかが、具体的な観察記録も交えながら詳述されます。
写真も要所要所に登場するので、ヒグマがどんな生活をしているのか、想像が膨らみます。
観察記録は、筆者によるものだけに留まりません。
猟師やヒグマに遭遇した人たちによる観察記録が、事細かに記載されます。
中には江戸時代や明治時代の記録も少なからず出てくるので、驚きです。
本書の後半は、人との関わりに焦点を当てながら、ヒグマについて語ります。
第6章では、ヒグマによる人身事故、その例がいくつも取り上げられます。
何時に、どこで、何をしていた時にクマに襲われたか、事故はこのように詳しく記載されます。
中には死亡事故も多数含まれているので、ヒグマの恐ろしさを嫌というほど思い知らされますが、本書を読み進めていくと、同時にそれは避けられた可能性があったことも学ぶことができます。
本書は、筆者が「1頭でも捕殺を少なくしたいというのが私の願いであり、本書がそれに寄与できればと思う(あとがきより)」と述べるように、人とヒグマの共存を目指して書かれたものです。
人との軋轢があるがゆえに、年間1,000頭近く殺されることもあるヒグマと、どのように付き合っていけば良いか。
どのような対策をすれば、人、ヒグマ共に傷つかないで済むか。
本書を読めば、こういったことがよく分かるのではないかと思います。
最後の章では、ヒグマを「カムイ」として崇めるアイヌが登場します。
アイヌの生活は、「クマ送りの儀礼(イヨマンテ)」などに見られるように、ヒグマと密接に関わっています。ア
イヌがどのようにクマと共存してきたか、その記録は本書で最も印象的です。
アイヌの方法が我々の目指すべきものなのかは分かりませんが、私たちとは違うヒグマ観、そして彼らのヒグマとの付き合い方は非常に興味深いです。
ヒグマに関する記録を集め、ヒグマとどのように付き合っていけば良いかを模索する本書を読むことで、日本とは決して人だけの土地ではないことを実感します。
是非ご一読を。