エチオピアオオカミの基本情報
英名:Ethiopian Wolf
学名:Canis simensis
分類:イヌ科 イヌ属
生息地:エチオピア
保全状況:絶滅危惧ⅠB類〈EN〉
最も稀少なイヌ科動物
エチオピアオオカミは、かつてはエチオピアジャッカルなどと呼ばれていましたが、近年の分子研究により、実はオオカミにより近いことが分かりました。
このアフリカのオオカミですが、長らく危機的な状況にあり、現在、最も絶滅に近いイヌ科動物と言われています。
現在、エチオピアオオカミは世界遺産であるシミエン国立公園のあるシミエン高地(属名“simiensis”の由来)を含め、エチオピアに点在する6つのエリアにしか生息していません。
彼らが生息するエリアは少なくなる一方で、ここ10年で2つ地域の個体群が消滅しています。
個体数に関しては、すべて合わせても500頭以下と推測されており、その半分以上である約300頭が、バレ山国立公園があるバレ山脈に生息しています。
エチオピアオオカミがこれほどの危機に陥っている原因はいくつかあります。
一つは人間による迫害です。
今でこそほとんどなくなりましたが、かつてエチオピアオオカミは家畜を襲う害獣として、人間により殺されていました。
特にエチオピア革命の時のような武器が手に入りやすい時期は沢山殺されたと言います。
しかし、ジャッカルなどと比べると、エチオピアオオカミが家畜を襲うことはほとんどなく、これらは不当な迫害であったと思われます。
この人間による迫害により、ある地域(Mt.Choke)では、個体群が消滅してしまったと考えられています。
もう一つ、人間による農地の開拓もエチオピアオオカミにとっては大きな脅威です。
彼らの生息地は年間1,000~2,000㎜の雨が降り、土壌も肥沃であるため、人間にとっても魅力的です。
大麦やジャガイモなどは標高4,000mの森林限界より高い所でも育つため、農地は標高が高い所まで広げられ、現在標高3,200m以上の土地の内、60%が農地となっています。
このように人間が農地を広げた結果、エチオピアオオカミは標高が高い所に追いやられました。
20世紀初頭には、標高2,500m付近でもエチオピアオオカミを見ることができましたが、現在彼らの生息地は標高3,000m以上に限られています。
エチオピアオオカミにとって最も大きな脅威は、犬ジステンパーなどの病気です。
特に狂犬病は彼らの命に直接影響します。
バレでは、1991年、2003年、2008年、2014年に狂犬病の流行がありましたが、これにより最大75%も個体数が減ったと言います。
狂犬病は飼い犬(イエイヌ)から伝染します。
エチオピアオオカミと飼い犬の接触は珍しくないようで、エチオピアオオカミのメスと飼い犬のオスとの交雑種がいくつも報告されているほどです。
このように様々な脅威にさらされた結果、数を減らしているエチオピアオオカミですが、この状況を変えようと彼らの保全を目指す活動もあります。
それがEWCP(Ethiopian Wolf Conservation Programme:エチオピアオオカミ保全プログラム)です。
彼らは約30年にわたってエチオピアオオカミのモニタリング、研究を続け、交雑種の断種や地域での教育活動、公園のパトロールなども行ってきました。
特筆すべきは狂犬病のワクチン接種事業です。
彼らはエチオピアオオカミへの伝染を防ぐため、毎年数先頭の飼い犬に狂犬病ワクチンを接種しています。
さらに最近では、経口ワクチンを肉に仕込むことで、エチオピアオオカミに直接接種することにも成功しています。
エチオピアオオカミは、最高次の捕食者として生態系の維持において重要な役割を果たしています。
エチオピア高地の生態系(アフロアルパイン生態系という)を維持するために、エチオピアオオカミを守る、そんな活動をするEWCPを応援するばかりです。
エチオピアオオカミの生態
生息地
エチオピアオオカミは、エチオピアの固有種で、標高3,000~4,400mの草原などに生息します。
寒い時には氷点下になりますが、巣穴で寝ることはありません。
食性
彼らは齧歯類に特化したハンターで、特にエチオピアオオタケネズミが食物の大半を占めます。
そのため、彼らは集団で生活しますが、採餌は単独で行います。
下の動画では、彼らの狩りの様子を見ることができるので是非ご覧下さい。
形態
体長はオスが93~101㎝、メスが84~96㎝、肩高は45~60㎝、体重はオスが16㎏前後、メスが13㎏前後、尾長は27~40㎝で、オスの方が大きくなります。
行動
エチオピアオオカミは、昼行性で、3~20頭(平均6頭)からなるパックと呼ばれる群れを作ります。
群れには序列があり、オスは変動する一方、メスの順位は変動しません。
メスが死んだ場合、その順位は娘に引き継がれます。
ただ、メスは成長するとほとんど群れを離れます。行動圏は4~15㎢で、なわばりを持ちます。
なわばりはにおいと音声によってマーキングされます。
音声コミュニケーションには、アラームコールやグリーティングコールなどがあり、吠えることで長距離コミュニケーションをとります。
繁殖
繁殖には季節性があり、8月~11月にかけて交尾が行われます。
優位なオスとメスだけが繁殖しますが、他の個体がパック外の個体と繁殖することもあります。
発情すると優位メスはにおいづけ行動の頻度が増し、優位オスへのえさをおねだりするようになります。
劣位個体への攻撃も増えます。
交尾期間は3~5日、交尾時間は約15分です。
妊娠期間は60~62日で、10月~1月にかけて、2~6頭の赤ちゃんが岩の間などに作られた巣穴に産み落とされます。
赤ちゃんは生後3週で大人の毛色をし始めるようになり、巣からも出始めます。
4週までは母乳に依存し、母親ではないパックの劣位メスたちも授乳します。
劣位メスが授乳できるのは、妊娠しているからか、我が子を亡くしたか、もしくは見捨てたからだと考えられます。
生後5~10週には固形物も食べるようになり、その後は完全離乳します。
えさは1歳までパックのメンバーからもらえます。
2歳になると大人と同じ大きさになり、性的に成熟します。
寿命は野生下で8~10年です。
人間とエチオピアオオカミ
保全状況
エチオピアオオカミは、先述のように様々な脅威にさらされており、絶滅の危機に瀕しています。
成熟した個体は250頭ほどと推測されており、今のところ確認されていない近親交配による近交弱勢や遺伝的多様性の低下なども懸念されています。
レッドリストでは絶滅危惧ⅠB類に指定されています。
動物園
そんなエチオピアオオカミですが、残念ながら日本の動物園では見ることができません。
それどころか、彼らを飼育している施設は世界のどこにもないため、彼らを見るには現地に行くしかないようです。
幸いなことに、現地を訪れる日本の旅行会社のツアーもあるようなので、是非探してみてください。