コアラの基本情報
英名:Koala
学名:Phascolarctos cinereus
分類:コアラ科 コアラ属
生息地:オーストラリア
保全状況:VU〈絶滅危惧Ⅱ類〉
参考文献
ユーカリ食‐コアラが20時間も寝る理由
コアラはユーカリを食べることに特殊化した哺乳類です。
ユーカリは栄養に乏しく、繊維質で毒性もあります。
このような低質の食物を、コアラはどのようにしてエネルギーに変えているのでしょうか。
最も大きな役割を果たしているのは、その巨大な盲腸です。
6~7㎝の人間の盲腸と比べると、コアラの場合は2mと超巨大。
盲腸は消化管全長の4分の1を占め、コアラの体長に対する盲腸の長さは、哺乳類最長になります。
コアラはウシの胃のように、盲腸を発酵タンクとして利用しています。
ここに細菌を無数に住まわせて、彼らにユーカリを発酵してもらうのです。
また、細菌はユーカリの毒素も分解してくれます。
加えて、盲腸が長いため食物は200時間ちかくをかけてここを通ります。
このように細菌に手伝ってもらって長い盲腸でユーカリを消化するコアラですが、それでも吸収できるエネルギーは4分の1以下です。
つまり、摂取できるエネルギーが依然として少ないのです。
そこで彼らは約20時間も寝るという戦略を取ります。
出ていくエネルギーを極力抑え、消化に回すのです。
さらに、コアラは代謝が低く、そのため摂取するエネルギー量は抑えられ、食物はより長く消化管に留まるので、消化効率が上がります。
つまり、コアラは非常に省エネな動物なのです。
面白いことに、コアラは意外にも比較的小さく、しわの少ない脳を持ちます。
エネルギーを特に使う脳みそが小さいと言うことは、エネルギー消費が小さいと言うことです。
また、一般的に哺乳類の体温は40~43度と言われていますが、コアラは36.6度と低体温です。
このことも彼らの省エネ戦略に貢献していると考えられています。
省エネな体と生態、そして特殊な盲腸。
これらを進化の上で獲得することができたコアラは、どこにでもあるけれどエサとしては質の低いユーカリを、ほとんど独占的に利用することができ、今日まで生き延びることができています。
コアラの生態
名前
ヨーロッパ人がオーストラリアにやってきた当初、コアラはクマのなかまだと思われ、“Koala bears”と呼ばれていました。
これは学名にも反映されています。
属名のPhascolarctosは袋を意味するphaskolosとクマを意味するarktosというギリシャ語に由来します。
生息地
コアラは、オーストラリアの東沿岸部に生息します。
ユーカリが多くを占める森林やウッドランドで暮らします。
形態
体長は60~85㎝、体重は4~15㎏でしっぽはありません。
オスの方がメスよりも大きく、北方よりも南方の個体の方が大きい傾向にあります(ベルクマンの規則)。
北方のオスは南方のメスと同等かやや小さいぐらいです。
コアラの手は第1指と第2指が他の3本の指と向かい合っており、枝をつかみやすくなっています。
また、足は唯一かぎ爪の生えていない親指が他の指と向かい合っています。
また、第2趾と第3趾は癒合しています。
コアラには指紋があり、個体識別が可能です。
食性
コアラは700種類近くあるユーカリの内、数十種類しか食べません。
日常的に食べる種は2~3種で、毒性の弱いものを嗅覚を用いて選択的に食べます。
コアラは1日に500~1㎏ほどの植物を食べます。
ユーカリ以外の植物も食べます。
行動・社会
コアラは主に夜行性で単独性です。
ホームレンジは他個体と重複し、ホームレンジ内には頻繁に訪れる木(ホームツリー)があります。
繁殖期を除き、他個体のホームツリーを訪れることは稀です。
特にオスは胸のあたりの発達した臭腺(オスはこの部分が茶色い)で、木々ににおいを付けたり、かぎ爪で引っかいたりして自分の存在をアピールします。
コアラは一日に18~22時間も睡眠しますが、これはユーカリに酔っているからとかつて思われていたそうです。
繁殖
コアラの繁殖は8月~2月に行われます。
繁殖時の行動は雌雄とも攻撃的な場合が多いようです。
妊娠期間は約1カ月。約2㎝、1g未満の未熟な赤ちゃんが1頭産まれます。
赤ちゃんはメスの後方に開いた育児嚢で育てられます。
生後6~7カ月までは袋の中だけで育ちます。
袋から出る前の数週間は、母親が出すパップと呼ばれる糞を食べます。
これは通常の乾いた糞と異なり、柔らかい糞です。
子供はそれを食べて母乳からユーカリ食へ移行するとともに、親の腸の細菌叢を受け継ぎます。
性成熟は2歳ごろ、1~2歳で子どもは母親の元を離れます。
メスは1~3年スパンで子どもを産みます。寿命は野生下で10~15年です。
人間とコアラ
保全
ヨーロッパ人の定住後、コアラの生息地は8割が失われ、また、19~20世紀にかけては毛皮目的で年間100万頭以上が殺されたこともあります。
現在も、生息地の破壊、森林火災、クラミジアなどの病原菌、気候変動、イヌによる襲撃、ロードキルの影響によりコアラの個体数は減少中で、10万頭未満と推測される場合もあります。
IUCNのレッドリストでは、絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。
オーストラリア全土でも絶滅危惧種に指定されています。
このような状況に対し、AKS(Australian Koala Foundation)などのNPOが保全に尽力しています。
動物園
日本でもおなじみのコアラですが、彼らに会える動物園は少ないです。
埼玉県こども動物自然公園、東京都の多摩動物公園、神奈川県の横浜金沢動物園、愛知県の東山動物園、兵庫県の王子動物園、淡路ファームパーク、鹿児島県の平川動物公園がコアラを飼育・展示しています。
ほとんどの動物園が北方のコアラを飼育している中でも、淡路ファームパークでは南方のコアラを見ることができるようです。