ケナガアルマジロの基本情報
英名:Screaming Hairy Armadillo
学名:Chaetophractus vellerosus
分類:被甲目 アルマジロ科 ケナガアルマジロ属
生息地:アルゼンチン、ボリビア、チリ、パラグアイ
保全状況:LC〈経度懸念〉
叫ぶアルマジロ
アルマジロとはスペイン語で「鎧を着た小さいもの」という意味。
鎧のような硬い甲羅が特徴的ですが、ケナガアルマジロは完全に丸まることができないアルマジロの一種です。
ケナガアルマジロという名前の通り、腹側は長い毛で覆われており、甲羅側にもその隙間から毛が生えています。
英名にある“Hairy”もこの毛深い様子を指しています。
英名にはこの“Hairy”の前に、もう一つ“Screaming”という単語があります。
これは「叫ぶ」という意味ですが、どういうことなのでしょう。
じつはケナガアルマジロは叫ぶことで知られています。
彼らは捕食者や人間などにつかまったとき、まるで赤ちゃんのような鳴き声で叫ぶのです。
アルマジロには、骨でできた鎧のような甲羅や、逃げ隠れる巣穴などと言った防御手段がありますが、ケナガアルマジロはそれらが通用せず捕まった最終段階で叫びます。
叫ぶことで相手を驚かせたいのか、それとも助けを呼んでいるのか、はたまた断末魔の叫びなのか。
彼らがなぜ叫ぶのかはわかりませんが、叫ぶことは彼らのユニークな特徴です。
ところで、音に関してケナガアルマジロには語るべきことがあります。
ケナガアルマジロは、個体数は安定しているとされ絶滅は懸念されていないものの、彼らの生存を脅かしかねない脅威がいくつか存在します。
その一つが狩猟です。
彼らの肉は重要なタンパク源として消費されます。
また、骨でできた甲羅は工芸品などに使用されます。
特筆すべきは楽器です。
特にボリビアの一部地域では、ケナガアルマジロの甲羅がチャランゴと呼ばれる弦楽器の胴体に使われたり、マラカスに使われたりしています。
ケナガアルマジロは楽器になっても叫び続けているのかもしれません。
ケナガアルマジロの生態
分類
かつて別種として存在していたペルーケナガアルマジロは、形態学的、分子学的研究の結果、今ではケナガアルマジロとは同種とされています。
生息地
ケナガアルマジロは標高4,600mまでの乾燥したサバンナなどに生息します。農地などでも見られますが、穴が掘れない岩場にはいません。
アルゼンチンのブエノスアイレスの個体群は、他と隔離されており、他の個体群の生息地からは500㎞も離れています。
形態
体長は20~30㎝、体重は0.6~1.2㎏でムツオビアルマジロ亜科の中では最小となります。
耳は体の大きさの割に大きく、3㎝ほどになります。
甲羅を構成する動く帯は6~8あります。
骨盤当たりの甲羅には1~2つの小さな隙間があり、臭腺から出るにおいが分泌されます。
食性
肉食傾向が強い雑食性である彼らは、甲虫やチョウなどの幼虫をよく食べます。
このほか、植物質のものや小型脊椎動物なども食べます。
夏には昆虫の消費が増え、冬には植物の消費が増えるようです。
乾燥地域に生息する彼らはあまり水を飲む必要がなく、尿は非常に濃いです。
行動・社会
単独性の彼らは寒い季節は日中活動し、暑い季節は夜間に活動することが多くなります。
行動圏は0.2~5haで、行動圏内に自分で掘った巣穴を持ちます。
巣穴は最長深さ2mにもなります。
繁殖
季節繁殖をする彼らは、9月~11月にかけて交尾をします。
メスは約2カ月の妊娠期間ののち、1~2匹の赤ちゃんを巣穴に産みます。
赤ちゃんは生後1ヵ月までに目を開き、生後2ヵ月で離乳します。
その後生後11ヵ月ごろ性成熟に達し、独立します。
寿命は野生では6~10年とされています。
人間とケナガアルマジロ
絶滅リスク・保全
ケナガアルマジロは、現在のところ絶滅は懸念されていません。
IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。
ただ、農地を荒らす害獣として駆除されたり、インフラの建設などで生息地が破壊されたりしており、これらは今後脅威となる可能性があります。
また、ブエノスアイレスの個体群は特に探鉱の影響を受けているとされています。
動物園
日本ではケナガアルマジロを見ることはできません。