アメリカヌマジカの基本情報
英名:Marsh Deer
学名:Blastocerus dichotomus
分類:鯨偶蹄目 シカ科 アメリカヌマジカ属
生息地:アルゼンチン、ボリビア、ブラジル、パラグアイ、ペルー
保全状況:VU〈絶滅危惧Ⅱ類〉

沼鹿
南米に生息するシカの一種、アメリカヌマジカは、その名の通り沼地に生息します。
亜熱帯から熱帯にかけて、沼や水があり、植生が生い茂る環境で生活する彼らは、特に60㎝程度までの深さの沼や水がある場所を好みます。
そのため、氾濫原では水が季節的な洪水で水かさが増せばより高地に移動します。
また、雨季には適した環境が広がるため、各個体は分散するのに対し、乾季には適した環境が狭まるため、一部の地域に集まることとなります。
このように水や沼と深く関わるアメリカヌマジカには、その環境に関連するある特徴を体に持ちます。
アメリカヌマジカは蹄を持つ有蹄類ですが、彼らの蹄は幅約10㎝と他のシカと比べると幅広いです。
また、蹄の間には特殊な膜が存在しています。
このような特徴は、足場の悪い沼地での歩行に役立っていると考えられています。
ところで、アメリカヌマジカはかつて南米中部に広く生息していましたが、今では一部地域に分断された個体群が生息するに至るまで減少しています。
ウルグアイでは絶滅したとされ、絶滅危惧種にも指定されています。
このように彼らが減少した原因の一つは、生息地の破壊です。
彼らの生息地は、農業のために水が取られたり、商業用植物のプランテーションとされたりすることで、年々縮小しています。
また、ブラジルやアルゼンチンでは水力発電のためにダムが作られており、それが季節的洪水を妨げるなどして、アメリカヌマジカにとって生活に適した環境である氾濫原を奪うことにつながっています。
彼らにとっての脅威は他にもあります。
先述の通り、洪水などで生息地の水かさが増せば彼らは高地に移動することになりますが、そうした場所には往々にして家畜が放牧されています。
そうなると家畜とのエサや生息地をめぐる競合は避けられず、また、家畜を通じた感染症が脅威となります。
沼地という環境に生息するアメリカヌマジカは、その生息地に適応したがゆえの災難に、現在直面しています。

アメリカヌマジカの生態
生息地
アメリカヌマジカは、アマゾン川南部からアルゼンチン北部にかけて、沼地がある環境に生息します。
形態
体長は1.8~2m、肩高は1~1.2m、体重はオスが150㎏、メスが100㎏まで、尾長は10~15㎝で、南米のシカの中では最大となります。
角(アントラー)はオスにのみ生え、成長すると8~10の枝に分かれます。
大人の角は8~10の片方60㎝、2㎏になります。
角は不定期に落ち、2年近く落ちないこともあります。

食性
草や葦、水生植物の他、洪水時は低木や蔓植物なども食べます。
捕食者にはジャガーが知られています。

行動・社会
主に薄明薄暮性ですが、狩猟圧が高いところでは夜行性になります。
単独か2~3頭、最大6頭の小さい群れで生活します。
繁殖期にオス同士の物理的闘争はあまり見られません。
繁殖
繁殖は地域によって年中行われることもあれば、一定期間に行われることもあります。
メスの妊娠期間は240~260日で、1頭の赤ちゃんが生まれます。
赤ちゃんには他のシカのような斑点模様はなく、大人の体色で生まれます。
生後半年までには離乳し、1歳ごろ独立します。
人間とアメリカヌマジカ
絶滅リスク・保全
アメリカヌマジカの個体数は目下減少中で、IUCNのレッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。
また、ワシントン条約(CITES)では附属書Ⅰに記載されています。
脅威は生息地の破壊や病気、肉や角を標的とした密猟です。
世界最大の湿地であるパンタナルでは、金の探鉱に関連した河川の汚染が問題となっています。


動物園
日本でアメリカヌマジカに会うことはできません。