マルミミゾウの基本情報
英名:African Forest Elephant
学名:Loxodonta cyclotis
分類:長鼻目 ゾウ科 アフリカゾウ属
生息地: アンゴラ、ベナン、ブルキナファソ、カメルーン、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国、コートジボワール、赤道ギニア、ガボン、ガーナ、ギニア、ガボン、ガーナ、ギニアビサウ、リベリア、ニジェール、ナイジェリア、セネガル、シエラレオネ、南スーダン、トーゴ
保全状況: CR〈絶滅危惧ⅠA類〉
参考文献
終わることなきアフリカ熱帯林におけるマルミミゾウの密猟と象牙取引 -コンゴ共和国における事例を中心に-
森の管理人
かつてマルミミゾウはアフリカゾウの亜種とされていましたが、近年の分子研究の発展により、現在は別種とされ、主にサバンナに住むアフリカゾウはサバンナゾウ、森林にすむアフリカゾウはマルミミゾウ(シンリンゾウ)と呼ばれています。
両種の違いとしては、マルミミゾウのほうがサバンナゾウよりも小柄で、よりまっすぐな牙を持っています。
また、繁殖スピードはマルミミゾウのほうがやや遅いようです。
また、名前の通りマルミミゾウの耳の端は、サバンナゾウと比べて丸みを帯びています。
そんなマルミミゾウは熱帯雨林に生息していますが、彼らの存在は森林にとってなくてはならない存在になっています。
彼らはいろいろな方法で森林を維持してくれているからです。
まず、マルミミゾウは植物の種子を遠くまで運んでくれる種子散布者です。
果実を主食とし、日々長距離を移動する彼らは、食べた果実の中の種子を遠くまで運びます。
約40時間もの間、ゾウの体内に滞留したのち、糞とともに排泄された種子は、糞を肥料として新たな場所で芽吹きます。
果実の中には外殻が固く、ゾウにしか食べられないものもあります。
そういった植物にとっては、ゾウはかけがえのない存在です。
このマルミミゾウのような種はキーストーン種と呼ばれます。
ゾウは現生する陸棲生物では最大です。
そんなゾウが森を歩けば、木々は押し倒され、地面はゾウの体重に押しつぶされるでしょう。
木々が倒されると、その空間(ギャップ)だけ日光が地面まで降り注ぐことになります。
そうすると、今まで土の中にいた種子が発芽し、森林を作る新たなメンバーが誕生することになります。
ゾウは森林の新陳代謝を促す、その契機を作っているのです。
また、ゾウが作った道は水場や塩場に続く道です。
ほかの動物にとっても重要な場所に、ゾウの道は導いてくれます。
さらに、倒された木々の間はほかの生物の住処になります。
このように、環境を変えることでほかの生物種に影響を与えるゾウのような種を生態系エンジニアといいます。
ゾウはとても大きな動物ですが、ただ大きいだけではありません。
森林やほかの動物にとっても偉大な存在なのです。
マルミミゾウの生態
分類
アフリカとアジアのゾウは700万年前に分岐したといわれています。
その100年後、アフリカのゾウはサバンナゾウとマルミミゾウに分岐したと推測されています。
野生下ではサバンナゾウとマルミミゾウの雑種が存在します。
生息地
マルミミゾウは西アフリカから中央アフリカにかけて、標高2,000mまでの主に熱帯雨林に生息します。
形態
肩高はオスが2.4~3m、メスが1.6~2.4m、体重は2.7~5トン、尾長は1~1.5mでオスのほうが大きくなります。
足の大きさは最大で35㎝になります。
毛はまばらで、体温は耳で調節するか、水を浴びて調節するかです。
ゾウの皮膚にはしわが多いので、そこに水が入り込むことで水分を体表に保持することができます。
食性
マルミミゾウは、100種類以上の植物の果実や葉、樹皮、枝などを食べます。
このほか、ミネラルを含んだ水や土を食べ、栄養を補完します。
群れからはぐれた若い個体はライオンやブチハイエナからの捕食の可能性がありますが、生息地が被ることはまれで、よって捕食も稀です。
社会
マルミミゾウは数頭のメスと、その子供たちからなる群れを作ります。
群れのメスがほかの群れに移動するなど、交流は非常に柔軟なようです。
オスは繁殖期を除き、単独かオスだけの群れを作って生活します。
コミュニケーションにはヒトが聞こえない20Hz未満の低周波が使われることもあります。
繁殖
繁殖に季節性はありませんが、オスは繁殖の準備ができるとムストと呼ばれる状態になりメスにそのアピールをします。
この間、オスの側頭腺からは強烈なにおいがする分泌物が流れ出し、オスはそれを木にこすりつけたり耳をはためかせたりして拡散させます。
また、尿も垂れ流し状態で、攻撃性が高くなります。
ムストは若齢個体だと数日から数週間で終わりますが、年を増すにつれて長くなり、数か月になることもあります。
メスは約22か月の妊娠期間ののち、100㎏の赤ちゃんを1頭生みます。
赤ちゃんはほかの群れのメスからも育てられ、4~5歳で完全離乳しますが、その後も数年周りの世話を受けます。
性成熟にはオスもメスも11~14歳ごろ達しますが、実際の繁殖は23歳ごろから始まるようです。
また、オスは性成熟に達するころ、群れを離れます。
出産間隔は5-6年でメスは生涯に約4頭の子供を持ちます。
マルミミゾウの繁殖スピードはサバンナゾウよりも遅いとされています。
寿命は約70年です。
人間とマルミミゾウ
保全
マルミミゾウは、主に象牙目的の狩猟や生息地の破壊、地球温暖化の影響で個体数を減らしています。
軟質なサバンナゾウの象牙に対し、マルミミゾウの象牙は硬質でより上質とされています。
その象牙のために、多くのマルミミゾウが殺されてきました。
また、生息地である森林の伐採により、彼らの生息地はかつての4分の1に限定されています。
さらに、マルミミゾウの個体数の約7割に当たる約9万5千頭が住むガボンでは、気候変動や降水量の減少などの影響で、ゾウが食べる果実が8割も減少しました。
こうした状況から彼らが菜園などの農作物を荒らすこともあり、人間との軋轢が高まっています。
かつては何百万頭もいたマルミミゾウは、現在サバンナゾウと合わせても約41万5千頭しかいないと推測されており、IUCNのレッドリストでは、最も絶滅が懸念される絶滅危惧ⅠA類に指定されています。
動物園
世界の動物園でもほとんど飼育されていないマルミミゾウですが、なんと日本の動物園で会うことができます。
広島県の安佐動物公園が現在、マルミミゾウを飼育・展示しています。
安佐動物公園のメスのマルミミゾウは、来園当初サバンナゾウとされていましたが、遺伝子解析の結果、マルミミゾウと判明しました。
安佐動物公園にはこのメイのほか、山口県の秋吉台自然動物公園サファリランドからやってきたマルミミゾウのオス、ダイがいます。
ここではサバンナゾウも飼育されているので、ぜひその違いに注目してみてください。