アメリカミンクの基本情報
英名:American Mink
学名:Neovison vison
分類:イタチ科 ミンク属
生息地:カナダ、アメリカ合衆国、北米、南米、東アジア、ヨーロッパ、アルゼンチン、オーストリア、チリ、ギリシャ、アイルランド、日本、ルーマニア、ベラルーシ、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、アイスランド、イタリア、ラトビア、リトアニア、モンテネグロ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、ロシア、セルビア、スペイン、スウェーデン、ウクライナ、イギリス
保全状況:LC〈軽度懸念〉
外来種と呼ばれましても
美しく、密なアメリカミンクの毛皮は、かつて最も贅沢な毛皮として大きな市場を築いてきました。
当初は野生のミンクを捕獲することで毛皮の需要が満たされてきましたが、需要が高まるにつれてそれだけでは供給が追い付かなくなり、ミンクの養殖が始められました。
ミンクの養殖は19世紀末にはすでに始められていましたが、それが原産国であるアメリカとカナダを出て、海外でも展開され盛んになるのは戦後になってからです。
アメリカミンクは繁殖スピードが速く、安いえさで済んだので、多くの人々が養殖業に参入しました。
1950年代にはヨーロッパでミンク養殖が全盛期を迎え、年間25万枚もの毛皮が生産されました。
このように大きな市場となり人々を惹きつけたアメリカミンクの毛皮ですが、今となってはその価値は大幅に下がり、養殖場も多くが閉鎖しています。
ところで、アメリカミンクの毛皮産業は、経済とは別のところで大きな問題を生みました。
それが外来種の問題です。
アメリカミンクの元々の生息地は北米です。
しかし、養殖のために海外に輸出されたアメリカミンクたちが、養殖場から逃げたり、飼いきれなくなった人により自然に放されたりしたことで、外来種として各地で猛威を振るうことになったのです。
イギリスの例を見てみましょう。
イギリスでは1929年、毛皮目的でアメリカミンクが輸入されました。
その後、1957年に初めて逃走した個体の繁殖が確認され、現在では10万頭以上が定着していると言われています。
アメリカミンクはイギリスの地で、ハタネズミや水鳥およびその雛、卵を食べることで、生態系のバランスを著しく乱しています。
イギリス以外でも野生化したアメリカミンクが自然に及ぼす被害は小さくなく、例えばフランスやスペインなどに生息するヨーロッパミンクは、アメリカミンクによりかつての分布域の約8割で駆逐されてしまいました。
このような事態を危惧し、スペイン政府は2003年よりアメリカミンクの駆除を実施しており、これまで5,500頭以上が駆除されています。
アメリカミンクはヨーロッパだけでなく、南米のチリやアルゼンチン、そしてなんと日本でも外来種として問題視されています。
日本では1928年、北海道に毛皮目的で導入され、そこのアメリカミンクが野生化しています。
現在では北海道以外にも宮城県、福島県、群馬県、長野県、栃木県でも野生個体が確認されており、イイズナやオコジョ、ニホンイタチなど在来のイタチ類との競合や、サンショウウオなど希少生物への影響等、生態系への負の影響が懸念されています。
既に養魚や養鶏への被害事例は出ており、2005年には特定外来生物(外来生物の中でも各種の無視できないような被害をもたらしている生物)に指定されています。
養殖場のアメリカミンクは、海外だけでなく、北米内でも問題をもたらしています。
養殖されたミンクは野生下の個体よりも遺伝的多様性に欠けます。
このような個体が野生の個体に取って代われば、環境変化への脆弱性のために個体数が減少することが予想されます。
養殖されたアメリカミンクは野生個体よりも大きいため、この予測はあながち馬鹿にできるものではなく、実際カナダにおける個体数の減少はこれが原因であると言われています。
このようにアメリカミンクは世界各国で被害を出しているわけですが、アメリカミンクには何の落ち度もありません。
自然に悪影響を与えているのは、元をたどればいつも私たち人間なのです。
新型コロナウイルス
世界中で猛威を奮い続ける新型コロナウイルス。
それによるパンデミックの発生源は、コウモリではないかと言われていますが、コウモリ以外にもイヌやネコ、ブタ、センザンコウなどの哺乳類も、新型コロナウイルスに感染することがこれまで分かっています。
ミンクもその哺乳類の1種で、ミンクから直接人に感染する可能性があることが知られています。
世界最大のミンクの毛皮生産国であるデンマークは、2020年11月、ミンク関連の新型コロナウイルス感染を防ぐために、国内1,000以上の毛皮農場で飼育されている1,500万頭以上のミンク全てを殺処分する計画を発表しました。
感染したミンクでは、ウイルスの変異が確認されています。
変異種が人に感染すれば、ワクチンの有効性が弱まるかもしれません。
そうなればパンデミックは収まるどころか、さらに拡大するかもしれません。
このような事態を防ぐために、ミンクが殺されることになったのです。
デンマークのこの計画は、その後撤回されていますが、大きな箱に入れられガスで殺されたミンクはすでに沢山います。
人間の娯楽のために育てられ、人間の健康のために殺されるミンク。
彼らが一体何をしたというのでしょう。
アメリカミンクの生態
生息地
アメリカミンクは北米原産で、川や湖のそばなど、水があり植物が生い茂っている地域に生息します。
主に夜行性で、特に夕暮れと夜に活発になります。
普段は地上で暮らしますが、下の動画でも見ることができるように、泳ぎが非常にうまく木に登ることもできます。
食性
主な食物は、魚や小型哺乳類、鳥類やその卵、カエル、昆虫、甲殻類などです。
捕食されることはあまりありませんが、捕食者にはボブキャットやコヨーテ、アカギツネ、カナダオオヤマネコ、猛禽類などがいます。
形態
体長は30~45㎝、体重はオスが0.9~1.8㎏、メスが0.5~1.1㎏、尾長は15~25㎝で、性的二型が見られます。
体は水辺での生活に適応しており、四肢は短く体は流線型、手足には一部水かきがあります。
毛は油分を含んでおり、水をはじきます。
春と秋には換毛し、冬毛は特に密で長く、やわらかいです。
ただ、オコジョなどのように白くはなりません。
行動
アメリカミンクは単独性の動物です。
オスの行動圏は複数のメスと重複していますが、他のオスには不寛容で重複はありません。
数年は留まる行動圏には巣穴を持ちます。巣穴は自分で石の裏や木の根っこなどに掘るか、マスクラットやアナグマなどが使っていたものを利用します。
自作の巣穴は長さ約3m、深さ60~90㎝になります。
マーキングには肛門にある臭腺から出る分泌物が用いられ、そのにおいはあのスカンクよりもひどいと言います。
彼らは比較的静かな動物で、危険を感じたときなど以外は声を出すことはありません。
繁殖
アメリカミンクの繁殖には季節性が見られ、交尾は2月~4月にかけて行われます。
メスの発情期間は3~10日で、複数のオスと交尾をします。
見かけ上の妊娠期間は40~75日で、8~45日の遅延着床が見られます。
出産は4月~5月にかけて行われ、約10gの赤ちゃんが通常4頭、最大で8頭産まれます。
育児はもっぱら母親の役目で、赤ちゃんは生後3.5週で目を開き、生後6週で離乳します。
生まれた年の秋までは親元に残り、生後10カ月で性成熟に達します。
出産間隔は約1年で、寿命は野生下で長くて10年、飼育下では11.4年の記録があります。
人間とアメリカミンク
絶滅リスク・保全
アメリカミンクは世界各国で外来種として生態系に被害を与えていますが、北米では彼ら自身も被害をこうむっています。
毛皮目的の狩猟は未だに続いていますし、生息地の減少も脅威となっています。
また、日本では製造も輸入も禁止されているポリ塩化ビフェニル(PCB)による環境汚染は、不妊という形で彼らの繁殖に被害を及ぼしている可能性が指摘されています。
とはいえ、全体的な個体数としては安定状態にあり、レッドリストでも軽度懸念の種として記載されています。
動物園
そんなアメリカミンクですが、日本では北海道の旭山動物園でのみ見ることができます。
もちろん、野生化した個体は一部地域で見ることができるかもしれませんが、その場合はすぐに自治体に連絡しましょう。