アパラチアワタオウサギの基本情報
英名:Appalachian Cottontail
学名:Sylvilagus obscurus
分類:兎形目 ウサギ科 ワタオウサギ属
生息地:アメリカ合衆国
保全状況:NT〈準絶滅危惧〉
参考文献
ウサギの消化の秘密
その名の通りアパラチアワタオウサギは、アメリカ東部に連なるアパラチア山脈に生息します。
彼らの多くが生息する標高570~1, 300mでは、針葉樹や落葉樹、ツツジやベリーの茂みを見ることができます。
こうした環境はアパラチアワタオウサギにとって、捕食者から身を隠す重要な覆いとなっています。
ところで、ウサギは草食動物ですが、アパラチアワタオウサギもこうした環境にある様々な植物を食べています。
草や葉、シダや花、果実、芽、樹皮、枝などなど、季節に応じて彼らはエサを食べ分けます。
こうした彼らのエサとなる植物のうち、ワタオウサギのなかまの中では特にユニークなのが針葉樹の葉です。
アパラチアワタオウサギは、その生息環境だからこそ存在する針葉樹の尖った葉っぱもエサメニューに載せています。
本来、植物というものは動物にとってエサに適しているとは言えません。
植物の細胞を形作る細胞壁を構成するセルロースやヘミセルロースと言った物質を、哺乳類は消化できないからです。
それではウサギを含めた草食動物はなぜ、植物だけを食べて生きているのでしょうか。
秘密は微生物にあります。
植物を食べて生きていける動物たちはすべて、消化管に微生物を共生させており、彼らにセルロースなどを消化してもらっています。そして微生物が消化した後にできる脂肪酸を吸収することで、植物からエネルギーを得ているのです。
ウサギの場合、盲腸で主にこの発酵が行われます。
消化管の後半部分で発酵するため、ウサギは後腸発酵動物と呼ばれています。
ちなみに、後腸発酵動物にはほかに、ゴリラやコアラ、ビーバーなどがいます。
しかし、消化管の後半部分で発酵するため、発酵後の物質はその後十分に消化されずに糞として排出されてしまします。
そこでウサギはその糞を食べることで、消化効率を最大限に高めています。
盲腸糞、軟糞と呼ばれるこの糞は、通常の糞である硬糞と比べてビタミンBやタンパク質、水分に富んでおり、これをウサギはお尻の穴から直接経口で摂取することで、一度では消化できなかった残りから、さらに栄養分を得ているのです。
アパラチアワタオウサギが、人間から見るととても食べ物とは思えない、固くて尖った針葉樹の葉を食べて生きていけるのは、こうしたウサギの消化機構のおかげだと言えます。
アパラチアワタオウサギの生態
生息地
アパラチアワタオウサギは、アパラチア山脈の中部から南部にかけてパッチ状に生息します。
土地が一掃されてから5~25年の間に生える植生がある環境で暮らします。
形態
体長は28~43㎝、体重は0.8~1㎏、耳の長さは6㎝ほどです。
見た目がトウブワタオウサギに似ていますが、アパラチアワタオウサギの方が若干小さく、トウブワタオウサギによくある額の白い模様がありません。
食性
季節に応じて様々な植物を食べます。
捕食者には猛禽類やアカギツネなどがいます。
行動・社会
薄明薄暮性で、日没後や明け方に活発になります。
基本的には単独性で、1.5~15haの範囲で行動します。
繁殖期のオスは行動圏が最も広くなります。
繁殖
3月初めから9月初めにかけて繁殖期を迎えます。
メスは年に3~4回出産し、年間24匹ほどの赤ちゃんを産みます。
メスの妊娠期間は約28日で、1度に2~8匹の赤ちゃんを、毛や草が敷かれた浅い巣に産みます。
母親は授乳の時以外は子供とは別の場所で過ごします。
その際、カモフラージュや保温を目的として巣に毛や植物をかぶせる行動を見せます。
赤ちゃんは生後1週ほどで目を開き、3~4週で離乳します。
生後1ヵ月には独立し、2~3ヵ月齢で性成熟を迎えます。
人間とアパラチアワタオウサギ
絶滅リスク・保全
アパラチアワタオウサギの個体数はここ10年で最大30%減少していると推測されており、現在も減少傾向にあるとされています。
主な理由は生息地の減少、分断、森林の成熟、都市の発達などです。
IUCNのレッドリストでは準絶滅危惧に指定されています。
動物園
アパラチアワタオウサギを日本で見ることはできません。