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バイカルアザラシ

バイカルアザラシ
©2008 Sergey Gabdurakhmanov : clipped from the original
目次

バイカルアザラシの基本情報

英名:Baikal Seal
学名:Pusa sibirica
分類:食肉目 アザラシ科 ワモンアザラシ属
生息地:ロシア
保全状況:LC〈軽度懸念〉

バイカルアザラシ
Photo credit: Sergey Gabdurakhmanov

参考文献

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淡水にすむ鰭脚類

40種近くが知られる鰭脚類のうち、湖に生息するのは(湖か否かの議論はあるが)カスピ海に生息するカスピカイアザラシと、バイカル湖に生息するバイカルアザラシだけです。

このうち、バイカルアザラシは完全な淡水に生息する唯一の鰭脚類になります。


琵琶湖の46倍ほどもあるバイカル湖はロシア南東部に位置する湖で、約2,500万年前にできたとされます(湖では世界最古)。

その湖水は世界の陸水の20%を占め(湖では世界一)、最大深度は1,600mよりも深くなり(これも世界一)、深さ40mまで見えるほど透明(世界一)とされています。

また、バイカル湖とその周辺には約1,500種の固有種が生息し、世界自然遺産にも登録されています。

様々な特徴を有するバイカル湖は、「シベリアの真珠」や「生物進化の博物館」などと称されます。


そんなバイカル湖の生態系において、頂点に立つのが固有種のバイカルアザラシです。

彼らは最小級のアザラシですが、透明な湖で視覚を使ってエサを探すため、その目は体の割にひときわ大きくなります。

また、バイカルアザラシは授乳期間がアザラシの中で最長で、他のアザラシの授乳期間が数週間であるところ、彼らの場合は2~2.5ヵ月に及びます。

そんな彼らがどのようにしてバイカル湖に来たのかについては未だ不明です。

30万~40万年前(100万年以上前とすることも)、北極圏から河川を通じてやってきたともいわれていますが、彼らが属するワモンアザラシ属の分岐が200万年前ごろ起きたとする遺伝学的情報を考慮するとこの説は奇妙であり、答えは謎のままです。


なんにせよ、捕食者がほとんどいないバイカル湖に行き着いた彼らは、きっと優雅に生活しているに違いないと思ってしまいますが、案外そんなこともありません。

なぜなら、バイカル湖ではPCBsやDDTなどの化学物質による汚染が無視できないほどに存在するからです。

バイカル湖に流入する河川沿岸にはいくつもの工場があり、かつては何の処理もされず産業排水が垂れ流されていたといいます。

頂点捕食者としてこれらの汚染物質の生物濃縮を強く受けるバイカルアザラシでは、特にダイオキシン類の蓄積がひどいとされており、その値はゼニガタアザラシで免疫が抑制されることが知られている閾値をはるかに超えています。

1987年から1988年にかけて、8,000頭ともいわれるバイカルアザラシが大量死しました。

直接的な原因はイヌジステンパーによるものとされていますが、汚染物質による免疫力の低下が関係していたのではと考えられています。

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バイカル湖それ自身の特性も彼らに迫る危険を助長しています。

バイカル湖には336本もの川が流入していますが、流出する川はたったの1本。

アンガラ川だけです。

湖水が入れ替わるのには300~400年もの歳月が必要とされており、過去の汚染物質が今でも猛威を振るっている可能性があるのです。

今のところバイカルアザラシの絶滅はあまり懸念されていませんが、汚染物質の影響が今後さらに顕在化してくる可能性も少なくありません。

バイカルアザラシ
Photo credit: Sergey Gabdurakhmanov

バイカルアザラシの生態

生息地

バイカル湖にのみ生息します。周辺の河川でも見られることがあります。

形態

体長は1.1~1.4m、体重は50~130㎏で、アザラシの中でも最小級です。

前肢の爪が長く、水面の氷に呼吸孔を開ける際に使われます。

頬歯はギザギザしており、エサとなるヨコエビを漉しとるのに役立ちます。

バイカルアザラシ
Photo credit: Sergio Tittarini

食性

ゴロミャンカ類やカジカ類などの魚類やヨコエビといった30種ほどの生物をエサとします。

エサが水上に上がる明け方や夜に活発に採餌します。

ヒグマが沿岸のバイカルアザラシを捕食することがあります。

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行動・社会

水深700m以上、最長40分近く潜水できますが、通常は水深100m以内を泳ぎます。

5月から6月にかけて氷が溶け始めると、北や北東にラグーンや三角州など沿岸域を求めて移動します。

彼らは主に単独性ですが、この時1,000~3,000頭の大群となることもあります。

また、この頃約1ヵ月間の換毛が見られます。

10月半ばになると特に妊娠したメスは早く凍る東部に移動し出産、その後4月ごろオスと水中で交尾します。

バイカルアザラシ
換毛中のバイカルアザラシ | Photo credit: Sergio Tittarini

繁殖

出産は2月から3月にかけて見られます。

メスは短い着床遅延を含む約9ヵ月の妊娠期間の後、70㎝、3~3.5㎏の赤ちゃんを自ら作った氷の洞に一頭産みます。

赤ちゃんは白い被毛で生まれますが、生後4~6週で換毛し銀色になります。

生後3週ごろ泳ぎ出し、2~3ヵ月で離乳します。

母親はこの頃発情を再開し、換毛します。

また、育児期のメスは氷上に子とともに単独で暮らし、行動圏は他個体と重複しないようです。

オスは7~10歳で、メスは3~7歳で性成熟に達し、15歳ごろ最終的な大人の大きさとなります。

彼らは鰭脚類の中で最も長寿で、オスは最長52年、メスは最長56年生きた記録があります。

人間とバイカルアザラシ

絶滅リスク・保全

バイカルアザラシは9,000年も昔から狩りの対象となっていたことが知られています。

商業的な狩猟は18世紀後半から始まり、20世紀初めには年間2,000~9,000頭が狩られていました。

現在も狩りは行われており、認められた狩猟と密猟を合わせると年間2,000頭前後が狩られているとされています。

現在のバイカルアザラシの個体数は10万頭前後と見積もられており、IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。

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動物園

日本では東京都のサンシャイン水族館、石川県のいしかわ動物園、新潟県の新潟市水族館マリンピア日本海、滋賀県の琵琶湖博物館、三重県の鳥羽水族館でバイカルアザラシを見ることができます。

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