ブラックバックの基本情報
英名:Blackbuck
学名:Antilope cervicapra
分類:鯨偶蹄目 ウシ科 ブラックバック属
生息地:インド、ネパール
保全状況:LC〈軽度懸念〉

エレガントなアンテロープ
主にインドに生息するアンテロープ、ブラックバック。
ブラックバックはオスとメスで体色が異なる珍しいアンテロープで、その名は黒いオスを意味します。
メスがベージュ色をしているのに対し、オスは暗い色をしています。
暗い色は年齢とともに濃くなるとされ、成熟したオスは腹の白い色とのコントラストが美しくなります。
ブラックバックは走る姿も美しいです。
彼らはインドでは最速ともいえる脚力の持ち主で、最高時速は80㎞にもなります。
また、時速60㎞以上で20分間以上走ることもできるという耐久性も持ち合わせています。
ブラックバックは主に視覚で危険を感じるとジャンプし群れの仲間に知らせます。
そうしたかと思うとその脚力で走り出し、捕食者を振り切ります。
かつてインドには最速の哺乳類・チーターがおり、ブラックバックの天敵と言える存在でしたが、彼らがインドで絶滅した今、脚力においては敵なしです。

そんなブラックバックで最も目を引くのは、その角です。
最大で4回転するらせん状の角はオスにしか生えず、長いと70㎝にも達します。
オスにしか角がないことから想像できるように、角はメスをめぐる戦いに用いられます。
ブラックバックは普段単雄複雌の群れで生活しますが、繁殖期になるとオスは特になわばり性が強くなります。
糞や目の下にある臭腺からでる分泌物でなわばりをマーキングし、うなり声で他のオスをけん制します。
それでも他のオスがなわばりに侵入しようものなら、いよいよその角の使い時です。
角を絡ませ相手を倒した方の勝ち。
勝者の凛とした姿は極めて優美です。
ちなみにブラックバックのごく一部の個体群は、レックと呼ばれる繁殖システムを持つことが知られています。
それらの個体群では、繁殖期になるとオスメスが繁殖場で一堂に会します。
そしてオスはレックという小さいなわばりを築き、メスは各オスのなわばりを渡り歩き、魅力的なオスを探します。
最終的にメスと交尾できるのは一部のオスのみ。
このような繁殖スタイルは哺乳類では珍しく、彼らを含む一部の有蹄類やセイウチなどでしか知られていません。
参考:レックについて

このようにエレガントなブラックバックは、インドでは宗教的に聖なる存在とされることもあり、ジャイナ教やいくつかのヒンズー教の宗派では、その殺生が禁じられています。
しかしそうでない場所では普通に狩猟の対象となっており、特に20世紀には過度な狩猟で個体数が激減しました。
ただ、保護活動が進んだ結果、現在は若干の復活を見せています。
エレガントは不滅なのです。


ブラックバックの生態
生息地
ブラックバックはインドとネパールの深い茂みや開けた草原、乾燥林、半砂漠などに生息します。
農地の周囲にも適応しており、一部では農地を荒らす害獣として嫌われています。
アルゼンチンとアメリカ合衆国に導入されており、それぞれ約8,600頭、3.5万頭が生息しています。
形態
体長は1.2~1.3m、肩高は70~85㎝、体重はオス20~45㎏でオスの方が大きくなります。
角(ホーン)はオスにのみ生え、生え変わることはありません。
大きさは通常50~60㎝です。

食性
グレイザーである彼らは丈の短い草を主食とします。
エサが少なくなると落ち葉や花、果実を食べることもあります。
水は必須ですが、しばらくは水なしでも生活できます。
捕食者にはジャッカルやノイヌ、ヒョウなどがいます。


行動・社会
暑い日は薄明薄暮時、寒い日には昼頃活発になります。
定住性ですが、夏にはエサや水を求めて長い距離を歩きます。
ブラックバックは5~50頭の単雄複雌の群れを作ります。
若いオスは若いオス同士で群れを作ることもあります。
繁殖
年中繁殖しますが、3月~4月、8月~10月にほとんどの繁殖が見られます。
メスは年に2回出産することもあります。
メスの妊娠期間は約半年で、通常1頭の明るい単色の赤ちゃんが生まれます。
赤ちゃんは生後すぐに歩けるようになり、生後2カ月で離乳します。
寿命は野生で10~15年です。

人間とブラックバック
絶滅リスク・保全
数世紀前まで400万頭いるとされたブラックバックは、過度な狩猟や生息地の破壊により、1947年には8万頭、1970年代には2.2~2.4万頭と推計されるまで減少します。
ただ、その後は回復傾向に転じ、2000年には約5万頭にまで増えています。
現在インドでは法的に保護されており、多くが保護区内で生活しています。
IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。
ただ、200頭程度しかいないネパールのブラックバックは、ワシントン条約(CITES)の附属書Ⅲに記載されています。

動物園
ブラックバックには国内では、少なくとも10の動物園で見ることができます。
サファリパークでも展示されているので、彼らのエレガントな姿をぜひ間近で見てみてください。
