ボノボの基本情報
英名:Bonobo
学名:Pan paniscus
分類:ヒト科 チンパンジー属
生息地:コンゴ民主共和国
保全状況:EN〈絶滅危惧ⅠB類〉
平和の理由―性がコミュニケーションツール
ボノボはチンパンジーとよく似ています。
チンパンジーより華奢な体をしていることからピグミーチンパンジーとも呼ばれていたボノボですが、1929年に新種として認められて以降、立派な種として知られています。
しかし、ボノボとチンパンジー遺伝的には極めて近く、飼育下では混血も生まれています。
彼らが分岐したのは約100~200万年前だと言われており、人類とチンパンジーたちの共通祖先が分岐したのが約600~700万年前であることを考えると、ボノボとチンパンジーがどれだけ近い間柄なのかよく分かります。
チンパンジーとは近い関係にあるボノボですが、彼らとは全く違う生活を送ります。
よく言われるのは、ボノボは平和的なサルであるということです。
実際、チンパンジーのような激しい闘争はあまりなく、同種を殺した例はありません。
また、おぞましい子殺しの報告もありません。
しかしなぜ、チンパンジーとは異なり、ボノボはこれほどまでの平和を手に入れることができたのでしょうか。
その秘密は性行動にあります。
ボノボはことあるごとに性行動に及びます。
この性行動がボノボの社会に平和をもたらしているのです。
この性行動は、雌雄間はもちろん、メス同士、オス同士、さらには子供にも見られます。
メス同士の場合、これは「ホカホカ」とか「GGラビング」と呼ばれ、互いの性器をこすりつけ合います。
オスは互いのお尻をくっつけたり(尻つけ)、一方が他方に馬乗りになったりします(マウンティング)。
性行動は、特に緊張が走った時に宥和的行動として現れます。
例えば、えさである果実が群れの前にある時、ボノボはまず性行動に及びます。
その後、優位のものから果実に手を付け始めます。
これ以外にも、群れに新たにメスが加入した時(新入メスは群れの年長メスと性行動)や、ケンカの前後、えさをねだる時などにボノボの性行動を見ることができます。
それにしてもボノボは面白いコミュニケーションを発達させたものです。
女性社会
ボノボの社会は、チンパンジーと同じく、オスが生まれた群れに留まりメスが離れる父系社会です。
しかし、オスが支配的なチンパンジーの社会とは違い、ボノボの社会ではメスが中心的な位置にいます。
特に食料においてはメスが優先権を持っており、メスが最も質のいい部分を食べますし、メスにねだられればオスは自分持っているえさを手放します。
また、メスの権力はオス同士の関係にも及びます。
ボノボの群れでは、年長の最も優位のメスの息子が最も優位なオスになることが多く、母親の地位が下がればそれに合わせて息子の地位も下がります。
このようにメスが力を持つ理由としては、ボノボのメスが性的に寛容であるからと考えられています。
ボノボのメスは、性的休止期間中、つまり妊娠できないときでも性皮をはらして発情を示します。
それにより群れの中で交尾できるメスが増え、繁殖という最上の使命を持つオス同士の競合が緩和されます。
そうなるとメスがオスを選べる自由度は相対的に高まります。
そこでメスが協力し合いオスに対抗することで(実際、ボノボのオス同士の関係は弱く、メス同士の関係は強い)、メスの社会的地位が高まったと考えられています。
ちなみに、ボノボのメスが性的に寛容であることは、ボノボの社会で子殺しが起きない理由としても考えられています。
どうやらボノボを理解することにおいて、性というキーワードは何にも増して、どんな動物よりも重要なようです。
ボノボの生態
生息地
ボノボは、コンゴ民主共和国中央部の熱帯雨林などに生息します。
ボノボの生息地は川に囲まれており、チンパンジーやゴリラとは隔てられています。
食性
昼行性で、主に果実を食べます。
他には、葉や新芽、はちみつなども食べます。ボノボは地上性が強く、ナックルウォークや二足で地面を歩きます。
形態
体長は1~1.2m、体重はオスが37~61㎏(平均約45㎏)、メスが27~38㎏(平均約33㎏)でオスの方が大きくなります。
行動
ボノボは、30~60頭から成る、複雄複雌の群れを作ります。
この群れは採餌の時など、大体10頭以内の小さな群れに分かれます。
群れ同士の出会いは、殺し合いにまで発展するチンパンジーと違い、友好的です。
もちろんそこでも性行動が行われます。
ボノボには、チンパンジーのような道具使用が野生下ではほとんど観察されていません。
しかし、飼育下における実験でボノボも道具を使えることが分かり、彼らの知能はチンパンジーと同等であると言われています。
共感能力も発達しており、ボノボが他の動物を助けたエピソードからも、ボノボが自分でないものの視点を持っていることが分かります。
下の日本語の動画では、オスのボノボ、カンジが登場します。
彼は人間の言うことを理解できますし、レキシグラム(図形文字、図形と意味が一致する必要はない。例えば、リンゴのマークはリンゴを意味しない)を用いて話すこともできます。
ボノボの知能や共感能力を見ることができるので、是非ご覧ください。
繁殖
ボノボの繁殖に季節性はありません。
メスの月経周期は約45日と長く、そのほとんどの間、乱交的に交尾します。
そして8カ月の妊娠期間を終えて、メスは1匹の赤ちゃんを産みます。
赤ちゃんはチンパンジーの赤ちゃんとは違い、顔が真っ黒です。
赤ちゃんは約4歳になるまでに離乳し、6~13歳でメスは群れを離れます。
そして、13~15歳で最初の赤ちゃんを産みます。
メスの性的休止期間は4~5年ですが、出産から1年もすると性皮を腫脹させ発情のサインを見せます。
しかし、上述のようにこれはニセの発情サインです。
人間とボノボ
絶滅リスク・保全
ボノボは、生息地の縮小や狩猟、病気の感染などにより個体数を減らし続けています。
ボノボの棲む森林は、農業や道路開拓目的の伐採、紛争などにより破壊されています。
特にオイルパームプランテーションは、ボノボの生息地の環境によく適していると言われており、その更なる拡大が懸念されています。
狩猟圧も高いです。類人猿の狩猟は禁止されているにも拘らず、肉目的の密猟が後を絶ちません。
また、エボラウイルスなど人間から感染する病気も彼らの個体数に大きく影響しています。
これら様々な脅威にさらされているボノボは、レッドリストでは絶滅危惧ⅠB類に指定されており、生存数は1万5千~2万頭と推定されています。
このような危機的な状況にあるボノボですが、彼らを守るために活動する団体もあります。
その1つがローラ・ヤ・ボノボ(Lola ya Bonobo:リンガラ語で「ボノボの楽園」)です。
彼らは親を殺されたボノボ孤児を引き取り育て、森に返すだけでなく、ペットとして売られているボノボの押収や、ボノボの生息地周辺のコミュニティの育成、森の保全に寄与しています。
ここはコンゴ民主共和国の観光地になっているようです。
動物園
残念ながらボノボを日本で見ることはできないので、機会がある方は事前の連絡を忘れずに訪れてみてください。
ボノボを観察できるだけでなく、ボノボの保全にも貢献できます。
最後におまけとしてボノボの名前の由来についてご紹介しましょう。
ボノボという名前は、コンゴ民主共和国にあるボロボという町に由来していると言われています。
ボノボが入った箱に書かれたボロボという名前を、誰かが箱の中のサルの名前と勘違いしたようです。
ちなみに、現地でボノボはエーリャ(単数形)、ビーリャ(複数形)と呼ばれているようです。