ヤブイヌの基本情報
英名:Bush Dog
学名:Speothos venaticus
分類:イヌ科 ヤブイヌ属
生息地:ボリビア, ブラジル, コロンビア, エクアドル, フランス領ギアナ, ガイアナ, パナマ, パラグアイ, ペルー, スリナム, ベネズエラ
保全状況:NT〈準絶滅危惧〉
最も原始的なイヌ
ヤブイヌは、イヌ科動物の中で最も原始的だと言われています。
確かにその見た目は我々のイメージの中のイヌとは異なり、足が短く胴が長く、顔はクマやカワウソのようで、原始的な雰囲気を漂わせています。
このヤブイヌ、その見た目を裏切らず、様々な面白い特徴を持ちます。
ヤブイヌは水辺を好みますが、泳ぎが非常に得意です。
指の間には水かきのような皮膚があり、潜水もできます。
この能力は狩りにも使われ、カピバラやパカなどの獲物を水中まで追いかけて捕らえることもあるようです。
尿によるマーキングの仕方も特徴的です。
オスがおなじみの片足をあげてマーキングするのに対し、メスはなんと逆立ちをしてマーキングします。
下の動画はその様子がよく分かるので是非ご覧下さい。
彼らの歩き方も一癖あります。
通常はもちろん前を向いて前に歩くのですが、それと同じ速さで前を向いたまま後ろに歩くことができるのです。
ヤブイヌは、日中は木の洞やアルマジロが捨てた巣穴に潜んでいます。
バックで早く移動する能力は、せまい巣穴での生活への適応であると考えられています。
ヤブイヌ、クセがすごいですね。
ヤブイヌの生態
生息地
ヤブイヌは、南米北半分一帯の、草原や低木林に生息し、特に湿った森林を好みます。
食性
ほとんど夜行性の彼らは、主に肉食で、アルマジロやアグーチなどの小型哺乳類や鳥類を食べます。
彼らはパックと呼ばれる群れで、自分よりも大きい獲物を狩ることもあります。
生きた肉の他、死肉や果実も食べます。
形態
体長は57~75㎝、体重は5~7㎏、しっぽの長さは11~15㎝になります。
肩の高さは約30cmと低く、名前にあるような藪の中で生活するのに、彼らの体格はぴったりです。
また、耳は丸くて小さく、4㎝ほどしかありません。
歯の本数は他のイヌ科動物の42本より少なく、38~40本です。
下顎の臼歯が1対少なく、上顎も1対少ない場合があります。
行動
ヤブイヌは、約10頭から成る家族群を形成しますが、単独で観察される個体もいます。
群れのメンバーには優劣関係があると考えられていますが、群れ内のケンカは少ないようです。
コミュニケーションには音声をよく使い、見通しの悪い藪の中で互いの位置を把握しあいます。
群れの行動域は獲物の量によって変動し、16~150㎢と幅があります。
繁殖
ヤブイヌの繁殖には季節性が見られます。
メスの発情期間は約4日で、妊娠期間は65~70日です。赤ちゃんは平均約4匹で産まれることが多く(最大6匹)、その重さは120~190gです(下の動画にて赤ちゃんの姿を見ることができます)。
生後4週で離乳し、約1年で性成熟に達します。
寿命は飼育下で約10年です。
人間とヤブイヌ
絶滅リスク・保全
ヤブイヌは、彼らの生存を脅かす様々な脅威に直面しています。
生息地は破壊、分断され、大規模農地や牧草地、プランテーションに置き換えられています。
また、人間の密猟やイエイヌの捕食により、ヤブイヌの獲物が減少しています。
さらに、イエイヌからは病原体をもらうこともあり、これがそのメンバーが遺伝的に近いヤブイヌの群れに壊滅的な被害を与えます。
このような脅威のために、ヤブイヌの個体数は減少し続けており、3世代12年間で20~25%も減少したと推測されています。
レッドリストでは、絶滅危惧種一歩手前の、準絶滅危惧種(NT:Near Threatened)として記載されています。
動物園
そんなヤブイヌですが、日本の動物園でも見ることができます。
埼玉県のこども動物自然公園、神奈川県のよこはま動物園ズーラシア、愛知県の東山動物園、京都府の京都市動物園、兵庫県の神戸どうぶつ王国、鹿児島県の平川動物公園がヤブイヌを飼育しています。
クセがすごい彼らの生態を見に、是非これらの動物園に足を運んでみてください。