パームシベットの基本情報
英名:Common Palm Civet
学名:Paradoxurus hermaphroditus
分類:ジャコウネコ科 パームシベット属
生息地:アフガニスタン、バングラデシュ、ブータン、ブルネイ、カンボジア、中国、インド、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、ネパール、パキスタン、シンガポール、タイ、ベトナム、フィリピン、パプアニューギニア
保全状況:LC〈軽度懸念〉
最高級コーヒーの生産者
日本で飲むと1杯7,000円以上もするという、世界最高級の幻のコーヒー、その名をコピルアク、別名をシベットコーヒー、ジャコウネココーヒーと言います。
コピルアク(Kopi luwak)という言葉はインドネシア語で、コピがコーヒーを、ルアクがジャコウネコを意味します。
なぜ名前にジャコウネコという言葉が使われているかと言うと、このコーヒーがジャコウネコの糞に混じったコーヒー豆から作られているからです。
そしてそのジャコウネコと言うのが、このパームシベットです。
パームシベットは、赤く熟れたコーヒーの実を食べます。
コーヒーの実は彼らの体内で消化されますが、種子だけは糞と共に体外に排出されます。
こうして採取されたコーヒー豆からコピルアクは作られるわけですが(動画参照)、その香りは他に見られないほど独特で、あまり苦味がなく、飲みやすいそうです。
また、コピルアクは通常のコーヒーと比べると、カフェインの含有量が少ないことでも知られています。
ではなぜ、このコピルアクと言うコーヒーはこれほどまでに高価なのでしょうか。
これはひとえにその稀少さゆえです。
コピルアクのコーヒー豆は、パームシベット1匹あたり1日に3gしか取れないそうです。
そのために日本では普通のコーヒーの10倍以上の値段がつけられているのですね。
これだけ高価だと、たくさん生産すれば儲かりそうです。
実際、インドネシアやフィリピンでは、捕獲した野生のパームシベットを檻で飼育することで、コーヒー豆の生産の効率化が図られています。
下のもう一つの動画では、檻で飼われているパームシベットがコーヒーの実を与えられている様子を見ることができます。
ただ、このような飼育は動物保護の観点から批判されてもいます。
コピルアクで得られた利益が、生産者であるパームシベットたちにも還元されてほしいものです。
パームシベットの生態
生息地
パームシベットは、東南アジアおよび南アジアの、熱帯雨林や沼沢林、プランテーション、農村地域など、様々な環境に生息します。
樹上で生活しますが、その程度はほかのシベットほどではなく、地上に降りてくることもあります。
食性
パームシベットは雑食性で、バナナやマンゴー、パイナップルなど特に果実を好みます。
種はコーヒー豆のように消化されずに排出されるので、彼らは種子散布者として生態系において重要な役割を果たしています。
果実の他にはネズミやトカゲなどの小型脊椎動物や、昆虫、種子などを食べます。
さらに一部の地域では、彼らはトディと呼ばれるヤシの木の樹液も食べます。
トディは発酵すると甘いお酒になるため、現地の人々はヤシに傷をつけて入れ物に集めます。
このトディを盗んで食べるため、パームシベットは“トディキャット(toddy cat)”とも呼ばれています。
彼らを食べる捕食者には、トラやヒョウ、そしてワニやヘビなどの爬虫類がいます。
形態
体長は40~70㎝、体重は2.7~4.5㎏、しっぽの長さは40~60㎝で、体格の上での性差はほとんどありません。
アライグマなどと同じ蹠行性(しょうこうせい)で、足の裏をしっかりつけて歩きます。
また、彼らは他のシベットよりも肉食性が弱いので、裂肉歯が他より未発達です。
お尻には、防御やコミュニケーションのための分泌物を出す一対の肛門腺があります。
この臭腺のためにメスがオスに見えることから、両性動物という意味のラテン語“hermaphroditus”が種小名(学名のうち後者)に使われています。
また、臭腺から出る分泌物は、香水の原料として用いられています。
行動
パームシベットは夜行性で、単独性です。5~20㎢のなわばりを持ち、臭腺からの分泌物や糞尿でなわばりをマーキングします。
オスのなわばりは複数のメスと重複しており、マーキングの回数はメスよりも多いです。
彼らは基本的に静かな生き物ですが、身の危険を感じたときなどは唸るなどします。
繁殖
繁殖は一年中行われます。
妊娠期間は2~3カ月で、2~5頭の赤ちゃんが樹上の巣に産まれます。
赤ちゃんの重さは約80gで、毛に覆われており、生後11日で目を開きます。
生後2カ月で離乳し、9~12カ月で性成熟に達します。
寿命は野生で約10年、飼育下では最長25年です。
【参考】バナナを貪るパームシベット
人間とパームシベット
絶滅リスク・保全
パームシベットは、現地の人々の食料として狩猟されています。
また、プランテーションや果樹園を荒らすために、害獣として駆除されることもあります。
そのために、彼らの個体数は減少していますが、その人家や下水管にも棲みつくといった適応力の高さや広い分布域から絶滅は危惧されていません。
レッドリストでも軽度懸念の種とされており、その一つ上の準絶滅危惧種に指定されるには至っていません。
動物園
そんなパームシベットですが、残念ながら日本では会うことができません。
仕方がないので、彼らの顔を頭に浮かべながら、世界一高いコーヒー、コピルアクを飲みましょう。