ケープイボイノシシの基本情報
英名:Common Warthog
学名:Phacochoerus africanus
分類:鯨偶蹄目 イノシシ科 イボイノシシ属
生息地:アンゴラ、ベナン、ボツワナ、ブルキナファソ、ブルンジ、カメルーン、中央アフリカ共和国、チャド、コンゴ民主共和国、コートジボワール、ジブチ、エリトリア、エスワティニ、エチオピア、ガボン、ガンビア、ガーナ、ギニア、ギニアビサウ、ケニア、リベリア、マラウィ、マリ、モーリタニア、モザンビーク、ナミビア、ニジェール、ナイジェリア、ルワンダ、セネガル、シエラレオネ、南アフリカ、南スーダン、スーダン、タンザニア、トーゴ、ウガンダ、ザンビア、ジンバブエ
保全状況: LC〈軽度懸念〉

強烈な顔
イボイノシシ属にはエチオピア、ケニア、ソマリアに生息するイボイノシシと、サハラ砂漠以南のアフリカに広く生息するケープイボイノシシの2種がいます。
困ったことに、英語でケープイボイノシシ(Cape Warthog)というと、イボイノシシの亜種を指します。
しかし南アフリカに生息するこのケープ亜種は1870年代に絶滅しており、現在南アフリカに生息しているのは和名でいうケープイボイノシシの方です。
ちなみに、イボイノシシとケープイボイノシシはソマリアとケニアの一部地域で同所的に生息しています。
ややこしいですが、なんにせよ彼らの顔面はそんな些末なことを忘れさせてくれるほど強烈です。
和名にあるようにそのイボは彼らの顔面をユニークなものにしています。
イボは目の下や牙の後ろにあり、目の下の物はオスでは15㎝にもなります。
この軟骨性の組織でできたイボは、主に闘争の際の防御に役立っていると考えられています。
ちなみに英名の“wart”はイボやコブを、“hog”はブタを意味します。
イボだけでなく、牙もまた特徴的です。彼らは4本の大きな犬歯を持ちますが、特に上顎犬歯は大きく上方向に湾曲しています。
ケープイボイノシシの上顎犬歯は、メスで15~25㎝、オスでは最大60㎝以上にもなります。
イボが防御なら牙は攻撃。牙は闘争の際の武器として、もしくはメスへのアピールとして役立っていると考えられています。
矛と盾を持つ彼らの顔ですが、捕食者を見つけると基本逃げます。
彼らは時速50㎞というブタの仲間では最速級の足を使って、巣穴に逃げるのです。
さて、大きなイボと大きな牙を持つ彼らの大きな顔は、一方で可動性に欠けます。
この欠点を彼らは様々な形で補います。
例えば、彼らは膝をついて前かがみになることでより採餌しやすくしています。
また、彼らは泥を浴びることで、顔でグルーミングできない部分に虫が来るのを防いでいます。
この泥浴びは虫よけの他、体温を下げる役割も持ちます。
虫よけについて、彼らは他の動物の力も借ります。
シママングースや鳥類のアカハシウシツツキ、キバシウシツツキは虫を食べるため、彼らに体のメンテナンスをしてもらうのです。
強烈な顔にばかり目が行ってしまいますが、彼らのユニークさは顔意外にもあるのです。


ケープイボイノシシの生態
生息地
ケープイボイノシシは標高3,500mまでのサハラ砂漠のサバンナやウッドランドなど乾燥して開けた環境に生息します。
森林や砂漠、山地の涼しい環境には基本生息していませんが、エチオピアのバレ山などでは高地の森林に生息しているようです。
形態
体長は90~150㎝、肩高は60~85㎝、体重は50~150㎏で、オスの方がメスよりも15~20%重たくなります。
毛はまばらですが、頬の毛やタテガミが特徴的です。
メスの乳頭は2対です。

食性
グレイザーで主に草を食べますが、このほか根やベリー類、樹皮など、機会があれば死肉も食べます。
また、自分の糞やサイ、バッファローなどの糞を食べることがあります。
鼻や牙で土を掘り起こすルーティングと呼ばれる行動が見られます。
地域によっては数ヶ月間も水を飲まずに生活できます。
捕食者にはライオンやチーター、ヒョウなどがいます。



行動・社会
昼行性ですが、暑さや捕食者、餌や水などをめぐる競合を避けるために夜に活動することもあります。
夜は基本ツチブタが捨てた巣で寝ます。
なわばり性はありませんが、オスはメスをめぐって闘争することがあります。
オスは単独もしくはオスだけの群れを作りますが、メスは18頭までのメスと子供の群れを作ります。
出産が近いメスは一時的に群れを離れ、出産後1週ごろ群れに再合流し、自らの生活の合間に育児をます。

繁殖
オスもメスも複数の相手と交尾するとされています(乱婚型)。
出産は乾季に見られ、メスは170~175日というブタの仲間では最長の妊娠期間の後、1~7頭、平均3頭の赤ちゃんを巣に産みます。
赤ちゃんは生後6~7週まで巣で育ち、その後群れに合流します。
生後21週ごろ離乳し、生後18~20ヵ月で性成熟に達します。
メスはその頃独立し、オスも2歳ごろに群れを離れ、4歳ごろ繁殖を始めます。
寿命は野生で7~11年、飼育下では20年近く生きることもあります。

人間とケープイボイノシシ
絶滅リスク・保全
広い範囲に生息しているケープイボイノシシは、現在絶滅の心配はされておらず、IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。
全体の個体数は知られていませんが、南アメリカでは2万頭以上が生息しています。
一方、個体数は減少傾向にあるとされています。
砂漠化や人の定住などによる生息地の悪化や、肉、牙、娯楽などを目的とした狩猟が脅威と考えられます。

動物園
ケープイボイノシシを日本で見ることはできません。
日本では旭山動物園でオスのイボイノシシが飼育されていましたが、2021年に亡くなったようです。