ドールの基本情報
英名:Dhole
学名:Cuon alpinus
分類:イヌ科 ドール属
生息地:バングラデシュ, ブータン, カンボジア, 中国, インド, インドネシア, ラオス, マレーシア, ミャンマー, ネパール ,タイ
保全状況:EN〈絶滅危惧ⅠB類〉
残忍な殺し屋
アカオオカミの異名を持つドールは、「残忍な殺し屋」として知られています。
ドールはほとんど純粋な肉食で、下顎の臼歯が1対少ないという特徴は、彼らの肉食への適応の結果だと考えられています。
そんな彼らの獲物はノウサギからスイギュウなどの大型草食獣まで多岐にわたりますが、その殺し方が凄惨です。
小型哺乳類の場合、獲物に咬みつくと激しく頭を振ります。
こうすることで、彼らの鋭い歯が一瞬にして獲物を絶命させます。
この頭を激しく振る行動はイエイヌにも見られます。
警察犬が犯人の腕に咬みつく様子は、まさにドールと同じです。
大型哺乳類の場合、ドールは群れで狩りをします。
群れは獲物に一斉に襲いかかり、短い時間で仕留めますが、長距離を追跡することもあります。
ドールの狩りに特徴的なのは、獲物の喉元に咬みつき息の根を止めるという殺し方をすることが一般的でないことです。
そのため、獲物が生きているうちから肉を食べ始めることも少なくありません。
下の動画では、閲覧注意ですがまさにその様子を見ることができます。
息がまだあるにもかかわらず、獲物は下半身を食われています。
厳然たる自然の摂理に人間の感情が入る余地はありませんが、獲物には同情してしまいます。
また、彼らの食べるスピードは半端ではありません。
1時間に4㎏もの肉を食べることができるため、獲物はあっという間にドールの胃袋の中に入ってしまいます。
同じ肉食のネコ科動物は、首筋に咬みつき、鋭い歯で脊髄神経を切断することで獲物を一瞬のうちに殺します。
獲物の気持ちになった場合、ドールの仕留め方はやはり残忍と言わざるを得ません。
ドールの生態
生息地
ドールは、標高5,000m以上の高原や密林、ステップなど、アジアの様々な環境に生息しています。
食性
主食は草食獣の肉ですが、最も好むのは40~60㎏の有蹄類です。
このような食性のために、トラやヒョウなどと競合しますが、群れの力で追い払ってしまうこともあります。
哺乳類の肉の他には、爬虫類や昆虫、のいちごなども食べます。
狩りは明るいうちに行われます。
捕らえた獲物は群れのメンバー皆で食べ、群れ内のケンカはほとんどありません。
形態
体長は88~113㎝、体重はオスが15~21、メスが10~13㎏、しっぽの長さは41~50㎝と、オスの方が大きくなります。
肩の高さは40~50㎝で、四肢はやや短めです。
外見は異なりますが、頭骨や歯の形状はリカオン(African Wild Dog)に似ています。
また、群れや狩り、繁殖などの生態も似ており、ドールは英語で“Indian Wild Dog”と呼ばれることもあります。
行動
ドールは、5~12頭の群れを作ります。
獲物の量により群れの大きさや行動域は変動し、群れは多い時には20頭以上、行動域は20~200㎢の幅を持ちます。
行動域は他の群れと重複せず、境界はフンでマーキングされます。
群れにはメスよりもオスの方が多く、繁殖するのは最も優位なオスとメスだけです。
そのため、群れの子供は全て1つがいの子供になります。
繁殖
ドールの繁殖には季節性があり、秋から冬にかけて行われます。
交尾時間は約7分で、交尾結合が見られます。
妊娠期間は60~63日、一度にふつう4~6匹の赤ちゃんが産まれます(最大9匹)。
出産、育児は巣穴で行われます。
巣穴は自分でも掘りますが、ヤマアラシなどが掘った穴や岩の間なども利用します。
育児は群れで協力して行われます。
母親は70~80日間ずっと巣穴で子を守る一方、他のメンバーは巣の見張り役を務めたり、狩りに出かけて母親や子どもたちに食べた肉を吐き戻して与えたりします。
赤ちゃんは生後約2カ月で離乳し、吐き戻された肉を食べ始めます。
そして生後7カ月ごろには狩りを手伝い始め、約1歳ごろには性成熟に達します。
寿命は、飼育下で長くても15~16年です。
人間とドール
絶滅リスク・保全
ドールは、様々な脅威のために個体数を減らし続けており、アフガニスタンやモンゴル、ロシアなどではすでに絶滅、ベトナムでも絶滅の可能性が指摘されています。
特に、人間による脅威はドールの生存に大きな影響を与えています。
例えば、有蹄類の密猟はドールの獲物を減らすことと同じであり、これがドールがかつての生息地から姿を消した最も大きな原因とされています。
また、特にアジア南部では人間による生息地の破壊、分断がドールやその獲物の脅威となっています。
ドールは、家畜を襲っているとして銃殺されるなど迫害の対象となることもあります。
毒性の強いストリキニーネや殺鼠剤(さっそざい)などを死んだ家畜に撒くことで、それを食べるドールを駆除することもあるようです。
中国やネパール、インドの他、かつてドールが生息していた旧ソ連でもこのような毒の散布があったと言われています。
これら人間の脅威の他、イエイヌからの伝染病という脅威、他の種との競合という脅威もドールを脅かします。
ドールは群れの力を使って、トラやヒョウを殺してしまうこともありますが、その逆もあり得ます。
獲物が少なくなると、このように競合することも増えると考えられます。
これら様々な脅威のため、あくまで予測ではあるものの個体数は今や4,500~10,500頭にまで減少しており、レッドリストでは絶滅危惧ⅠB類に登録されています。
動物園
そんなドールですが、なんと日本の動物園でも見ることができます。
国内では神奈川県のよこはま動物園ズーラシアが、このドールを飼育しています。
国内ではここでしか見られないドール、是非見に行ってみてください。