ヨーロッパビーバーの基本情報
英名:Eurasian Beaver
学名:Castor fiber
分類:ビーバー科 ビーバー属
生息地: ベラルーシ, 中国, フランス, ドイツ, カザフスタン, ルクセンブルク,モンゴル, ノルウェー, ロシア, オーストリア, ベルギー, クロアチア, チェコ, デンマーク, エストニア, フィンランド, ハンガリー, イタリア, ラトビア, リヒテンシュタイン, リトアニア, モンテネグロ, オランダ, ポーランド, ルーマニア, セルビア, スロバキア, スロベニア, スペイン, スウェーデン, スイス, ウクライナ, ブルガリア, イギリス
保全状況: LC〈軽度懸念〉
参考文献
Baker, B. W., and E. P. Hill. 2003. Beaver (Castor canadensis)
キーストーン種
皆さんご存知のように、ビーバーはダムを作ります。
川を堰き止めて川の流れを緩やかにするだけでなく、その結果として周囲に池や湿地を作るダムの他にも、自身のすみかとなるロッジを作ったり、エサとなる植物にアクセスしやすくなるように水路を掘ったりと、ビーバーは環境を大きく改変することができます。
このような種は生態系エンジニアと呼ばれています。
ビーバーが作る環境には、多くの生物が依存しています。
ダムに棲む水生昆虫や水生植物、それらを食べる魚類や両生類、鳥類、建築物を作るためにビーバーがかじった木々の新芽に卵を産むハバチなどの昆虫、湿地の植物を食べるヘラジカといった哺乳類。
このように、ビーバーという一種だけで、これだけの生物群集を支えているのです。
ビーバーのように、その大きさや数から想定されるよりもずっと大きな影響を他の生物群集に与える生物種のことを、キーストーン種と言います。
キーストーンとは、アーチの頂点に打ち込まれる石で、これがなければアーチは安定せず崩れ去ってしまいます。
キーストーン種として最も有名なのはラッコですが、ビーバーも負けていません。
アーチを支えるキーストーンのように、ビーバーも多くの生物を支えています。
大工ビーバーのからだ
水上にダムやロッジを作る大工・ビーバーは、その職務に適した体を持っています。
まず、材料となる木を切り倒すために使われる歯。
この歯は他の齧歯目の例に漏れることなく、一生生え続けます。
歯の外側は骨よりも固いエナメル質で、内側は象牙質でできています。
ビーバーの歯はオレンジ色をしていますが、これはエナメル質の化学構造に含まれている鉄分によるものです。
ビーバーの建築物は水上に建てられるため、その体は水中に適応していなければなりません。
ビーバーの後ろ足には水かきがあり、これが水中での推進力を生みます。
大きなしっぽは見た目の通りオールの役割を果たすだけでなく、張り巡らされた血管により温度調節にも一役買っています。
また、水中でも目を開けていられるように第三眼瞼(だいさんがんけん、いわゆる瞬膜)が発達しており、前歯の後ろのひだで口を閉じることができるため、水中でも枝をかじることができます。
さらに、水にぬれて体温が奪われないよう、体は約2.5㎝の下毛と約5㎝の保護毛にびっしりと覆われています。
この密で魅力的な毛皮は、過去に人間を狩猟へと駆り立て、ビーバーを絶滅の危機に追い込みました。
お尻には肛門腺があり、ここから出る分泌物は防水の役割を果たします。
ちなみに、この分泌物にはコミュニケーションの役割もあるようですが、ビーバーにはもう一つ香嚢という、なわばりをアピールするための物質が入った袋を、これもお尻付近に持ちます。
ここから出る分泌物は摂取される植物由来で、カストリウムと呼ばれています。
日本語では海狸香(かいりこう)とも言い、香料などに使われます。
ヨーロッパビーバーの生態
分類
ビーバー科には他にアメリカビーバーがいます。
アメリカビーバーはフィンランドやロシアに外来種として定着していますが、染色体の数が違う(アメリカビーバーは40本、ヨーロッパビーバーは48本)ので交配することはできません。
生息地
ヨーロッパビーバーは、東欧や北欧を中心に、モンゴルや中国にもわずかに生息しています。
池や湖、川などがありエサとなる植物が周りにある所には生息することができます。
農場にも姿を現わすことがあります。
形態
ビーバーはカピバラの次に大きい齧歯類です。
体長は70㎝~100㎝、体重は13~35㎏、尾長は約30㎝で、メスの方が大きい場合が多いようです。
アメリカビーバーと比べると、尾がやや狭く、毛皮の色の頻度が違います。
その他、ヨーロッパビーバーの方が、肛門腺が大きいといった違いがあります。
食性
ビーバーは植物食です。
水生植物や植物の蕾、葉、根、冬になるとアスペンやヤナギの樹皮などを食べます。
農場に現れ作物を食べることもあります。
ビーバーは後腸発酵動物で、盲腸に住まわせたバクテリアのおかげでセルロースを分解することができます。
また、ビーバーには糞食が見られます。捕食者にはオオカミやヒグマ、アカギツネなどがいます。
行動
ビーバーは主に夜行性です。
日中はロッジや土手に作った巣穴で休息します。
なわばり性が強く、巣をつくる泥などにカストリウムでマーキングします。
また、ビーバーには、エサが少なく、水面を氷が覆う冬のために、温かいうちに枝などのエサを水中にためておく習性があります。
社会
ビーバーは多くて10頭ほどの一夫一妻制の社会を作り、その群れはコロニーと呼ばれます。
子育ては家族全員で行い、育った子供は1.5~2歳で独り立ちします。
その後、自ら繁殖しコロニーを持つまで他のコロニーで暮らすこともあります。
繁殖
ヨーロッパビーバーは一般的に12~3月に交尾し、3~4カ月の妊娠期間の後、2~6匹、平均3匹の赤ちゃんを産みます。
生まれたての赤ちゃんは230~630gで、6週齢ごろ離乳します。
性成熟は3歳ごろ、寿命は野生で約8年です。
人間とヨーロッパビーバー
絶滅リスク・保全
20世紀初頭、ヨーロッパビーバーは約1,200匹しか生存していませんでした。
毛皮やカストリウム、肉を目的とした狩猟や、生息地の破壊が原因です。
カトリック教会が、カワウソやクジラ、ビーバーなど水辺に暮らす哺乳類を魚類としていたことも、肉目的の狩猟を促したことでしょう。
しかし、その後保全が進み、今では100万を超えるまで回復しています。
イギリスでも一度は絶滅していますが、再導入により今では数百頭が生息しています。
現在レッドリストでは軽度懸念の評価で、個体数は増加中と推定されています。
ただ、アジアでは依然その数は少なく、中国では約700頭しか生存していないと推測されています。
動物園
残念ながらヨーロッパビーバーを見ることができる動物園は日本にはありません。
ただ、近縁種のアメリカビーバーには多くの動物園や一部の水族館で会うことができるので、是非足を運んでみてください。