ノロジカの基本情報
英名:European Roe Deer
学名:Capreolus capreolus
分類:鯨偶蹄目 シカ科 ノロ属
生息地:アルバニア、アンドラ、アルメニア、オーストリア、アゼルバイジャン、ベラルーシ、ベルギー、ボスニアヘルツェゴビナ、ブルガリア、クロアチア、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ジョージア、ドイツ、ギリシャ、グリーンランド、ハンガリー、イラン、イラク、イタリア、ラトビア、リヒテンシュタイン、リトアニア、ルクセンブルク、モルドバ、モナコ、モンテネグロ、オランダ、北マケドニア、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、ロシア、サンマリノ、セルビア、、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、スイス、シリア、トルコ、ウクライナ、イギリス
保全状況:LC〈軽度懸念〉

バンビのモデル
ヨーロッパを中心に広く分布する小型のシカ、ノロジカ。
メスは春から夏にかけて通常双子の赤ちゃんを産みますが、赤ちゃんには斑点模様があります。
その姿を見ると、ディズニー映画の『バンビ』を思い出しますが、ノロジカはこのバンビと大いに関係があります。
ディズニーの『バンビ』は北米を舞台としており、バンビ自身は大型のシカであるアメリカアカシカ(ワピチ、北米ではエルクと呼ばれる)の子とされています。
ただ、ディズニー映画『バンビ』の原作はハンガリー出身のフェーリクス・ザルテンによる反狩猟文学の白眉『バンビ』であり、その舞台は当然ヨーロッパです。
ヨーロッパにはアメリカアカシカは生息していないため、原作のバンビには別のモデルがいる可能性があります。
その原作のバンビこそ、ノロジカなのです。
ところで、ノロジカは夏に交尾し、翌年の春から夏にかけて出産します。
バンビもある春の朝に生まれています。
そうなるとノロジカのメスは1年近い妊娠期間を経験することになりますが、これは他のシカの妊娠期間が約8ヵ月であることと比べると非常に長いです。
ここには有蹄類では極めて珍しいある秘密が隠されています。
精子と卵子が結びつき受精卵となったのち、通常その受精卵は子宮に着床し成長を進めていきます。
しかし、一部の動物たちは受精卵がしばらく子宮内を浮遊し続け、着床が遅れるという現象が見られます。
これは着床遅延と呼ばれ、クマや鰭脚類、イタチなどの一部の哺乳類に見られます。
上記の動物たちは食肉目の中でもクマ下目と呼ばれるグループに分類される比較的近縁な動物たちですが、鯨偶蹄目に分類されるノロジカはクマ下目を除いてこの着床遅延が見られる珍しい動物なのです。

着床遅延には種によって様々な適応的意義があると思われますが、ノロジカの場合、冬の出産を避けるために着床が遅延すると考えられています。
冬はエサが少ない厳しい季節で、母親にとってはこの時期に育児をするのは大変です。
かといって妊娠期間を長びかせ、おなかの中でますます大きくなる子供を抱えながら生活するのもまた大変です。
交尾期をずらせばいいのではと思ってしまいますが、シカはオスが交尾期に合わせて角を成長させる動物で、こうしたこともあり交尾期を変えることは一筋縄ではいかなかったのでしょう。
着床遅延という武器をノロジカが持たなければ、私たちがあの可愛いシカのキャラクターを見ることはなかったかもしれません。

ノロジカの生態
生息地
ノロジカは標高2,400mまでの落葉樹林や針葉樹林、混交林などの森林や湿原、農地にも出現します。
形態
体長は107~126㎝、肩高は66~83㎝、体重は22~30㎏、尾長は2~3㎝でオスの方がメスよりもやや大きくなります。
耳は12~14㎝で、顕著な眼窩前腺がありません。
春と秋に換毛し、メスは冬にはしっぽのような毛を生やします。
オスには3つの先端を持つ角(アントラー)が生えますが、角は毎年10~12月にかけて抜け落ちます。

食性
ノロジカの食べるもののうち、75%を草本類が、残りを木本類が占めます。
1,000種以上の植物を利用でき、葉や種子、果実を食べ、冬には針葉樹の樹皮なども食べます。
捕食者にはオオカミの他、ユーラシアオオヤマネコやアカギツネが知られています。



行動・社会
24時間活動できますが、薄明薄暮時に最も活発になります。
主に単独性ですが、冬には群れで見られます。

繁殖
繁殖は6月から8月にかけて見られ、出産は4月から7月に見られます。
メスは1~1.7㎏の赤ちゃんを1~3頭産みます。
赤ちゃんは斑点のある毛におおわれ、目が見えた状態で生まれますが、最初の数日はあまり動けません。
その後成長し、生後2週で出生時の倍の体重になります。
秋ごろ、遅くとも12月までには離乳し、その後独立していきます。
寿命は長くて15年です。
人間とノロジカ
絶滅リスク・保全
ノロジカは全体として増加傾向にあり、個体数は1,500万頭をこえると推測されています。
この状況には田舎から人がいなくなったり、狩猟の管理が行き届いたり、再導入が進んだりといった要素が関係しているようです。
ただ、トスカーナ南部など一部地域ではノイヌや亜種同士の交配により絶滅が懸念されている個体群が存在します。
IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。

動物園
日本でノロジカを見ることはできません。