書籍情報
書名:オランウータン 森の哲人は子育ての達人
著者:久世濃子
発行年:2018年
価格:3,000円(+税)
ページ数:177ページ
■目次
プロローグ アジアの隣人
第1章 無視された類人猿との出会い―動物園のオランウータン
第2章 動物園と野生のはざまで―半野生のオランウータン
第3章 森の哲人のすみか―野生のオランウータン
第4章 孤独だけど孤立しない―オランウータンの社会
第5章 究極の孤育て―オランウータンの子育て
第6章 オランウータンの現状と未来
エピローグ これからのオランウータン調査研究
貴重なオランウータンの本
日本でオランウータンと言えば、動物園でも飼育されておりサルの中でもかなり名の知れたほうですが、実はオランウータンの日本人研究者は非常に少ないです。
そのため、日本語での論文や書籍がほとんどありません。
これは、チンパンジーやゴリラといった大型類人猿の研究が日本で盛んであるのとは対照的です。
そんな中、本書は約20年もの間オランウータンを追ってきた日本人研究者によって、「1960年代以降、各国の研究者がオランウータンを対象として行ってきた様々な研究成果を紹介し、オランウータンの行動、生態、能力に関する最新の知見を、日本語で届けることを目的に執筆(p.p.XⅢ~XⅣ)」された貴重な本です。
同じ類人猿のなかまであるオランウータンとはどんな生き物なのか、意外に知られていない彼らのその顔を本書は伝えてくれます。
本書では、オランウータンについてはもちろん、著者がなぜオランウータン研究者となったのか、どのように調査地を選んだのかなどなど、著者自身についても書かれています。
また、冒頭のなぜオランウータン研究者が少ないのかということにも触れられています。
研究の難しさや楽しさ、それを知るためにも本書は助けになるかもしれません。
森の哲人は子育ての達人
「森の哲人は子育ての達人」。
これは本書のサブタイトルです。
オランウータンはマレー語で「森の人」という意味ですが、一人で何か深く考えているような素振りから「森の哲人」と言われることもあります。
このことから、サブタイトルは「オランウータンは子育ての達人」と言い換えることができますが、これはどういうことなのでしょう。
詳細については是非本書を読んでほしいのですが、オランウータンの社会は超少子化社会です。
メスの出産間隔は7年と非常に長く、双子が生まれることもほとんどありません。
その代わり、母親が子を連れる期間がとても長いです。
さらに、母親は自分の採食時間より我が子が他の子と遊ぶ時間を優先するという報告もあります。
つまりオランウータンの母親は子供に多くのコストをかけているのです。
その結果、著者らの調査によると、メスが15歳まで生存できる確率は94%にもなります。
これは野生動物の中でも圧倒的な数字です。
オランウータンは、わが子を大人になるまで無事育てあげる「子育ての達人」なのです。
著者はオランウータンのメスの繁殖を専門としています(p130)。
また、著者は自身も出産を経験しています。
本書はオランウータンに関する数少ない本であるだけでなく、そんな著者のバックグラウンドがよく出ている本だと思います。
『オランウータン 森の哲人は子育ての達人』。
是非ご一読ください。