マダライルカの基本情報
英名:Pantropical Spotted Dolphin
学名:Stenella attenuata
分類:鯨偶蹄目 マイルカ科 スジイルカ属
生息地:北太平洋、南太平洋、北大西洋、南大西洋、インド洋
保全状況:LC〈軽度懸念〉
参考文献
キハダマグロ漁
鯨類の中には、他の鯨類と一緒に行動することがあるものがいます。
例えばハナゴンドウはカマイルカやハンドウイルカなどとよく行動を共にする姿が観察されます。
このように混成群を作る理由はよくわかっていませんが、捕食者に対する目を増やす、エサを効率よく見つけるなどと言った効果があると考えられています。
ちなみに他の種と集団を作る姿は霊長類でも知られています。
さて、斑紋が特徴的なマダライルカですが、彼らもまた、ハシナガイルカとの混成群を作ることが知られています。
しかし彼らはイルカだけでなくそれ以外の生物とも行動を共にします。
その相手というのがキハダマグロです。
東部熱帯太平洋では、キハダマグロの上をマダライルカが泳ぐ様子がしばしば見られます。
同じようなコミュニケーションをするイルカ同士の群れであればまだ理解できますが、イルカとマグロの群れとなるともっと不思議です。
双方に何かメリットがあるのでしょうか。
しかし、マダライルカからすると、キハダマグロと連れ立っていることでかなりの被害を受けています。
アメリカの漁業者は1950年代から大規模な巻き網漁を開始します。
標的はキハダマグロ。
しかし彼らがマダライルカと行動を共にしていることから、漁師はイルカごとマグロを捕らえます。
これをイルカ巻きと言い、捕獲されたイルカは殺され、廃棄されていました。
このような状況は1980年代まで続き、東部熱帯太平洋では、1959年から1972の間に300万頭以上のマダライルカが捕獲され、廃棄されたといいます。
これは大きな問題となり、その後巻き網の改良とイルカを逃がす方法が開発され、それがアメリカで義務化されます。
その結果、1998年以降、捕獲数は年間1,000頭以下になり、2016年には238頭まで下がりました。
しかし、イルカ巻きがマダライルカの個体群に与えた影響は甚大で、現在の個体数はイルカ巻きが始まった当初の約2割にまで減少したと推測されています。
マダライルカは本来アクロバティックなイルカで、船のへさきにできる波に乗るバウライディングもよくしますが、イルカ巻きの被害にあった東部熱帯太平洋では、船を避ける傾向にあるといいます。
あまりにも不憫です。
マダライルカの生態
生息地
マダライルカは、北緯40度から南緯40度の間の熱帯から温帯の海域に生息します。
水温19度以上の、主に沖合で過ごしますが、中南米の太平洋側に生息する亜種(Stenella attenuata graffmani)は沿岸性です。
日本近海にも生息しており、日本周辺で暮らすイルカの中では最も高温域を好むと思われます。
形態
オスは体長1.6~2.6m、メスは1.6~2.4m、体重は90~120㎏で沿岸性の方がやや小さい傾向にあります。
生まれたばかりの赤ちゃんには斑紋はありませんが、大人になるについて腹から背に斑紋ができます。
斑紋は沿岸性の方が多いです。
上下のあごにはそれぞれ34~48対のとがった歯が生えています。
食性
表層と中心層にいる魚類やイカ、甲殻類などを食べます。
採餌は主に日中行います。
行動・社会
平均で70~170頭からなる群れで暮らします。
時に数千頭からなる場合もあります。
ハシナガイルカなど他のイルカやキハダマグロと行動をともにすることもあります。
アクロバティックでジャンプやポーパシング、バウライドなどをよく行います。
繁殖
出産は通年行われますがピークが存在します。
メスの出産間隔は3~4年で、約9ヵ月の妊娠期間ののち、80㎝ほどの赤ちゃんを一頭生みます。
赤ちゃんは2~3年で完全に離乳し、9~12歳のころ性成熟に達します。
寿命は最大で39~45年です。
人間とマダライルカ
絶滅リスク・保全
マダライルカは全体で230万頭以上いると言われており、IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。
日本でも捕鯨されてきましたが、その歴史は比較的新しく1950年代末から。
伊豆半島では1978年から1983年の間に1万2,437頭が捕獲されていますが、当時捕獲できなくなっていたスジイルカの代替として捕獲されていたようです。
これをピークに捕獲数は漸減しており、2022年度では329頭の捕獲枠に対して一頭も捕獲されていません。
世界的にみるとスジイルカはフィリピンやマダガスカル、ソロモン諸島などで捕鯨されています。
また、スリランカやインドでも混獲されることが少なくないようです。
動物園
マダライルカは、日本では沖縄県の美ら海水族館と、大分県の大分マリーンパレス水族館「うみたまご」で見ることができます。
また、捕鯨の中心地である和歌山県太地町のくじらの博物館でも飼育されています。