アカカンガルーの基本情報
英名:Red Kangaroo
学名:Osphranter rufus
分類: 双前歯目 カンガルー科 カンガルー属
生息地: オーストラリア
保全状況: LC〈軽度懸念〉
参考文献
着床遅延
カンガルーは言わずと知れた有袋類の一種ですが、有袋類の特徴として、赤ちゃんが未熟な状態で産まれてくることが挙げられます。
アカカンガルーも、約1カ月という短い妊娠期間の後、体長2.5㎝、体重1gにも満たない赤ちゃんを1匹産みます。
赤ちゃんはこの後、母親の袋の中で育てられるのですが、驚くべきことに、母親は出産後1,2日したら早くも交尾を始めます。
もしこれで交尾がうまくいけば、また1カ月後には新たな赤ちゃんが産まれることになりますが、そうなると母親の負担が半端ではなくなります。
そこでカンガルーが取る戦略が、着床遅延というものです。
着床遅延とはその名の通り、いいタイミングになるまで胚を胚盤胞という状態で発育を停止させ、着床を遅らせることを言います。
着床遅延はカンガルーの他、クマやイタチなどの肉食動物でも見られます。
カンガルーの場合、胚の発育を再開させるいいタイミングはすでに袋の中で発育している子供が成長もしくは死ぬなどして袋を出るまでです。
母親の乳首は袋の中にありますが、授乳の頻度が落ちることが引き金となり、胚の発育が再開すると言われています。
このような着床遅延により、アカカンガルーはある時点で最大3匹の命を身に宿し、育てることができます。
つまり、袋を出た子供(ちなみにアカカンガルーの子供は約1歳で離乳します)、袋の中の子供、そしてまだ着床していない状態の胚です。
さぞかし大変な子育てでしょうが、アカカンガルーは時間的に効率的な繁殖戦略を持っていると言えるでしょう。
アカカンガルーの生態
生息地
アカカンガルーは、オーストラリアの沿岸部を除く全域に広く生息しています。
草原や低木地など、開けて休める陰がある所で暮らします。
彼らの生息地の年間降水量は500㎜と非常に少なく、乾燥しています。
形態
体長はオスが1.3~1.6m、メスが0.8~1m、体重はオスが55~90㎏、メスが18~40㎏、尾長は65~120㎝で、性的二型が顕著です。
立ち上がると2m近くまでになるアカカンガルーは、現生有袋類では最大種となります。
毛色についてオスは赤みがかっていますが、メスは青色を感じさせる灰色をしています。
ただ、地域によってはその色が雌雄逆転する場合もあります。
食性
アカカンガルーは草食動物で、草や葉を主食とします。
カンガルーは大きな胃を持っており、ここに細菌を住まわせ、彼らに発酵してもらうことで草本類の消化を効率的にしています。
捕食者としては、ディンゴが知られています。
行動
アカカンガルーは夜行性ないし薄明薄暮性ですが、日中活動する場合もあります。通常、日中は木陰で休息しています。
アカカンガルーは、ホッピングと呼ばれる両足を使ったジャンプで、時速60km以上にも達する速さで走行することができます。
ジャンプは最長水平方向に8m、垂直方向に3mにまで達します。
オスはメスをめぐってのみ争います。
ボクシングと表現されることが多いその戦いでですが、決定打は強靭な脚を使ったキックです。
しっぽで全体重を支え、両足で相手を蹴るのです。
社会
アカカンガルーは10頭程度から成るモブと呼ばれる単雄複雌の群れを作ります。
群れにはブーマーと呼ばれる一頭のオスの他、複数のメスとその子供たち、場合によっては下位のオスがいることもあります。
成長した子どもはオスだけが群れを離れます。
オスのなわばり性は弱く、そのためえさ場にモブが複数集まって1,500頭近くの大集団を作る場合もあります。
繁殖
アカカンガルーの繁殖は年中行われますが、干ばつ時には行われません。
33日の妊娠期間の後、一頭の赤ちゃんが産まれます。
嚢子(のうし)と呼ばれる未熟な赤ちゃんは、自力で育児嚢の中に入り、半年ほどその中で育ちます。
生後2カ月ごろまでは乳首に吸い付いたまま過ごします。
生後8カ月ごろには完全に袋から離れますが、完全離乳は約1歳ごろです。
性成熟にはオスが20~24カ月齢、メスが15~20カ月齢で達します。
寿命は飼育下で約20年です。
人間とアカカンガルー
保全
アカカンガルーの個体数は、現在100万頭を優に超えると言われており、絶滅についてはIUCNのレッドリストでも軽度懸念とされています。
アカカンガルーは人間社会でよく消費されており、年間100万頭以上が狩猟されています。
肉として食べられることが一般的で、カンガルーの肉は脂肪が2%と非常に少ないことで知られています。
カンガルー産業は約3億豪ドルの市場規模を持ち、4千人以上の雇用者を産んでいると推定されています。
動物園
アカカンガルーには、北は北海道から南は宮崎県まで、全国津々浦々の動物園で見ることができます。
各地のサファリパークでも見ることができますので、彼らの移動に是非注目してみてください。
最も前述のように、日中はだらだらしていることが多いのですが。