キリンの基本情報
英名:Giraffe
学名:Giraffa camelopardalis
分類:キリン科 キリン属
生息地:アンゴラ, ボツワナ, カメルーン, 中央アフリカ共和国, チャド, コンゴ共和国, コンゴ民主共和国, エチオピア, ケニア, モザンビーク, ナミビア, ニジェール, ソマリア, 南アフリカ共和国, 南スーダン, タンザニア, ウガンダ, ザンビア, ジンバブエ, エスワティニ, ルワンダ
保全状況:絶滅危惧Ⅱ類
首が長いのは…
言わずと知れた世界一背の高い哺乳類、キリンですが、その祖先はキリン程のっぽではありませんでした。
では彼らは、なぜあれほどの進化を遂げ、長い首(あまり注目されないけれど、脚も長い)を手にしたのでしょうか?
実はまだこれといった決定的な理由はありません。
そこで、ここではその理由となりうる可能性をご紹介しましょう。
最もポピュラーなのは、「首が長いと高い所の葉っぱを食べることができ、それが生存上有利で、更に多くの子孫を残すことができたから」という説明です。
しかし、実はキリンが頭の高さの葉っぱを食べていることは少なく、肩の高さの葉っぱを食べることが大半であるようです。
キリンの首の長さがあれほど長い理由としては不十分であると言われても仕方ないように思われます。
二つ目は、「首が長いオスは、同性とのメスをめぐる戦いの際に有利で、より多くの子孫を残すことができたから」というものです。
確かにオスはメスをめぐってネッキングと呼ばれる闘争を繰り広げますが、これだけではメスも首が長い理由を説明できません。
この他にも、先に脚が長くなり捕食の危険性が減ったが、水を飲むのに難儀なため、脚も首も長いキリンが生き残ったと言う説などがありますが、ここで注意すべきことが一つ。
進化には目的がありません。
つまりここでは、高い所の葉っぱを食べるためにとか、メスをめぐる同性との戦いに勝つためにという目的のために、キリンはのっぽになったわけではないということです。
突然起きた遺伝子変異がたまたま背の高さやそれを支える筋肉、血管などに関係するもので、それが生存や繁殖に有利だったために、のっぽになっただけであって、最初から進化の方向が決まっていたわけではないのです。
キリンに限らず、地球上のあらゆる生き物が今そのような姿でいるのは、偶然に依るところが大きいのです。
首が長いから…
首が長いことで、キリンは様々なメリットを享受しています。
例えば、他の動物が届かないところの葉っぱを食べることが出来たり、遠くを見渡すことが出来たりといったことは、首が長くて背が高いからこそです。
その一方で、首が長いために生じる問題もあります。
一つは血の巡りに関する問題です。
キリンのような背の高い体中に血液を巡らせることは、重力の存在もあり、難しいことです。
キリンはそれを強靭な心臓をもって解決します。
キリンの心臓はとても大きく、人間の50倍ほどの体積があります。
また、肺から帰ってきた血液を全身に送り出す左心室の壁の厚さは8㎝もあります。
この巨大ポンプのおかげでキリンはその体中に血を巡らせているのです。
ちなみに、キリンの血圧は250mmHg/200mmHgで、一般的な哺乳類の倍ほどもあります。
当然、血管はその血圧に耐えるために、他の哺乳類よりも厚く作られています。
血の巡りで言うと、もう一つ水を飲むときに問題が生じます。
キリンは水を飲むとき、4,5mの高さから頭を下ろしますが、この時脳内に急激に血液が入ります。
逆に頭を上げると、今度は急激に血液が出ていきます。
キリンは奇網(ワンダーネット)と呼ばれる網目状の毛細血管の塊を頭に持つことによって、これを防いでいます。
ちなみに、この奇網は他の偶蹄類でも報告されています。
また、頭を下げたときに頭から心臓に戻る血が逆流しないよう、頸静脈には弁が存在します。
首が長いことで、死腔(デッドスペース)の問題も生じます。
死腔とは、ガス交換に関与しない気道部分のことです。
キリンはその首の長さのために死腔が非常に大きく、そのために空気を吸って肺に届けたり、使った空気を吐き出したりするのが非常に非効率的な仕事になっています。
これに対し、キリンは死腔の大部分を占める気管を細くすることで、何とか凌いでいます。
キリンもキリンでいるために、色々と大変そうです。
キリンの生態
分類
レッドリストで有名なIUCNは、その形態や地理的要素にもとづき、キリンは1種であるとし、9亜種の存在を認めています。
ただ、野生キリンの保全や管理を集中的に行う世界唯一のNGOであるGCF(Giraffe Conservation Foundation)などは、DNA研究にもとづき、キリンをマサイキリン、アミメキリン、キタキリン、ミナミキリンの4種としています。
生息地
キリンは主に東アフリカ、南アフリカ、局所的に西アフリカ、中央アフリカに生息しています。
生息環境は、サバンナやウッドランドなどの乾燥地帯です。
形態
キリンの体長はオスが5~6m、メスが4~5m、体重は最も大きいもので1.9tほどですが、オスが平均1.2t、メスが平均0.8tとなります。
しっぽは1m近くあり、ハエなどの虫をはたくため先には長い毛が生えています。
キリンは生まれたときから角がある唯一の哺乳類です。
この角はオシコーンと呼ばれ、中は骨で出てきています。
さらにこの骨(皮骨:ひこつ)は頭骨と離れており、大人になるにつれて癒合していきます。
また、オスの角の方がより発達しています。
皮骨から成るキリンの角は3本で頭の2本と額の1本。
後頭部のでっぱりは、頭骨の一部が変形したもので、この2本が数えられてキリンの角は5本とされることもあります。
食性
キリンは主にアカシアの葉を食べます。
その他にも百種類近くの植物を食べるようですが、多くを占めるのは数種類だと言われています。
キリンは反芻動物であり、4つの胃を持っています。
捕食者には、ライオン、ヒョウ、ブチハイエナが知られています。
行動
キリンは昼行性の動物です。
睡眠時間は4.5時間ほどで、立ったまま休息をとることもできます。
行動圏は広い場合は600㎢を超えるようで、なわばり性は弱いです。
キリンはその長い脚で最高時速60km/h近くの速さで走ることができます。
社会
キリンは10~20頭から成る離合集散する緩い群れを作ります。
メスの方がより社会的で、成熟した後もメスに留まる場合があります。
一方、成熟したオスは単独で観察されることもあります。
オスはメスをめぐって、ネッキングと呼ばれる、首を振り回して頭を相手の体にぶつけると言う闘争を繰り広げます。
強いオスはより多くのメスと交尾することができます。
繁殖
キリンは雨季に妊娠し、乾季に出産することが多いようです。
出産間隔は20~30カ月、妊娠期間は約15カ月で、通常1頭の赤ちゃんが立ったままの母親から産み落とされます。
赤ちゃんの大きさは体長1.5~1.8m、体重50~55㎏です。
12~16カ月で離乳し、22カ月齢ごろまで母親と共にいます。
性成熟は3~5歳ですが、実際に繁殖を始めるのは6~7歳ごろのようです。
寿命は野生下で15年ほど、飼育下では40年近くまで生きた個体がいます。
人間とキリン
保全
先述のGCFによると、キリンは現在12万頭近く生存していると推定されています。
一方、IUCNの推定はそれよりもやや少なく、10万頭以下。
また、IUCNは1985年~2015年の間で40%近く個体数が減ったとしています。
現在、IUCNのレッドリストにおいて、キリンは絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。
主な原因は農地への転換や肉目的の密猟などの人間活動によるものです。
幸いキリンはビッグファイブ(ライオン、ヒョウ、アフリカゾウ、アフリカスイギュウ、サイ)などのように狩猟の対象としての価値は高くなく、ナミビアや南アフリカといった狩猟が合法な国では個体数が増えている場合もあるようです。
参考文献:AFRICA’S GIRAFFE — A CONSERVATION GUIDE
動物園
誰もが一度は見たことがあるように、キリンは全国各地の動物園で見ることができます。
多くはアミメキリンですが、鹿児島県の平川動物公園、宮崎県のフェニックス自然動物園、熊本県の熊本市動植物園ではマサイキリンを見ることができます。
また、日本の動物園のアミメキリンの一部はキタキリンとの交配によって生まれた個体の子孫がいるようです。
動物園ごとのキリンの特徴を見つけるのも一つの楽しみかもしれません。