ハリモグラの基本情報
英名:Short-beaked Echidna
学名:Tachyglossus aculeatus
分類:ハリモグラ科 ハリモグラ属
生息地:オーストラリア, パプアニューギニア, インドネシア
保全状況:LC〈軽度懸念〉
ハリネズミでもモグラでもなくハリモグラ
危険を察知して丸くなる姿は大きいハリネズミのよう。
目が退化したその顔は、名前にある通りモグラのよう。
しかし、ハリモグラは系統的に彼らとは全く異なる存在です。
ハリモグラは、カモノハシと同様、単孔目に分類される単孔類の一種です。
単孔類は、単孔類以外の現生哺乳類がすべて含まれる真獣類や有袋類の祖先とは2億年近くも前に分岐したと言われています。
そのため、単孔類そしてそれに含まれるハリモグラは他の哺乳類にはない特徴を持っています。
単孔類の特徴と言えば、その名の通り糞尿が通る穴が一つであることです。
この穴は総排出孔と呼ばれます。
この総排出孔の存在は爬虫類などとそっくりな特徴です。
そのために、ギリシャ神話に登場する上半身が美女、下半身がヘビの怪物のEchidna(エキドナ)の名前がハリモグラの英名に使われているのかもしれません。
ところでこの総排出孔、メスの場合、ここをさらに卵が通ります。
そう、胎生ではなく卵生であることも単孔類の大きな特徴です。
当初、総排出孔をもつことから単孔類が卵生であることが疑われましたが、後に彼らが爬虫類や鳥類と異なり哺乳をすることが分かると、哺乳類なのに本当に卵生であるのかという疑問が沸き上がりました。
しかし1884年、発生学者のカルドウェルが、ハリモグラがお腹の袋から卵を落とすのを見つけたことで、単孔類は卵生の哺乳類であるという事実が確認されることとなりました。
人間を困惑させるほどの特徴を持った単孔類・ハリモグラ。ユニークです。
カモノハシとの違い
ハリモグラが属する単孔類には、嘴が特徴的なカモノハシがいます。 ここではハリモグラとカモノハシを比較して、特にエサを探す手段に注目してその違いをみてみることにします。
カモノハシは、獲物が発する電気信号をキャッチするエレクトロレセプターが、嘴の上に4万もあり、これにより水中で獲物を探し当てます。
一方、陸上で生活するハリモグラの吻にはこの受容器が100分の1程度と、痕跡的にしか存在しません。
ではハリモグラはどのようにエサを探し出すのかというと、彼らはにおいでエサを見つけます。
実際、ハリモグラは嗅覚がカモノハシよりも優れています。
脳の嗅覚を司る部分である嗅球がカモノハシのものより大きいこともそれを示しているでしょう。
また、カモノハシのオスには、かかとの部分にけづめと呼ばれる、毒を相手に注入する針のようなものがあります。
これは主に繁殖期のオス同士のケンカの時に使われます。
ハリモグラのオスにも同じようなけづめがあるのですが、そこから出る分泌物は毒と言えるほどのものではありません。
この分泌物には揮発性の物質が多く使われており、ハリモグラのオスはこれをメスの誘惑に使っているのではないかと考えられています。
ハリモグラにおいては、エサ探しだけでなくコミュニケーションにおいても、どうやらにおいが重要であるようです。
ちなみにハリモグラはタヌキのようにタメ糞をすることがありますが、これも何らかの情報を他の個体に与えるものであると言われています。
ハリモグラの生態
生息地
ハリモグラは、タスマニア島を含むオーストラリア全土およびニューギニア島(パプアニューギニア、インドネシア)に生息します。
熱帯雨林や乾燥林などで暮らし、農地で見られることもあるようです。
自分で掘った巣穴や、ウサギやウォンバットなど他の動物が掘った巣穴で生活します。
形態
体長は30~40㎝、体重は2~7㎏でオスの方が大きくなります。
背中を覆う特徴的な針は、毛と同じケラチンというタンパク質からできています。
ハリモグラに歯はありませんが、産まれたばかりの赤ちゃんには卵を破るための卵歯と呼ばれる歯が生えています。
ハリモグラは比較的大きく複雑な脳を持っています。
また、体温が約33度と低く、32度のカモノハシと共に、哺乳類ではもっとも低体温の部類に入ります。
代謝率も低いですが、冬眠中に覚醒した時の代謝率は通常10倍近くまで跳ね上がるようです。
食性
ハリモグラの主食はアリとシロアリです。
長い吻、長くてべとべとした舌、穴を掘るための強靭な前足と爪は、この食性によく適しています。
捕食者にはキツネやイエイヌ、ヘビが知られています。
行動
ハリモグラは主に単独性の動物です。
ハリモグラは秋から春にかけて冬眠をします。
体温は10℃くらいまで下がり、断続的に覚醒することもあるようです。
繁殖
ハリモグラは6~8月にかけて交尾をします。
交尾は毎繁殖期に一頭のオスとのみ行われるようです。妊
娠期間は23~27日で、通常1個の卵を産みます。
卵はおなかの袋で温められ、10日ほどで孵化します。
ハリモグラには乳頭がないため、毛穴から染みだす母乳で赤ちゃんは育ちます。
生後50日前後まで袋の中で育てられたのち、巣で育てられます。
生後150~200日まで母乳で育ちます。
大人のサイズになるには3~5年かかります。
寿命は同じサイズの哺乳類から考えると3倍ほど長く、飼育下では50年も生きた例があるようです。
野生下では15年前後と考えられています。
人間とハリモグラ
絶滅リスク・保全
現在ハリモグラには、彼らの生存を危ぶめる大きな脅威はないと考えられています。
パプアニューギニアの一部地域では食料目的の狩猟が地域的な減少に繋がっているようですが、絶滅の懸念は小さく、IUCNのレッドリストでは軽度懸念とされています。
動物園
同じ単孔類であるカモノハシは日本では見ることが出来ませんが、ハリモグラには日本の動物園でも見ることができます。
日本では、東京都の上野動物園と、愛知県の東山動物園がハリモグラを飼育・展示しています。
最も原始的な哺乳類である彼らを見に、是非これら動物園に足を運んでみてください。