ミナミケバナウォンバットの基本情報
英名:Southern Hairy-nosed Wombat
学名:Lasiorhinus latifrons
分類:ウォンバット科 ケバナウォンバット属
生息地:オーストラリア
保全状況:NT〈準絶滅危惧〉
参考文献
ウォンバット
ウォンバットはオーストラリアの固有種で、有袋類の一種です。
ウォンバットには、鼻に毛があるミナミケバナウォンバット、キタケバナウォンバットと毛がないヒメウォンバットの3種類が存在します。
このうち最大種のキタケバナウォンバットは数百頭ほどしか生存しておらず、IUCNのレッドリストでは最も絶滅があやぶまれる絶滅危惧ⅠA類に指定されています。
ウォンバットの特徴は、掘削性・穴居性であることです。
彼らはたくましい前肢で穴を掘り、その中で暮らします。
ウォンバットはカンガルーのような育児のための袋・育児嚢を持ちますが、そこに土が入らないようにするためか、出入り口はお尻側に開いています。
穴の長さは30mに及ぶものもあり、用途に応じた部屋が存在します。
穴の中は1年中15~25度に保たれており、厳しい寒さや暑さから彼らを守ります。
ウォンバットは植物食の動物です。
有袋類では唯一、一生伸びる前歯で固い植物でも嚙み切ります。
しかし、哺乳類は植物の細胞壁を作るセルロースを消化することができません。
そこでウォンバットは細菌を腸に住まわせ、植物を発酵・分解してもらうことで、そこから生まれる揮発性脂肪酸を吸収しエネルギーを得ます。
ウォンバットはこれを主に大腸の、特に結腸で行いますが、このような動物を、ウシのような胃で食物を発酵する前胃発酵動物に対して、後腸発酵動物と言います。
ウォンバットの腸は約9mと人間よりも長く、ここを食物は最長2週間かけて通ります。
そうして最後に出てくる糞が四角いこともウォンバットの特徴です。
ちなみに、比較的近縁のコアラは盲腸で発酵しますが、ウォンバットの盲腸は痕跡的にしか存在しません。
ミナミケバナウォンバットの生態
生息地
ヒメウォンバットは、オーストラリア南部の、半乾燥地帯に生息します。
低木林やサバンナ、ウッドランドで暮らします。
形態
体長は平均85㎝、体重は平均26㎏、大きいものでも32㎏で、ウォンバットの中では最小になります。
しっぽの長さは2㎝と短く、ほとんど毛に隠れています。
ウォンバットでは陰嚢、精巣の下降が見られません。
これは彼らが掘削性・穴居性の動物であることに関係していると見られています。
食性
ウォンバットは植物食です。
葉や草、根、樹皮などを食べます。
繁殖力の高いウサギと食物をめぐる競合関係にあり、しばしば彼らの脅威となっています。
行動・社会
ミナミケバナウォンバットは夜行性、薄明薄暮性です。
単独性で、繁殖期を除きなわばり性は強くありません。同じ巣穴に複数の個体が見られることもあります。
繁殖
ミナミケバナウォンバットは十分な雨量がある年が続かなければ繁殖をしません。
オスは繁殖期には攻撃的になり、順位が生まれます。
メスは一頭のオスとしか交尾しないようです。
交尾は巣穴で行われます。
メスの妊娠期間は約3週間で、9月~12月にかけて未熟な赤ちゃんを1頭産みます。
赤ちゃんは育児嚢の中で6~7カ月間育ちます。
その後育児嚢の外に出るようになりますが、離乳は12~15カ月齢の時です。
性成熟は3歳ごろ、寿命は野生下では長くて15年です。
人間とミナミケバナウォンバット
脅威・保全
ミナミケバナウォンバットはウサギや家畜などと、エサをめぐる競争にさらされています。
また、生息地の農地への転換、疥癬などの病気、干ばつといった脅威により個体数を減らし続けています。
IUCNのレッドリストでは準絶滅危惧に指定されています。
成熟個体数は10万~30万と見積もられています。
このような現状に対し、The Wombat Protection Society of Australia (WPSA)などの団体が現状の把握や、保全、教育事業に取り組んでいます。
動物園
残念ながらミナミケバナウォンバットを日本で見ることはできません。
しかし、ヒメウォンバットは日本でも五月山動物園と茶臼山動物園の2つの動物園でだけ見ることができます。