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ミナミセミクジラ

ミナミセミクジラ
©2016 Oregon State University : clipped from the original
目次

ミナミセミクジラの基本情報

英名:Southern Right Whale
学名:Eubalaena australis
分類:鯨偶蹄目 セミクジラ科 セミクジラ属
生息地:南極海、インド洋、南大西洋、南太平洋
保全状況:LC〈軽度懸念〉

ミナミセミクジラ
Photo credit: Oregon State University

参考文献

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セミクジラ

ミナミセミクジラはセミクジラ科4種のうちの1種で、この中では唯一南半球に生息しています。

セミクジラという名前は、漢字では背美鯨

その美しく曲がった背中に由来しています。

しかし、背中よりどうしてもその顔に目が行ってしまいます。

体長の3分の1にもなる頭部は、どのクジラにも見られないほどユニークです。

弓なりに曲がった口には、爪や髪の毛と同じケラチンでできたひげ板が生えています。

ひげ板はヒゲクジラだけが持つものですが、セミクジラはヒゲクジラの中でも特に長いひげ板を持っています

これは採餌方法に関係しています。


ヒゲクジラの中には、数十tにもなる海水ごとエサを飲み込み、それを吐き出してエサだけをひげ板で漉しとる採餌方法をするものがいます。

こうした種には、喉から腹にかけてと呼ばれる溝があり、その皮下の腹側嚢とよばれる場所に海水は入ります。

一般的なクジラのイメージと言えば、このようなヒゲクジラではないでしょうか。

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一方、セミクジラはひげ板があるもののそのような方法はとりません。

彼らの方法と言えば、ただ口を開けて泳ぐだけ。

海水はひげ板を通り、両側の口の隙間から勝手に出ていきますが、オキアミなどのエサは長いひげ板に引っかかります。

このような採餌方法はスキムフィーディングとよばれ、セミクジラのなかまにしか見られません。

彼らの特徴的な頭部は、この楽すぎる採餌方法に理由があったのです。


ちなみに、顔にはもう一つ彼らの特徴があります。

顔には遠くから見てもわかるほどの白いこぶのような部分があります。

これはカロシティと呼ばれる石灰化した皮膚で、フジツボやクジラジラミが付着しています。

そして、頭の最も大きい部分はボンネットと呼ばれます。

その機能は不明ですが、カロシティ―ができる位置は個体ごとに違うため、個体識別に使われます。

やっぱりセミクジラは背中というより顔ですね。


再び名前の話に戻ると、セミクジラは英名ではRight Whale。

訳すと適したクジラという意味になりますが、何に適しているかというと捕鯨です。

ブラバーと呼ばれる脂肪が25㎝以上にもなる彼らは海水より軽く、モリで仕留めると海面に浮きます。

また、彼らは大きな体で沿岸をゆっくり泳ぐため、見つけやすく仕留めやすいです。

こうした特徴からこのように呼ばれたわけですが、「適した」と呼ばれるだけあってセミクジラはかなりの数を捕獲されてきた歴史があります。

セミクジラはその名前に不幸な歴史が刻まれた珍しい生き物でもあります。

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ミナミセミクジラ
Photo credit: Jon Mountjoy

ミナミセミクジラの生態

生息地

セミクジラは南半球全域に生息します。

主に夏には南緯40~50度の沖合で過ごし、冬には南緯20~30度の例えばニュージーランドやアルゼンチン、ブラジル近海、南アフリカなど低緯度の沿岸域で繁殖します。

形態

体長は11~18m、体重は20~100tでメスの方がオスより大きくなります。

他のセミクジラ同様、畝も背びれもありません。

食性

カイアシ類やオキアミ類などを主食とします。

採餌海域において、低緯度ではカイアシ類、高緯度ではオキアミ類が主に食べられているようです。

行動・社会

通常単独か少数で行動します。ブリーチングスパイホップ、尾びれたたき、胸びれたたきなど水面行動も活発です。

ミナミセミクジラは尾びれセーリングといって、体を水面に垂直にし、尾びれを空中に出してそのまま風に揺られるといった行動を見せることがありますが、その理由はよくわかっていません。

スパイホップ | ミナミセミクジラ
スパイホップ | Photo credit: Gregory “Slobirdr” Smith

繁殖

ミナミセミクジラのメスは最大で7,8頭のオスと交尾するといわれています。

オスの陰茎は3~4mで哺乳類最大。

精巣も左右合わせて1tにもなり、大量に射精されるのは他のオスの精子を洗い流すためだといわれています。

メスの出産間隔は約3年、妊娠期間は12~13ヵ月で、出産のピークは8月。

全長4~4.5m、体重0.8~1tの赤ちゃんが1頭生まれます。

赤ちゃんは生後半年ほどで離乳し、10歳ごろに性成熟に達します。

寿命は推定60~70年と言われています。

ミナミセミクジラ
Photo credit: Oregon State University

人間とミナミセミクジラ

絶滅リスク・保全

ミナミセミクジラは特に19世紀に盛んに捕獲されます。

1770年から1900年にかけて捕獲された数は控えめに見積もって15万頭と言われています。

しかもそのうち4.8万~6万頭は1830年代に捕獲されたようです。

この結果18世紀には7万頭を超えると言われる個体数は、1920年代にはたった300頭になってしまいました。

1930年代にはセミクジラが禁猟となり、回復を見せるも、ソ連の違法な捕鯨により再び数を減らします。

しかしその後、ミナミセミクジラの個体数は驚異的な回復を見せ、一部個体群では約10年の間に倍増するまでになりました。

そして2009年時点では約1万4千頭にまで回復したとされ、IUCNのレッドリストではもはや軽度懸念の評価です。

他のセミクジラ属2種が絶滅危惧種に指定されているのとは対照的です。

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しかし、近年ミナミセミクジラの大量死が報告されるようになっています。

理由の一つとして考えられているのがミナミオオセグロガモメによる攻撃です。

彼らはセミクジラの皮膚をついばみ、傷をつけますがこれが原因になり特に子供が死んでいるそうです。

このほか餌などの影響も考えられていますが、彼らに再び絶滅の危機が襲い掛からないことを祈るばかりです。

ミナミセミクジラ
Photo credit: Fernanda Cabral Jeronimo
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飼育された個体は世界中のどこにもいません。

生息地や個体数を考えると、セミクジラ科の中では最も野生個体に会える可能性が高そうです。

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