ハシナガイルカの基本情報
英名:Spinner Dolphin
学名:Stenella longirostris
分類:鯨偶蹄目 マイルカ科 スジイルカ属
生息地:北太平洋、南太平洋、北大西洋、南大西洋、インド洋
保全状況:LC〈軽度懸念〉
参考文献
スピンイルカ
嘴が長いことからその和名がつけられたハシナガイルカは、特に東部熱帯太平洋地域でキハダマグロやマダライルカとともに泳いでいる姿がしばしば見られます。
彼らがなぜ連れ立って行動するのかはよくわかっていませんが、もしかしたら捕食者から身を守るためかもしれません。
というのも、マダライルカが日中採餌するのに対し、ハシナガイルカが採餌するのは夜。
日中は休息しています。
寝ていても呼吸はしなければならないので、鯨類は半球睡眠と言って右脳と左脳どちらかは起きた状態という特殊な睡眠をしますが、それでも起きているときと比べれば警戒力は落ちます。
それを補うべく、他の種とともに行動しているのかもしれません。
マダライルカとの関係でいえば良好なハシナガイルカですが、キハダマグロとの関係ではそうはいかないかもしれません。
マグロを狙った漁師の網にかかってしまうからです。
漁師はイルカとともにいるマグロを意図的にイルカごと捕まえ、捕まったイルカは殺されて廃棄されます。
1950年代終わりから1970年代初頭にかけて、こうして捕まったイルカは500万頭ともいわれますが、そのうちほとんどがマダライルカかハシナガイルカでした。
現在は対策が取られその数は年間数百頭にまでなりましたが、これによりハシナガイルカの数は以前の3割ほどにまでなったと言われています。
そんなハシナガイルカですが、特殊な習性が知られています。
それは彼らの英名、Spinner Dolphinにも現れています。
彼らは泳いでいる最中、よくジャンプをますが、その時に回転するのです。
しかも最大で7回転。
日常的にジャンプに回転を加えるのは、鯨類では彼らだけです。
スピンしながらジャンプする理由はよくわかっていませんが、コミュニケーションのためだったり、寄生虫やコバンザメを払い落すためだったりと様々推測されています。
もしかしたら漁の餌食となる恐怖が小さくなったことを喜んでいるかもしれません。
実際、感情の発露はスピンの理由の一つとして考えられています。
ハシナガイルカの生態
分類
ハシナガイルカには4亜種が知られています。
最も一般的なグレイハシナガイルカ(S. l. longirostris)、マグロの混獲被害を一番受けた東部熱帯太平洋のヒガシハシナガイルカ(S. l. orientalis)、背びれが前に傾いており、大きいチュウオウアメリカハシナガイルカ(S. l. centroamericana)、主に東南アジアに生息するドワーフハシナガイルカ(Dwarf Spinner Dolphin)です。
グレイハシナガイルカとヒガシハシナガイルカには交雑種であり中間型を示すシロハラハシナガイルカおり、個体数は80万頭以上いるとされています。
※亜種名および雑種名は英名から直訳したもの
生息地
ハシナガイルカは北緯40度から南緯40度の間の熱帯や亜熱帯海域に生息します。
主に沖合で暮らしますが、ドワーフハシナガイルカはサンゴ礁もある沿岸域で暮らします。
形態
体長は1.3~2m、体重は75㎏前後で、オスの方が大きくなります。亜種の中ではドワーフハシナガイルカ最小です。
亜種のうちグレイハシナガイルカとドワーフハシナガイルカは暗い灰色、灰色、白の3色の体色をしていますが、残り2亜種は全身灰色をしています。
また、背びれはグレイハシナガイルカが鎌型をしている一方、残りのものは前に傾いています。
歯は上下それぞれ45~62対あり、鯨類では最多です。
食性
夜、中心層から表層に上がってくる魚を食べます。そのほか、イカやエビも食べます。
沿岸性のドワーフハシナガイルカは底魚や礁魚などを食べます。
キハダマグロとともに泳ぐ姿が見られます
行動・社会
通常10~50頭のポッドで生活しますが、時に千頭を優に超える集団になることもあります。
コミュニケーションには音声によるものや、触れ合いが含まれます。
バウライディングやポーパシングなどの水面行動が盛んです。
繁殖
通年繁殖しますが地域ごとにピークがあります。
メスの出産間隔は3年ほどで、10.5ヵ月の妊娠期間ののち、70~85㎝、10㎏程度の赤ちゃんを一頭産みます。
オスは7~10歳で、メスは4~7歳で性成熟に達します。
少なくとも20年は生きるようです。
交尾する姿が見られます
人間とハシナガイルカ
絶滅リスク・保全
全体では少なくとも100万頭以上はいると推測されており、IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。
個体数を激減させた東部熱帯太平洋でも60万頭は存在すると推測されています。
脅威となる可能性があるのは混獲です。
マダガスカルでは最も捕獲される鯨類の一種であり、マダガスカルの近くにあるコモロ諸島では、最も混獲される鯨類であるという報告があります。
また、ハワイやエジプト、東南アジア、オセアニアで行われているイルカウォッチングがストレスを与えている可能性があります。
ハワイ西部では2011年から2012年に数えられた個体数が以前より減っていたようで、イルカウォッチングによる影響が指摘されています。
動物園
日本でハシナガイルカを見ることはできません。
7回転ジャンプを決められるイルカがショーに出れば盛り上がること間違いないのですが残念です。