ヌマチウサギの基本情報
英名:Swamp Rabbit
学名:Sylvilagus aquaticus
分類:兎形目 ウサギ科 ワタオウサギ属
生息地:アメリカ合衆国
保全状況:LC〈軽度懸念〉
参考文献
泳ぐウサギ、大統領を襲う
名前の通り沼地などに生息するアメリカの固有種、ヌマチウサギ。
彼らはなんとウサギでは極めて珍しく泳ぐことができます。
特に捕食者から追われるなどの危険が迫った際、彼らは水に飛び込み泳いで逃げるのです。
そんなヌマチウサギ、実はアメリカで大ニュースになったことがあります。
1979年4月20日、時のアメリカ大統領でのちにノーベル平和賞を受賞する民主党のジミー・カーターは、故郷のジョージア州プレーンズの池で、一人カヌーに乗り釣りをしながら休暇を過ごしていました。
そんな彼のボートに、1匹のウサギが鳴き声をあげながら必死の形相で泳いで近づいてきます。
カーターはびっくりしてパドルを持ち上げ、そのウサギに水をかけます。
するとウサギはどこかに行ってしまいました。
カーターはこの話をオフィスに戻ってスタッフに話しましたが誰も信じません。
なぜなら、ウサギが泳ぐわけなどないと思っていたからです。
しかし幸いにもホワイトハウスのカメラマンがその瞬間を撮っており、それが本当にウサギ、具体的にはヌマチウサギであったことがわかります。
話はこれで終わりません。
ホワイトハウスの報道官であったジョディ・パウエルは8月、AP通信の記者にこのことを話します。
するとワシントンポストをはじめ、各社が早速この内容を大々的に取り上げてセンセーショナルな記事にし、例のウサギは“殺人ウサギ”などと取りざたされました。
そしてカーター大統領は、ウサギを追い払う人物がどうしてソ連からアメリカを守れるのかといった言われもない批判を受けることになります。
こうした些細な出来事がスキャンダルと言われるまでの出来事に仕立て上げられるのはアメリカらしいですが、カーターはこののち、共和党のロナルド・レーガンに大統領の座を譲ることになります。
1匹の動物がアメリカの政治の舞台でここまでの話題を生み出したのは、このヌマチウサギくらいでしょう。
ヌマチウサギが泳げるウサギではなかったら、もしくはヌマチウサギが泳ぐウサギであることがすでに知れ渡っていたら、アメリカの歴史は変わっていたかもしれません。
ヌマチウサギの生態
生息地
ヌマチウサギはアメリカ南東部の沼地や氾濫原の低地森林など、時に洪水が起こるような水資源が近くにある環境に生息します。
農地や開けた場所は避けて生活します。
形態
体長は45~55㎝、体重は1.6~2.6㎏で、ワタオウサギ属の中では最大となります。
食性
草食のヌマチウサギは、スゲ属の草や低木、樹皮などを食べます。
他のウサギ同様、柔らかく緑色をした軟糞を食べます。
捕食者にはアメリカアリゲーターやイエイヌなどが知られています。
行動・社会
ヌマチウサギは単独性です。
夕暮れから明け方にかけて活発に活動します。
日中は倒木の洞や植物の陰で休息します。
繁殖
繁殖期は2月~8月。
メスは年間2~5回出産します。
メスは35~40日の妊娠期間ののち、1~6匹の赤ちゃんを、草などを敷いた巣に生み落とします。
60gほどの赤ちゃんは5㎜もない毛におおわれ、目は閉じた状態で生まれます。
生後4~7日で目を開き、生後2週ごろには巣を離れるようになります。
それからもしばらくは母親の世話を受けます。
性成熟には23~30週齢で達し、平均寿命は野生では1.8年ほどです。
人間とヌマチウサギ
絶滅リスク・保全
ヌマチウサギは米国では2番目に狩られているウサギです。
肉や毛皮、スポーツを目的として狩猟されます。
この狩猟よりも、農地への転換などによる生息地の破壊が脅威となりつつあります。
全体として彼らは広い範囲に生息しており、現状絶滅はあまり懸念されていませんが、個体数は減少傾向にあると推測されています。
IUCNのレッドリストでは軽度懸念の評価です。
動物園
ヌマチウサギを日本で見ることはできません。