タスマニアデビルの基本情報
英名:Tasmanian Devil
学名:Sarcophilus harrisii
分類:タスマニアデビル科 タスマニアデビル属
生息地:オーストラリア
保全状況:EN〈絶滅危惧ⅠB類〉
参考文献
伝染性のガン
悪魔のような鳴き声からその名がつけられたタスマニアデビルは、かつてはオーストラリア本土にも生息していました。
しかし、ディンゴなどの他の動物や、現地の人々との競合、気候変動などの影響でその姿を消し、今ではタスマニア島にのみ生息しています。
そんなタスマニアデビルですが、1990年代初頭まで、その数約15万匹が生息していました。
しかし現在、彼らは新たな脅威に直面しており、個体数はかつての約10分の1にまで減少しています。
今回彼らをここまで絶滅の危機に追いやったのは、ある一つの病気。
その名も「デビル顔面腫瘍性疾患」、通称DFTD(Devil facial tumor disease)です。
これは世にも珍しい、伝染するガンです。
タスマニアデビルは交尾やケンカの際に相手に咬みつきますが、それが原因でガン細胞がうつりこの病気を発症するのです。
感染個体は口の周りなどに腫瘍ができ、それらが肥大化すると採食が困難になりやがて死に至ります。
DFTDのせいでたった四半世紀の間にほとんどいなくなってしまったタスマニアデビルですが、彼らを救おうと研究者や州政府による懸命な保護活動が行われています。
例えば、ワクチンであらかじめがん細胞に対する免疫を付けさせるような試みや、無人島に退避させて健康な個体群を維持するような試みが実施されています。
また、タスマニアデビル側でも、免疫機能に関する遺伝子配列に変化があるなどの適応が見られるようです。
とはいえ、まだまだ彼らの生存は予断を許さない状況です。継続的な保護活動が唯一の希望と言えるでしょう。
タスマニアデビルの生態
生息地
タスマニアデビルは、タスマニア島の森林、低木地、草原などに生息します。
オーストラリア本土で化石が出土したことから、かつて本土にも生息していたことがうかがえます。
形態
体長は50~80㎝、体重はオスが5.5~12㎏、メスが4~8㎏、尾長は約30㎝でオスの方がやや大きくなります。
しっぽはフクロネコ(ダシウルス)形類の特徴で、脂肪を蓄えることができます。
また、顎と歯は、同じスカベンジャーであるブチハイエナのようにたくましく、獲物の骨を砕くことができます。
食性
タスマニアデビルはスカベンジャーで、ウォンバットやワラビー、羊などの死肉を主食としています。
80度も開く強靭な顎と歯で、骨も毛も全て食べます。
また、彼らは大食漢で、一晩に多くて自重の4割の重さの肉を食べることができます。
この他、昆虫やヘビ、カエル、植物質も食べます。自分で狩りをすることもあるようです。
行動・社会
タスマニアデビルは主に夜行性で、単独性です。
ただ、採食時には複数で見られることがあります。
なわばり性は強くなく、行動圏は重複します。
日中は茂みやウォンバットが掘った穴などで休息します。彼らは一日に10㎞以上移動する場合もあります。
繁殖
タスマニアデビルは2~5月にかけて繁殖します。
交尾の様子は下の動画で見ることができます。
妊娠期間は3週間ほどで、20~30匹の、0.2gほどの赤ちゃんが産まれます。
しかし、このうち生き残るのは2~3匹。
生き残った赤ちゃんは4つの乳頭がある育児嚢の中で4カ月ほど過ごします。
その後、外に出るようになり、生後9カ月までには離乳し、独立します。
性成熟は2歳ごろ、寿命は野生下では約5年、飼育下では長くて8年ほどです。
人間とタスマニアデビル
保全
前述のように、DFTDの影響で個体数を減らしたタスマニアデビルは、現在IUCNのレッドリストでは絶滅危惧ⅠB類に指定されています。
保護活動としては、本土への再導入プログラムが実施されています。
下の動画では、オーストラリア出身の俳優、クリス・ヘムズワースがタスマニアデビルを放つ様子を見ることができます。
動物園
タスマニアデビルは、日本では多摩動物公園が飼育しているようです。
かつてここでは4頭が飼育されていましたが、2023年1月現在、テイマーというオス1頭だけが飼育されているようです。