セレベスバビルサの基本情報
英名:Sulawesi Babirusa
学名:Babyrousa celebensis
分類:鯨偶蹄目 イノシシ科 バビルサ属
生息地:インドネシア
保全状況:VU〈絶滅危惧Ⅱ類〉

牙の謎
インドネシアの島々に生息する野生のブタ・バビルサはかつて1種と考えられていましたが、今ではスラ諸島およびブル島に生息するバビルサ、トギアン諸島に生息するトギアンバビルサ、そしてスラウェシ島に生息するセレベスバビルサの3種に分けられるという認識が一般的です。
捕食者の少ない彼らの子供には、イノシシの子供の「うり坊」のような縞模様がありません。
また、吻鼻骨と呼ばれる鼻先の骨が発達しておらず、ルーティングと呼ばれる鼻で土を掘り返す行動を見せません。
こうした他のブタの仲間には見られない特徴をバビルサはいくつか持ちますが、そんなことより最も目を引くのは、他の動物とは似ても似つかない特徴的な顔です。
なんといっても、下のものもさることながら顔を突き破って頭に突き刺さらんとする上の牙。
体の外に出る牙を持つ動物には他にゾウやセイウチ、イッカクなどがいますが、こんなにトリッキーな生え方をするのはバビルサだけです。
この上の牙の正体は上顎犬歯で、オスにしか生えません。
これは上述の動物の中ではイッカクと共通する特徴です。
この牙は一生伸び続け、長いものでは30㎝にもなります。
バビルサという名前は、マレー語で「ブタシカ」という意味で、これは彼らの牙がシカ類のアントラーと呼ばれる角に似ていることに由来します。


それではこの牙は、一体何のためにあるのでしょうか。
シカの角のように、上顎犬歯がオスにしかないことから考えられるのは、牙がメスをめぐるオス同士の闘争に関係しているのではないかということです。
一説によると、牙が武器として物理的な闘争に使われたり、相手の攻撃から自分の目を守ったりするために役立っているのではと言われています。
しかし、バビルサの牙はゾウやセイウチなどのものと比べると脆く、戦いにはあまり役立ちません。
彼らがケンカをする際に見られるのは、牙による攻撃ではなく、後肢で立ち上がり取っ組み合う姿だけです。
他にも牙の存在が視覚的にメスへのアピールとなっている可能性が指摘されていますが、その牙の存在理由は今のところよくわかっていません。
実は同じくオスにのみ牙が生えるイッカクも、牙が何に使われているのかよくわかっていません。
あんなにも露わになっているにもかかわらず、牙の存在理由は謎に包まれたままなのです。


セレベスバビルサの生態
生息地
セレベスバビルサは南西部を除くスラウェシ島(かつてセレベス島と呼ばれた)に生息します。
湿潤で沼地があるような熱帯雨林や茂みで暮らします。
形態
体長は85~110㎝、肩高は65~80㎝、体重は43~100㎏、尾長は20~32㎝で、オスの方が大きくなります。
上顎犬歯は基本的にオスにのみ生えますが、下顎の犬歯は小さいもののメスにも生えます。

食性
セレベスバビルサは雑食性で、葉っぱや果実、根っこ、花、昆虫、死肉などなど、なんでも食べます。
ソルトリックや水も利用します。
エサを探す際は、他のブタのように鼻ではなく、主に蹄を使います。
行動・社会
昼行性のセレベスバビルサは、泳ぎが上手で川を渡って移動することもあります。
また、ブタの中では足が速く、最高時速48㎞で走ることができます。
大人のオスは単独もしくは2~3頭のオスだけの群れで暮らす一方、メスは4~5頭のメスとその子からなる群れで暮らします。
繁殖
繁殖は1月から8月にかけて見られます。
メスの妊娠期間は155~158日で、一度の出産で1~2頭の赤ちゃんが生まれます。
赤ちゃんは4.5~7㎏で、模様はありません。
生後3~10日で固形物を食べ始めますが、6~8ヵ月齢まで母乳も飲みます。
性成熟には1~2歳で達し、寿命は野生で約10年、飼育下では20年以上生きる個体もいます。

人間とセレベスバビルサ
絶滅リスク・保全
スラウェシ島では1970年代に商業的な伐採が、1980年代に金やニッケルなどの探鉱が、1990年代にオイルパームのプランテーションが始まり、低地林はかつての75%が失われました。
セレベスバビルサはこうした生息地の破壊、悪化、そして狩猟の影響を大きく受けており、スラウェシ島の北東部では姿を消しています。
成熟個体数は1万頭未満と推測されており、IUCNのレッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。
また、ワシントン条約(CITES)では附属書Ⅰに記載されており、国際取引は原則禁止されています。

動物園
セレベスバビルサ含め、バビルサ属の種を日本で見ることはできません。