マーコールの基本情報
英名:Markhor
学名:Capra falconeri
分類:鯨偶蹄目 ウシ科 ヤギ属
生息地:アフガニスタン、インド、パキスタン、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン
保全状況:NT〈準絶滅危惧〉

豪奢な角
アジアのカシミール地方を中心として分布するヤギの仲間、マーコール。
彼らの特徴と言えば、なんといってもねじれた大きな角です。
ウシ科の角は洞角、または英語でホーンと呼ばれ、シカの枝角のようには枝分かれしませんが、らせん状に巻いたマーコールの角は、ウシ科の角のたくましさだけでなく、シカの角に負けない豪華さがあります。
この角は雌雄ともに生えますが、1.6mにまで成長する大きい角を持つのは成熟したオスだけ。
メスの角は25㎝程度です。

オスの角のみ大きいことから、角はメスをめぐる闘争に使われることが想像できます。
マーコールはメスが小さい群れを作る一方、オスは単独で行動しますが、繁殖期になるとオスはメスの群れに合流します。
この時、オスはメスを手に入れるために、想像通り、その角をぶつけて覇権を争うのです。
マーコールは急峻な崖や山岳地帯に生息しますが、そこで繰り広げられるオスの闘争はまさに命がけ。
オスの豪奢な角は、命を懸けて戦うオスたちの誇りそのものなのです。
ところで、マーコールという名前の語源には二つの説があります。
一つが「ヘビを食べるもの」という意味のペルシャ語に由来するとするもの。
どうやらマーコールはヘビを食べるという俗説があるようですが、完全な植物食であるマーコールがヘビを襲い、食べることはありません。
もう一つは「ヘビの角」を意味するパシュトー語に由来するとするものです。
パシュトー語とは、アフガニスタン、パキスタンに住むパシュトゥーン人によって話される言葉で、パシュトゥーン人がペルシャ語も話す場合もあるようです。
ペルシャ語由来説と比べると、角をヘビに例えるパシュトー語由来の方が説得力があります。
また、命がけで戦うオスの角を形容した後者の方が、マーコール的にも嬉しいのではないでしょうか。
ちなみに、マーコールはある国の国獣です。
国獣の例としては他に、アメリカ合衆国のアメリカバイソンやカナダのアメリカビーバー、中国のジャイアントパンダ、アフガニスタンのユキヒョウ、オーストラリアのアカカンガルー、フィンランドのヒグマなどが知られていますが、マーコールはパシュトゥーン人が住む国の一つ、パキスタンの国の動物です。






マーコールの生態
生息地
マーコールは、標高600~3,600mの、オークやマツ、ビャクシンなどから構成される開けた林や茂みがある崖や山岳地帯に生息します。
森林限界より高いところにはあまり住みません。
形態
体長は1.4~1.8m、肩高は65~115㎝、体重はオスが80~110㎏、メスが30~50㎏、尾長は10㎝程度で性的二型が顕著です。
体毛は夏には明るく短いですが、冬になると暗く長くなります。

食性
夏は草を中心に、冬は木の葉や枝を主に食べます。
反芻動物である彼らの採食時間は、反芻を含めて12~14時間です。
捕食者にはユキヒョウやオオカミ、ユーラシアオオヤマネコがいます。
子供はイヌワシに捕食されることもあります。



行動・社会
マーコールは昼行性の動物で、薄明薄暮時に最も活発になります。
メスは8~9頭の群れを作る一方、大人のオスは単独で生活します。

繁殖
繁殖は秋から冬にかけて行われます。メスは135~170日の妊娠期間の後、1~2頭の赤ちゃんを産みます。
赤ちゃんは5~6ヵ月で離乳し、次の赤ちゃんが生まれる頃まで母親とともに暮らします。
性成熟は生後18~30ヵ月で迎えます。
寿命は11~13年です。

人間とマーコール
絶滅リスク・保全
マーコールは、肉や角を狙った密猟や違法な伐採などによる生息地の破壊、家畜との競合などによりかつて個体数を激減させました。
しかし、現在では狩猟管理などの保護政策のおかげで徐々に個体数を増やしています。
個体数は9,700頭ほどと推測されており、IUCNのレッドリストでは準絶滅危惧に指定されています。
とはいえ、予断を許さない状況であり、例えば家畜のヤギからの病気の伝染や、ヤギとの交雑は新たな問題として注目されています。
マーコールはワシントン条約(CITES)では、国際取引が原則禁止の附属書Ⅰに記載されています。


動物園
マーコールには日本でも会うことができます。
秋田県の大森山動物園、神奈川県の夢見ヶ崎動物公園、埼玉県の智光山公園、栃木県の宇都宮動物園、兵庫県の姫路セントラルパークがマーコールを飼育展示しています。