ワリアアイベックスの基本情報
英名:Walia Ibex
学名:Capra walie
分類:鯨偶蹄目 ウシ科 ヤギ属
生息地:エチオピア
保全状況:VU〈絶滅危惧Ⅱ類〉

シミエン国立公園の象徴種
アフリカの北東部に位置する、コーヒーでも有名な国、エチオピア。
エチオピアは実は多様な哺乳類がいることでも知られており、なんと300種を超える哺乳類が生息しています。
また、そのうち約36種はエチオピアにしか生息しない固有種であり、最も絶滅に近いイヌ科動物・エチオピアオオカミや、高度な社会性を持つ霊長類・ゲラダヒヒ、そして絶滅に近い有蹄類・マウンテンニアラなどが有名です。



そんなエチオピアに広がるエチオピア高原は、アフリカの標高1,500m以上の場所では最も広い地域です。
そしてその北部にそびえるシミエン山脈にあるのが、1969年に設立されたシミエン国立公園です。
何百万年もの時をかけて形成された岩山や峡谷のある景色や、エチオピア固有種のゲラダヒヒやエチオピアオオカミを養う自然は荘厳であり、それを理由として、シミエン国立公園は1978年、世界自然遺産に登録されました。
1978年は、世界遺産が生まれた年。つまりシミエン国立公園は最初に登録された12の世界遺産のうちの一つなのです。
ちなみにエリア内にそびえる標高4,620mを誇るラス・ダシェン山はエチオピア最高峰です。
さて、そんなシミエン国立公園設立のきっかけとなり、ここを代表する立ち位置にある哺乳類が、立派な角を持つヤギの仲間、ワリアアイベックスです。
ゲラダヒヒやエチオピアオオカミはシミエン国立公園以外にも生息していますが、ワリアアイベックスはここにしか生息していません。
また、アイベックスはアジアやヨーロッパにも生息しており、全種がかなり近縁で交雑可能です。
つまり、ワリアアイベックスの存在は、種の進化や移動について考える上でも重要です。
こうした意味において、ワリアアイベックスはシミエン国立公園を象徴する種なのです。

ワリアアイベックスは、シミエン国立公園における保全の上でも、重要な役割を担っています。
ワリアアイベックスはかつて絶滅に極めて近い哺乳類でした。
肉や角、毛皮を目的とした狩猟や生息地の破壊などにより減少した結果、1960年代には150頭程度が残るのみと推測されるまでになりました。
その後、国立公園の設立や世界遺産への登録などに勢いづけられながら保護活動が進んだ結果、内戦などの影響による一時的な減少はありながらも、2020には1,000頭近くまで回復したとみられています。
IUCNのレッドリストにおいても、1996年に彼らは最も絶滅が懸念される絶滅危惧ⅠA類に指定されてしまいましたが、2008年には絶滅危惧ⅠB類に格下げ、そして2020年には絶滅危惧Ⅱ類にさらに格下げされました。
このようにシミエン国立公園の固有種であり、景色に負けない佇まいをしたワリアアイベックスは、人々の耳目を動植物の保全に集める象徴種としての役割を担っています。
ワリアアイベックスとシミエン国立公園。
両者は互いになくてはならない存在です。
Mammals | Simien Mountains National Park
The Walia Ibex (Capra walie) | Wale Mengistu

ワリアアイベックスの生態
生息地
標高2,300~4,000mの、急峻な崖や草地がある山地に生息します。
人間による攪乱がある場所にはほとんどいません。
形態
オスは最大125㎏、メスは80㎏程度で性的二型が顕著です。
角は雌雄ともに生えますが、オスの方がずっと大きく110㎝程度まで成長します。

食性
グレイザーでもブラウザーでもある彼らは、草や木の葉、枝など様々な植物を食べます。
捕食者にはハイエナやキンイロジャッカルなどが知られています。


行動・社会
厳格な薄命薄暮性である彼らは、朝と夕暮れ時に活動します。
雌雄別の5~10頭の群れを作りますが、メスの方が単独傾向にあります。
優位なオスがより繁殖に有利となり、オスは優位を争うために角をぶつけて戦います。
繁殖
繁殖は年中行われますが、これは季節によって気温がほとんど変わらないためと考えられます。
ただ、3~6月にピークがあります。メスの妊娠期間は150~165日で、通常1頭の赤ちゃんが生まれます。
子は1歳ごろ性成熟に達し、寿命は15年までとみられています。
人間とワリアアイベックス
絶滅リスク・保全
かつてよりは数を増やしたワリアアイベックスですが、依然として最も絶滅に近い有蹄類の一種で、2024年~2025年の調査によると個体数は減少に転じたようです。
マグカップや衣服など生活品の原材料、トロフィー、食料としてかつて行われていた狩猟は、今では違法で、もはや脅威ではなくなっています。
新たな脅威としては、生息地の破壊や人間の流入、密猟、家畜からの病気(口蹄疫、小反芻獣疫など)が挙げられます。
特に家畜大国であるエチオピアでは、家畜による採食被害が小さくなく、攪乱された環境を好まないワリアアイベックスはより険しいところに退避しているとされています。
ちなみに1996年に道路建設や違法放牧、それによる野生動物の減少などにより、シミエン国立公園は「危機遺産」として登録されましたが、管理計画が見直されるなどして2017年には登録解除されています。

動物園
ワリアアイベックス含め、アイベックスという名を持つ種を日本で見ることはできません。
