シロハラヒメメクラネズミの基本情報
英名:Lesser Blind Mole Rat
学名:Nannospalax leucodon
分類:齧歯目 ネズミ形亜目 メクラネズミ科 ヒメメクラネズミ属
生息地:アルバニア、ボスニアヘルツェゴビナ、ブルガリア、ギリシャ、ハンガリー、モルドバ、モンテネグロ、北マケドニア、ルーマニア、セルビア、トルコ、ウクライナ
保全状況:LC〈軽度懸念〉

地中生活の一帰結
強烈な見た目をしたシロハラヒメメクラネズミ。
この見た目は彼らの生活の一つの帰結と見なすことができます。
彼らは一生のほとんどを地中で暮らす哺乳類です。
地中での移動の邪魔になるため、体の出っ張りは少なく、外に飛び出す耳介やしっぽはありません。
また、地中で暮らす彼らに視力はほとんど必要ないため、目も著しく退化しています。
英名の”blind”や和名の「メクラ」は彼らのその退化した目を指していますが、とはいえ完全に盲目ではありません。
見た目からはよくわかりませんが、1㎜程度の目が顔に埋もれており、確かに視力はほとんどないものの光を感じることはできます。
地中で暮らすには自ら穴を掘ることができる必要があります。
当然シロハラヒメメクラネズミにも掘削能力があります。
彼らの属名”Nannospalax”は「小さいモグラ」というような意味ですが(Spalaxはより大きいメクラネズミ属の属名)、彼らは手ではなく歯で土を掘ります。
歯は口の外に突き出ており、穴を掘る際、口の中に土が入らないようになっています。
ちなみに、種小名の”leucodon”は「白い歯」を意味しています。
彼らはこの歯で一日に数mものトンネルを掘ります。
こうして掘られるトンネルの全長は65~195mにもなり、範囲は194~1,000㎡にも及びます。
掘り起こされる土は一日になんと10㎏。
これだけの範囲でこれだけの量なので、それが生態系に与える影響は少なくありません。
土が掘り返されることで土壌に栄養がいきわたり、彼らが掘った巣穴の周りは、その周辺の植物とは違う種が育ちます。
また、彼らは植物の根や地下茎を主食としますが、食べられる植物の繁栄は抑制され、食べられない植物に成長の機会を与えます。
このようにシロハラヒメメクラネズミは、特に地中から地表付近にかけての生態系において重要な役割を果たしています。
ところで、地中というのは地上と比べて温度変化が小さく、酸素濃度が低いような環境です。
そのため、そこに適応する動物は、地上の動物と比べると必要なエネルギーが少なく、寿命が長くなる傾向にあります。
シロハラヒメメクラネズミも野生では10年以上生きることもあるようで、また、他のメクラネズミ同様、がんへの耐性があることでも知られています。
こうした地中性動物の特徴はヤマアラシ形亜目の地中性齧歯類、ハダカデバネズミで特に有名で、日本でもよく研究されています。
シロハラヒメメクラネズミやハダカデバネズミのような強烈な見た目をした動物たちが暮らす、まだあまり知られていない地中の世界、興味が尽きません。


Safeguarding the Lesser Blind Mole Rat | Mossy Earth
Nannospalax leucodon (Nordmann, 1840) | GBIF
A Cryptic Subterranean Mammal Species, the Lesser Blind Mole Rat (Nannospalax leucodon syrmiensis)—Retreated but Not Extinct | PMC
シロハラヒメメクラネズミの生態
分類
染色体数が2n=38~62と多様で、種と認めるに足る生殖的な隔離も多々あるので、シロハラヒメメクラネズミはあるグループの種の集合であるsuperspeciesと見なされています。
生息地
東欧中部から南部にかけて分布し、標高2,400mまで見られます。
ステップや草地などに生息し、道路わきや農地、芝生などにも現れます。
水はけのよい、柔らかく深い土壌の環境が必須です。
形態
体長は11~27㎝、体重は162~504gでオスの方が大きくなります。
上顎より下顎の前歯の方が長いです。
食性
地中に生える根や地下茎を主食とします。
主食となる餌が少なくなる春には地上に生える植物の緑の部分も重要になります。
普段地中にいる彼らが地上によく現れるのはこの春です。
このほか昆虫も食べます。
捕食者にはアカギツネやイイズナ、オコジョ、ステップケナガイタチなどの哺乳類の他、メンフクロウやトラフズク、ニシオオノスリ、カササギなどの鳥類も知られています。



行動・社会
単独性で同種他個体には攻撃的です。
繁殖期は同種他個体を受け入れる唯一の期間となります。
地域によるものの、昼と夜に活動のピークがあります。
地中のトンネルは最も深くて4mまで掘られます。
トンネルの途中には休息用、貯食用、トイレ用のそれぞれの部屋があります。
休息の部屋は20㎝四方程度で、草が敷き詰められています。
貯食用の部屋には数㎏の餌が貯められている場合もあります。
繁殖
繁殖は1月から2月にかけて行われます。
メスの妊娠期間は約30日で、6g程度の赤ちゃんが一度に通常2~4匹、最大6匹生まれます。
子は生後2~2.5ヵ月で離乳し、1歳以降繁殖を始めます。
寿命は飼育下では3~5年です。

人間とシロハラヒメメクラネズミ
絶滅リスク・保全
個体数の詳細は知られていませんが、分布域が広いシロハラヒメメクラネズミは、現在のところ絶滅はあまり心配されていません。
IUCNのレッドリストでは、それまでデータ不足として評価されていませんでしたが、2024年、軽度懸念と評価されています。
ただ、ジャガイモやニンジンなどの農作物を食べる害獣として駆除されたり、都市化などの影響により生息地が減少したり破壊されたりすることは地域によって脅威となっており、特に分布域の辺縁部で個体数が減少しているとされています。
Nannospalax leucodon | The IUCN Red List of Threatened Species
動物園
シロハラヒメメクラネズミを日本で見ることはできません。

