タヌキの基本情報
英名:Raccoon Dog
学名:Nyctereutes procyonoides
分類:イヌ科 タヌキ属
生息地:中国、日本、韓国、北朝鮮、モンゴル、ロシア、ベトナム、ベルギー、ボスニアヘルツェゴビナ、ブルガリア、デンマーク、北マケドニア、セルビア、スロベニア、オーストリア、ベラルーシ、チェコ、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ハンガリー、カザフスタン、ラトビア、リトアニア、モルドバ、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、スウェーデン、スイス、ウクライナ、ウズベキスタン
保全状況:LC〈軽度懸念〉
参考文献
森林に留まったイヌ科動物
昔話に登場したり(「カチカチ山」、「ぶんぶく茶釜」)、焼き物になったり(信楽焼が有名)、映画になったり(「平成狸合戦ぽんぽこ」)、人物を形容したり(タヌキ親父)、ことわざになったり(捕らぬ狸の皮算用)と、私たち日本人には非常になじみの深いタヌキ。
その姿から想像することは難しいですが、タヌキは実はオオカミやキツネなどと同じ、イヌ科動物のなかまです。
イヌ科動物と言えば、長い脚に立派な犬歯などというイメージがあります。
そのイメージからして、タヌキはとてもイヌ科動物のなかまであるとは思えません。
しかし、そのイメージは進化史的に後のイヌ科動物に対するもの。
実は、タヌキはイヌ科動物の祖先に近い、原始的な動物の1種として知られています。
イヌ科動物は、森林から草原に適応するように進化してきました。
そしてイヌ科動物は草原で生き延びるために、身を隠して一気に獲物を仕留めるネコ科動物のような瞬発力がいる狩りではなく、仲間で協力して獲物を追い詰める持久力や走力がいる狩りを発達させてきました。
そのため、オオカミやリカオンなどに見られるように、イヌ科動物は他の肉食動物と比べて足が長く、走るのに適した体つきをしています。
このように多くのイヌ科動物が森林から出ていきましたが、その一方でタヌキ(の祖先)など森林に留まるイヌ科動物もいました。
彼らは草原に適応する必要がなかったため、足は短いまま。
つまり足は遅いままですが、問題ありません。
タヌキは、獲物を追いかけて捕らえるというよりは、地面に落ちている果実などを食べる動物です。
そのため、足の速さを犠牲にしても、えさのにおいを感知するため、地面にできるだけ鼻が近づくように足を短くする方が適応的なのです。
また、このような食性のため、タヌキは他のイヌ科動物と比べて、犬歯が発達しておらず、代わりに臼歯が発達しています。
これらの点で、タヌキとオオカミなどのイヌ科動物は異なりますが、当然共通点もあります。
例えば、タヌキも一夫一妻の社会を作りますし、においがコミュニケーションにおいて重要な役割を果たしています。
しかし、このような共通点はタヌキの生活を見てみなければわかりません。
その姿を見る限り、私たちにはタヌキはイヌのなかまなどではなく、今にも喋り出しそうな、時に悪賢く、時に可愛らしい生き物というイメージの方がしっくりきてしまいます。
タヌキの生態
生息地
タヌキは、東アジアやヨーロッパの森林などに生息します。
乾燥した内陸では見られず、下層植生が重要なようです。
タヌキの元々の生息地は東アジアですが、1928年から毛皮目的で移入され、それらが定着しているため、現在はヨーロッパにも広く生息しています。
日本では、タヌキは落葉樹林、針葉樹林、雑木林などに生息しています。
北海道に亜種のエゾタヌキ、本州、九州、四国に亜種のホンドタヌキが生息しており、隠岐や屋久島には人為的に移入され、定着しています。
食性
タヌキは雑食性で、多様な食物をその機会があれば食べます(機会的捕食)。
秋は特に果実に依存し、他の季節では草本植物や昆虫、鳥類、哺乳類、卵、魚類、両生類、爬虫類、甲殻類、ミミズ、死肉、残飯などを食べます。
また、ゴム製品など人工物を食べることもあります。
このような多様な食性は、季節変化が大きい温帯で生き延びる上で非常に重要であると考えられます。
形態
体長は50~68㎝、肩高は27~37㎝、体重は3~6㎏、尾長は13~25㎝。
ヨーロッパのタヌキの方が、アジアのタヌキよりも大きくなります。
また、肉食性もヨーロッパのタヌキの方が強いため、犬歯がより発達しています。
タヌキは、秋にかけて飽食し、厳しい冬に備えます。
この間体重は春の1.3~1.8倍にまで増えます。
北海道や北ユーラシアでは、冬になると冬ごもりをし、体温と活動量を抑えます。
冬ごもりの間、体温は数度下がる程度で、いつでも動き出せるため、冬眠とは異なります。
行動
タヌキは主に夜行性です。
属名の“Nyctereutes”とは、「夜に探す」と言う意味です。
タヌキは視力が比較的弱いですが、夜も活動できるほどの視力はあるようです。
タヌキは、ペア型の社会を形成します。
なわばり性は弱く、ペアの相手だけでなく他個体にも寛容です。
行動圏は10~600haで、その中に複数のタメ糞をします。
タメ糞とは、一か所に糞や尿をすることで、これが嗅覚が鋭いタヌキにとって、家族内や他個体とのコミュニケーションの上で、重要な役割を果たしていると考えられています。
日中は、アナグマやキツネの穴、岩陰などで休みます。
時にアナグマと同じ穴を共有することもあるようです。
自分で穴は掘りません。
また、タヌキは木登りもできますが、身の危険が感じたときなど限られた状況でしか木に登ることはないようです。
繁殖
タヌキの繁殖は、2月~4月にかけて行われます。
発情期間は1週間未満で、交尾時間は6分程度です。
また、交尾後には数分間の交尾結合が見られます。
妊娠期間は59~64日で、初夏に60~115gの赤ちゃんが、4~6頭産まれます。
育児は母親だけでなく、父親によっても行われます。
父親は、エサを運んで来たり、子どもと遊んだりするなどして母親と共に子育てをします。
タヌキがヨーロッパに移入された当初、妊娠したメスだけを移入したため、中々数が増えなかったと言います。
子育てにおける父親の役割が小さくないことがうかがえます。
赤ちゃんは、生後約10日で目を開き、約1カ月で離乳し、巣穴を出るようになります。
秋になると大人と同じ大きさになり、生まれた所から1~10㎞ほど分散していきます。
性成熟には1歳になるまでに達し、寿命は野生で6~8年、飼育下で14年程度です。
ちなみに、野生で5歳まで生存する確率は約1%と言われています。
人間とタヌキ
絶滅リスク・保全
タヌキは、その分布域も広く、個体数も安定していることから絶滅はあまり懸念されていません。
レッドリストでも軽度懸念とされています。
しかし、日本について見てみると、懸念事項もあります。
その一つがロードキルです。
日本の道路で交通事故に遭った動物の内、最もその数が多いのがタヌキです。
その数は控えめに見積もっても年間11万~32万頭と言われています。
人の生活が便利になる一方、その弊害を被る動物がいます。
人と動物はどうすれば共存できるか、両方の視点に立って考えることが重要です。
動物園
そんなタヌキですが、日本国内の多くの動物園で見ることができます。
北海道の旭山動物園、秋田県の大森山動物園、埼玉県の東武動物公園、長野県の茶臼山動物園、京都市動物園、広島県の安佐動物公園、愛媛県のとべ動物園、宮崎県のフェニックス自然動物園など、数々の動物園がタヌキを飼育・展示しています。
動物園でなくても、里山や東京などの都市部でも、タヌキは見られます。
あの皇居にも生息しており、上皇陛下は皇居のタヌキについての論文を出しておられます。
もしかしたら皆さんの普通の生活の中でも、彼らにお目にかかることができるかもしれませんね。
それがタヌキの形をしているかは分かりませんが。