オオカワウソの基本情報
英名:Giant Otter
学名:Pteronura brasiliensis
分類:イタチ科 オオカワウソ属
生息地:ボリビア、ブラジル、コロンビア、エクアドル、フランス領ギアナ、ガイアナ、パラグアイ、ペルー、スリナム、ベネズエラ
保全状況:EN〈絶滅危惧ⅠB類〉
水辺での暮らし
オオカワウソは、川や湖など、水のある所で生活します。
日中活動し、食べるもののほとんどが魚で、オオカワウソはこのような水辺での暮らしに非常に適した体をしています。
例えば、手足には水かきが付いていますし、しっぽは大きくて平べったく、オールのようです。
また、短い四肢と流線型の細長い体は、水の抵抗を最小限にとどめます。
さらに、その短い毛はビロードのように短く密で、水が皮膚に触れ体温を奪うことはありません。
ちなみに、彼らの属名Pteronuraは、古代ギリシャ語で羽や翼を意味するpteronと、しっぽを意味するouraに由来しており、オオカワウソの翼のようなしっぽのことを表していると考えられます。
このように地上性でありながら水中での暮らしにも適応したオオカワウソは、イタチ科の中では珍しく、非常に社会的であることが知られています。
寝る時も食べる時も常に群れで行動し、下の動画からも分かるように多彩な音声でコミュニケーションを図ります。
また、彼らは好奇心が強く、外から来たものに近寄って調べることも少なくありません。
以上のようなオオカワウソの特徴は、不幸にも彼らに訪れる悲劇を助長することになります。
悲劇の一つが毛皮目的の狩猟です。
カワウソの密で上質な毛皮は、長い間人間を魅了してきました。
ヨーロッパの市場では毛皮一つにつき250米ドルという高値で取引されることもあり、1980年代まで毛皮目的の狩猟が絶えず、それによりオオカワウソの個体数は激減しました。
特に動物の毛皮が流行した1960年代は、オオカワウソの毛皮がかなりの金銭となって返ってきたため、現地の猟師をオオカワウソの狩猟に駆り立てました。
この時、オオカワウソの大きな体や鳴き声、旺盛な好奇心、そして昼行性であることは、猟師たちによる狩猟を容易にしました。
悲劇の二つ目は、水の汚染です。
彼らの生息地では、金の採掘やダムの開発のために、水銀や砂礫などにより水が汚染されることがあります。
オオカワウソは主に視覚を頼りに狩りをすると考えられているため、水質の汚染は彼らの狩りを困難にします。
また、水銀やシアン化合物は有毒であるため、水中で生活する彼らに直接ダメージを与えるほか、汚染された魚を食べることで毒性の物質が蓄積されることにもなります。
彼らの生活が依存する場所や彼らが最高次の捕食者であることは、水の汚染への脆弱さを大きくしているのです。
このように、オオカワウソは様々な悲劇に見舞われていますが、これだけではありません。
この続きは最終章で見ていきましょう。
オオカワウソの生態
生息地
オオカワウソは、ブラジルやペルーなど、南米の北半分に生息します。
彼らは、水の流れがゆっくりとした川や湖などで暮らしますが、地上でも生活する半水生の動物です。
食性
オオカワウソは、主にナマズなどのゆっくり動く魚を食べます。
一頭でも群れでも狩りをし、特に60㎝より浅い所での狩りは成功率が高いです。
捕らえた魚は前肢でつかみ、頭からかじります。
魚が少ない時は、甲殻類や小さなヘビ、カイマンなどを食べることもあります。
飼育下では、一日3㎏ものえさを与えられるというので、彼らの消費カロリーの多さがうかがえます。
一方、特に子供のオオカワウソを食べる捕食者には、ジャガーやピューマがいます。
形態
体長は86~140㎝、肩高は約40㎝、体重はオスが26~34㎏、メスが22~26㎏、尾長は約70㎝で、オスの方が大きくなります。
オオカワウソは、その名前にもあるように非常に大きく、イタチ科の中では最長です(重さでいえば、通常ラッコの方が重たい)。
喉から胸にかけて白い模様がみられ、他の個体と出会った時はこの模様を見せ合う行動をします。
行動
オオカワウソは、5~8頭から成る家族群を作ります。
群れには繁殖を行うつがいとその子供たちがいますが、血縁関係のない個体がいることもあります。
行動域は約12㎢で、河岸には木の陰や地中に作った巣穴を持ちます。
マーキングは肛門にある臭腺からの分泌物や、糞尿で行われます。
糞尿は同じところに排泄され、そのような便所が行動圏内に1~5つほどあります。
コミュニケーションには、においやグルーミング、9種類が確認されている音声が用いられます。
下の動画では、オオカワウソの群れがジャガーを追い払う様子を見ることができます。
すごい息の合いようです。
繁殖
繁殖は1年中行われますが、春の終わりから夏の初めにかけて交尾のピークが見られます。
排卵周期は約21日、発情期間は3~10日で、交尾は水中で行われます。
メスの乳頭と陰部の肥大化が、発情時のサインと思われます。
出産は8月の終わりから10月の初めの乾季に多くが見られます。
出産が乾季に見られる理由としては、乾季には水位が下がるため、エサの捕獲が容易になるからだと考えられます。
65~70日の妊娠期間の後、170~230gの赤ちゃんが1~5頭(通常2,3頭)産まれます。
育児は群れのメンバー全員で行われます。
赤ちゃんは生後2~3週の間は巣穴で暮らし、後に目が完全に開き、巣穴の外で水に触れ始めます。
生後3~4カ月で離乳し、この頃までには上手に泳げるようになります。
9~10カ月には大人の体になり、一人でも狩りをできるようになります。
性成熟には2~2.5歳で達し、寿命は野生下で約10年、飼育下では14~17年です。
人間とオオカワウソ
絶滅リスク・保全
毛皮の価値の下落から、毛皮目的の狩猟はほとんどなくなったものの、オオカワウソは依然として様々な脅威に直面しています。
例えば、金の採掘や森林の伐採は彼らの生息地を奪います。
また、彼らは魚を食べる動物として現地の人たちと競合するため、迫害されることもあります。
さらに、スポーツフィッシングなどの娯楽は管理が甘いとオオカワウソの生態に影響を及ぼすことがあります。
これらの他、犬ジステンパーなどの病気や違法な飼育も彼らの生存を脅かします。
このように、オオカワウソは多くの脅威と直面しており、その結果今でも数を減らし続けています。
レッドリストでは絶滅危惧ⅠB類に指定されており、個体数は1万頭に満たないと推測されています。
彼らの生息場所の中には国立公園内にあるものもあり保護はされているものの、それは十分ではないかもしれません。
動物園
そんなオオカワウソですが、残念ながら日本では見ることができません。
彼らを見るならば現地に行くのも手ですが、彼らは人間の活動に敏感で、特に育児期には親による赤ちゃんへの攻撃や子殺しに繋がることもあると言います。
遠くからそっと見守りましょう。