ヒメウォンバットの基本情報
英名:Common Wombat
学名:Vombatus ursinus
分類:ウォンバット科 ウォンバット属
生息地:オーストラリア
保全状況:LC〈軽度懸念〉
参考文献
世界最大の穴掘り動物
穴を掘る動物には、齧歯類のプレーリードッグや、モグラ、イタチのなかまのアナグマ、管歯目のツチブタなどがいますが、ウォンバットはそんな穴を掘る動物の中でも最大です。
他の穴を掘る動物の例に漏れず、ウォンバットもたくましい前肢を持ち、手には3~5㎝にもなる爪を持っています。
この爪を使って、ウォンバットは地下2m、長さ20~30mにもなる穴(burrow)を掘ります。
穴の奥には寝室があり、草などが敷き詰められています。
ウォンバットは有袋類です。
そのため、ウォンバットにもおなかに赤ちゃんを育てる袋(育児嚢)があるのですが、カンガルーなどとは異なり、彼らの場合袋の出入り口は後ろについています。
これは穴を掘る際、土が袋の中に入らないようにするためとも言われています。
ちなみに、ウォンバットと比較的近縁なコアラの袋も後ろに出入り口があります。
穴の中は、暑い夏でも寒い冬でも、1年中20度前後に保たれていて過ごしやすい環境になっています。
有袋類は、真獣類(有袋類と単孔類以外の現生哺乳類が属する)と比べると代謝が低く、体温も低いです。
特に暑い夏は苦手であるため、ウォンバットは真夏の日中はこの穴の中で休息し、涼しい夜に活動します。
ところで、この穴は育児や休息のためだけでなく、捕食者から身を守るのにも役立ちます。
しかし、ウォンバットの場合、身の守り方が特徴的です。
穴に自らのお尻で蓋をするのです。
ウォンバットのお尻の皮膚は分厚く、タスマニアデビルなどの捕食者はウォンバットに致命傷を与えることはできません。
さらに、捕食者がそのお尻をかいくぐって攻撃して来ようものなら、穴とお尻で捕食者をサンドイッチします。
この攻撃で捕食者が死に至る場合もあるようです。とんでもないお尻です。
ヒメウォンバットの生態
生息地
ヒメウォンバットは、オーストラリア本土の東部およびタスマニア島に生息します。
完全な地上性で、温帯の森林地帯や低木地などで暮らします。
形態
体長は70~110㎝、体重は約30㎏、大きいもので40㎏あります。
しっぽの長さは2㎝と短く、ほとんど毛に隠れています。
ウォンバットは有袋類では唯一一生伸びる門歯(切歯、前歯)を持ちます。
食性
ウォンバットは植物食です。
葉や草、根、樹皮、コケなどを食べます。
ウォンバットの腸は約9mと長く、食物は約1週間かけて腸を通ります。
ウォンバットでは特に結腸から栄養が吸収されます。
哺乳類は植物の細胞壁を構成するセルロースを消化できないため、共生しているバクテリアに食物を発酵してもらい、消化を助けてもらっています。
こうして消化された後に残った糞は、ウォンバットの場合サイコロのような形で排出されることが知られています。
行動・社会
ウォンバットは夜行性、薄明薄暮性です。
単独性で、なわばり性は強くありません。他の個体が掘った穴を使うことがありますが、同じ穴を他個体と同時に共有することは嫌うようです。
行動圏は重複しますが、巣穴の周りはにおいや四角くころがりにくい糞でマーキングします。
繁殖
ヒメウォンバットは2年に1度のペースで出産します。
季節性はあまりないようです。
妊娠期間は約1カ月で、約2㎝、10gに満たない赤ちゃんを一頭産みます。
赤ちゃんは無毛で目が見えない未熟な状態で産まれますが、自力で乳首のある育児嚢に入ります。
約半年はこの育児嚢で過ごします。
約1歳で離乳し、約18カ月齢ごろまで母親とともに過ごします。
性成熟は2歳ごろです。寿命は野生下で長くて15年、飼育下では30年を超えた個体が知られています。
人間とヒメウォンバット
保全
ヒメウォンバットはウォンバットの中では比較的個体数が安定しており、レッドリストでも絶滅のリスクについては軽度懸念とされています。
しかし、疥癬などの病気やロードキル(車などにはねられ死ぬこと)は依然として彼らの脅威となっています。
動物園
ヒメウォンバットは、大阪府の五月山動物園と、長野県の茶臼山動物園の2つの動物園で見ることができます。
コアラに比べると少ないですが、ウォンバットはここでしか見ることができないので、是非足を運んでみてください。