キタムリキの基本情報
英名:Northern Muriqui
学名:Brachyteles hypoxanthus
分類:クモザル科 ムリキ属
生息地:ブラジル
保全状況:CR〈絶滅危惧ⅠA類〉
ラブアンドピース
キタムリキは、サルの中でも特に平和的なサルで、ほとんどケンカをしません。
下の動画でも確認できるように、ハグしたり触れ合ったりすることで、互いの愛情やきずなを育んでいます。
また、交互に応答するかのように鳴き合うなどの、音声を使ったコミュニケーションも活発です。
これほどまでに温厚な理由の一つとしては、群れの中に明確な順位がないことが挙げられます。
多くのサルの群れには順位があり、時にはその順位が理由でケンカやいじめが起きることがあります。
しかし、キタムリキにはそのような順位が群れの中にないので、ケンカをする必要がないのです。
絶滅に極めて近いサル
キタムリキは絶滅の危機に瀕しており、レッドリストでは最も絶滅の危険度の高い絶滅危惧ⅠA類に指定されています。
個体数は60年前と比べると8割も減少しており、現在およそ1000頭しか生き残っていないと言われています。
ここまで数が減少した主な理由は、生息地である森林の減少と分断です。
今の森林は60年前の1割以下しか残っていません。
それだけ減れば、そこに住むサルの数が減るのは当然です。
また、農地の開拓などにより、森が分断されることによっても、えさがある範囲が限定されることで群れの規模が縮小します。
個体群の縮小は、個体数の減少を意味し、それは繁殖相手の減少、すなわち繁殖の機会の減少をも意味します。
個体群が小さくなりすぎれば、その個体群は絶滅することでしょう。
上の動画では、森の分断によって孤立してしまったボニータというキタムリキが紹介されています。
私たち人間の生活の裏で、キタムリキのような優しいサルたちが住みかを失っていることを、忘れてはいけません。
キタムリキの生態
生息地
キタムリキは、ブラジル南東部の大西洋沿岸に生息しています。
同じ地域に住む近縁種にミナミムリキというサルがいますが、文字通りキタムリキの方が北に生息しています。
食性
昼行性のこのサルは、葉や果実、樹皮、竹などを食べます。
通常、樹上で採食しますが、生息地が減少しているため、地上に降りて採食することも多くなっているようです。
また、彼らは本来は果実食なのですが、生息地の縮小、分断により果実が手に入らず、現在、葉食に移行していると言われています。
形態
キタムリキの見た目は、先ほども出てきたミナミムリキとほとんど変わりません。
ですが、別種である以上、違うところがいくつかあります。
例えば、ミナミムリキは親指がほとんどないのに対し、キタムリキには1-2センチの親指があります。
また、ミナミムリキはオスの犬歯の方が長くなりますが、キタムリキは犬歯の長さにおいて性差が見られません。
一番わかりやすいのは顔です。
ミナミムリキが真っ黒なのに対し、キタムリキは顔の皮が剥げているかのようにピンク色のところが所どころあります。
行動
キタムリキは、40~80頭から成る複雄複雌の群れを作ります。
この群れはサルの中では珍しく、メスの方が成長後、群れを出ていく父系社会です。
群れ同士の遊動域は一部でしか重複しておらず、群れ同士は敵対的のようです。
また、群れはよく離合集散します。
特筆すべきはオスが10頭以内のオスだけのサブグループを作るのに対し、メスは1頭でいることが多いということです。
これは、出産や育児など栄養がより必要なメスにとっての効率的な戦略と解釈されています。
繁殖
繁殖には季節性が見られ、交尾は10月~4月の雨季に、出産は5月~10月の乾季によく見られます。
メスは発情しても外形的な特徴を現さないので、尿の匂いでオスに知らせます。
メスの妊娠期間は約7カ月で、通常1匹の赤ちゃんが生まれます。
赤ちゃんは主に母親に育てられますが、他のメスにも育てられることもあるようです。
メス同士が自分たちの子供を交換して育てる様子も観察されています。
赤ちゃんは生後14~18カ月で離乳し、4~11歳で性成熟に達します。
メスの初産年齢は約7歳と言われています。
人間とキタムリキ
絶滅リスク・保全
キタムリキは、先ほどご紹介したように絶滅の危機に最も近いサルの一種です。
一刻も早く状況を打開しなければなりませんが、キタムリキの寿命は約30年、性的に成熟するのが7歳前後、出産間隔が2~3年なので、繁殖には時間がかかります。
手遅れとなってしまわないように、これ以上彼らの住みかを奪ってはならないし、私たちも無意識の内にそれに加担しないようにしなければなりません。
動物園
そんなキタムリキですが、日本では会うことができません。
彼らのラブとピースを分けてほしいところですが、とても残念です。