ミナミムリキの基本情報
英名:Southern Muriqui
学名:Brachyteles arachnoides
分類:クモザル科 ムリキ属
生息地:ブラジル
保全状況:CR〈絶滅危惧ⅠA類〉
参考文献
平和主義者
ミナミムリキは平和主義者です。
ほとんどケンカをしません。
よくオスがメスを奪い合い闘う様子がテレビなんかでも流れますが、このサルの場合、きちんと列に並んで交尾の順番を待つほどケンカを嫌います。
一説によると、木の上でケンカすると木から落ちてしまう可能性があり、リスクの高いケンカは回避されるということです。
確かに、ミナミムリキは樹上性が強く、ほとんど地上に降りてくることはありませんからそうなのかもしれません。
このようにミナミムリキが平和的な理由は、序列に関係しているかもしれません。
通常、集団を作るサルには序列がありますが、ムリキの群れにはオス同士にもメス同士にも優劣関係が全くありません。
同じクモザル科のクモザルやウーリーモンキーにもあるのに、ムリキにだけ序列がないのは興味深いです。
また、彼らの群れではオスよりもメスの方が優位にあります。
これももしかしたら彼らの平和性に貢献しているのかもしれません。
ちなみに、ムリキを含めてテナガザルやキツネザルなど、メスの方が優位にあるサルでは、オスとメスの体格差がほとんどないことが多いです。
ミナミムリキの生態
生息地
ミナミムリキは、ブラジル南東部の大西洋沿岸に生息します。
食性
昼行性のこのサルは、基本的に果実食ですが、葉を食べることも多いです。
その他、樹皮なども食べます。
形態
体長は60~80㎝、体重は8~15㎏で、新世界ザルの中で最も大きいサルになります。
また、このサルは80㎝もの長いしっぽを持ちます。
このしっぽをと腕を使って器用に木の間を移動するのですが、このしっぽの裏側には毛がなく、尾紋という模様があります。
クモザルのなかまはみな尾紋を持ちますが、これのおかげで滑らずに枝をつかむ力が格段に高くなるのです。
行動
ミナミムリキは15~45頭から成る複雄複雌の群れを作ります。
この群れはメスが群れを離れオスが群れにとどまる父系社会です。
多くのサルが、メスが群れにとどまる母系社会を作る中で、ミナミムリキのように父系社会をつくるサルは珍しいです。
また、この群れは頻繁に離合集散する傾向にあります。
ミナミムリキは大勢で暮らしているので、コミュニケーションは欠かせません。
コミュニケーションはきずなを深め、争いを防ぐためにも重要です。
このサルの場合は、音声やハグなどでコミュニケーションを図ります。
動画ではミナミムリキの鳴き声を聞けるので、ぜひ見てみてください。
また、尿によるにおいづけ行動も特徴的です。
繁殖
ミナミムリキの繁殖には季節性が見られ、多くの出産は5月~9月の乾季に見られます。
メスは発情しても外形的特徴を見せず、3~4日間しか交尾しません。
交尾は乱交的に行われ、その持続時間は約4分です。
この長さは同じく乱交的な交尾をするチンパンジーの約10秒と比べても異様に長いです。
また、乱交的な交尾は精子競争が激しいことを意味しており、そのためムリキのオスの睾丸はクモザルの約6倍にもなります。
メスは約7~8.5カ月の妊娠期間の後、通常1匹の赤ちゃんを産みます。
赤ちゃんは主に母親によって育てられ、生後18~30カ月で離乳します。
その後6~11歳で性成熟に達します。
メスの性的休止期間は2~3年と言われています。
人間とミナミムリキ
絶滅リスク・保全
ミナミムリキは、狩猟や生息地である森林の減少、分断などにより急激に個体数を減らしています。
その結果、現在生存する個体数は1,200頭以下と推測されており、レッドリストでは、これまで絶滅危惧ⅠB類に指定されていましたが、2019年5月絶滅危惧ⅠA類に格上げされてしまいました。
絶滅危惧ⅠA類には、最も絶滅に近い種が指定されます。
近縁種のキタムリキもすでにこれに指定されているので、ムリキは最も絶滅の可能性が高いサルになってしまいました。
動物園
そんなミナミムリキですが、残念ながら日本では見ることができません。
是非とも見たいという方は、現地に行ってみてください。
観察を続ければ、平和に暮らす方法が分かるかもしれません。