タイセイヨウセミクジラの基本情報
英名:North Atlantic Right Whale
学名:Eubalaena glacialis
分類: 鯨偶蹄目 セミクジラ科 セミクジラ属
生息地: 北大西洋
保全状況: CR〈絶滅危惧ⅠA類〉
参考文献
Right Whale
タイセイヨウセミクジラは、北大西洋に生息するセミクジラ科のクジラです。
セミクジラの英名はRight Whale。
訳すと「適したクジラ」。
いったい何に適しているのかというと、捕獲です。
セミクジラは沿岸性で泳ぎも早くなく、海水よりも軽いため銛で仕留めると海面に浮きあがってきます。
こうした特性が捕鯨に適していたのです。
実際、セミクジラは何世紀にもわたって捕鯨の対象でした。
脂肪の多い彼らからとれる鯨油はランプの油として需要が大きかったのです。
その結果、タイセイヨウセミクジラは各地で姿を消し始めます。
特に捕鯨が盛んだった北大西洋東部の個体数の減りようはすさまじく、かつて西サハラ近海からノルウェー海にまでいたとされたタイセイヨウセミクジラは、ほとんど目撃例がなくなるほどになってしまいました。
1930年代にはセミクジラの捕鯨は禁止されますが、時すでに遅し。
個体数は思うように回復しません。
捕鯨前、1~2万頭いたと推測されるタイセイヨウセミクジラの全体の個体数は、1990年には270頭が残るのみとなってしまいました。
しかし、その後個体数は年率2%以上で増え始め、2011年には480頭を記録するまでになります。
このまま増え続けることが期待される中、なんとまた個体数が減ってしまいます。
現在、個体数は約400頭とされており、成熟個体は200~250頭しかいないと言われています。
捕鯨の危機がなくなった今、彼らの脅威となっているのが漁具と船です。
2012年~2016年にかけて、30頭の個体が漁具に絡まったり、船舶と衝突したりして死亡もしくはけがをしています。
さらに30頭が同じような人間活動由来の原因で2017年~2019年の間に死亡しています。
同じ2017年~2019年に生まれたとされる赤ちゃんが12頭なので、この状況が続けば彼らは絶滅することになります。
ロブスターなどの漁具への絡まりは特に深刻で、8割以上の個体が1度は経験したことがあるといわれています。
漁具への絡まりはそれ自体致命的なダメージにならなかったとしても、例えば遊泳の邪魔になることでエネルギーを消耗しますし、それがメスであれば特に繁殖の問題にも発展します。
事実、彼らの栄養状況は悪く、繁殖スピードはどんどん遅くなっていると言われており、おなじセミクジラであるミナミセミクジラの出産間隔が3年であるのに対し、タイセイヨウセミクジラの近年の出産間隔は7年にもなっているようです。
タイセイヨウセミクジラは、最も絶滅に近い鯨類とされています。
タイセイヨウセミクジラの生態
生息地
沿岸性のタイセイヨウセミクジラは、北大西洋の大陸棚で暮らします。
今では東部個体群はほとんど見られません。
見られたとしても西部個体群出身であり、東部個体群の生き残りがいるとは考えづらいです。
形態
体長は11~18m、体重は20~100tでメスの方がオスよりも大きくなります。
尾びれの幅は最大6m、背びれはありません。
下あごや目の下などには皮膚が石灰化したカロシティがあり、生後1歳ごろからできるようです。
噴気孔からでる噴気はV字型をしており、高さは最大で5mになります。
大きな頭部は最大で体長の3分の1にもなり、口には2m以上にもなる長いひげ板が生えています。
食性
主食は動物プランクトンで、カイアシ類、オキアミ類を食べます。
このほか、フジツボの幼生や浮遊性の貝である翼足類も食べます。
彼らはスキムフィーディングと言って、口を少し開けながら泳ぎ、海水を口の両サイドに流しつつ、ひげ板に引っかかるエサを食べるというやり方で採餌します。
これはセミクジラ類特有です。
行動・社会
タイセイヨウセミクジラは通常単独か2頭で生活します。
繁殖時などには30頭以上集まることもありますが、恒常的ではありません。
ブリーチングや尾びれ、胸びれで水面をたたくような水面行動も行います。
セミクジラの特に妊娠メスは季節回遊をします。
夏はアメリカのメイン湾で採餌し、冬はフロリダ州やジョージア州近海で出産します。
ただ、近年は温暖化の影響もあり特に採餌場所が北上しており、カナダのセントローレンス湾で多くが採餌します。
繁殖
メスの妊娠期間は12~13ヵ月で12月から2月にかけて全長4~4.5m、体重0.8~1tの赤ちゃんを一頭生みます。
2018年には1頭の赤ちゃんも生まれなかったようです。
1歳ごろ離乳し、5~10歳で性成熟に達します。
寿命について、少なくとも65~70年は生きるといわれています。
人間とタイセイヨウセミクジラ
絶滅リスク・保全
タイセイヨウセミクジラはIUCNのレッドリストにおいて、最も絶滅が危惧される絶滅危惧IA類に指定されています。
アメリカやカナダは、漁具への絡まりや船舶への衝突を避けるため、彼らが見られる場所において特定の漁具を禁止したり船舶のスピードを規制したりといった保護策を実施していますが、彼らの生息範囲が北上したことなどにより、その効力は完全には発揮されていません。
動物園
飼育されているタイセイヨウセミクジラは世界中のどこにもいません。
近縁のセミクジラは日本海や東シナ海、オホーツク海も分布域としており、日本に漂着する個体も少なくありません。