ベアードバクの基本情報
英名:Baird’s Tapir
学名:Tapirus bairdii
分類:奇蹄目 バク科 バク属
生息地:ベリーズ、コロンビア、コスタリカ、グアテマラ、ホンジュラス、メキシコ、ニカラグア、パナマ
保全状況:EN〈絶滅危惧ⅠB類〉
種子散布者
中央アメリカでは最大の地上生物であり、中米のベリーズという国では国獣とされているベアードバク。
深い森林で暮らす彼らは、種子散布者として森の維持に重要な役割を果たしています。
ベアードバクは植物食です。
長くて柔軟な鼻を生かして地上から1.5mまでの高さの植物を食べます。
彼らは様々な植物を食べ、その種数はなんと200種にも及ぶとされています。
食べる量としては葉が一番多いですが、果実も地域によってはかなりの割合を占めます。
果実は種子を含みますが、種子はバクの消化機構に完全に消化されることなく体外に排出されます。
こうした種子はバクの体内で刺激を受け、むしろ発芽しやすい状態になっており、植物にとってベアードバクはありがたい存在です。
しかもベアードバクは体が大きく、移動力があります。
種子は生まれた場所から遠くに運ばれる可能性が高く、地面に落ちるはずだった場所よりも生存できる確率が高まります。
こうした種子散布者としてのベアードバクの存在は、その植物種だけでなく、森林全体の維持に大きく貢献しています。
ただ、現在彼らが住む森林は、彼らの森林維持能力をはるかに超える規模で減少しています。
例えば、メキシコおよび中米の森林地帯は、2001年から2010年の間に約18万㎢も失われています。
日本の面積が約38万㎢であることを考えると途轍もない広さです。
また、中米の森林はこの40年で70%もなくなったとされています。
こうした森林減少の原因は人間にあります。
現在、かつて森林だった跡地には、人間が住み、インフラが開発され、オイルパームなどのプランテーションが広がっています。
このような森林減少は、植物に対してだけでなく、そこに生息する動物に対しても大きな脅威となっています。
ベアードバクの主な脅威の一つはこの生息地の破壊で、彼らはこの約30年の間に個体数は半分以下になったと推測されています。
エルサルバドルではすでに絶滅したと考えられており、森林維持を担うベアードバクは、今や森林の減少によって絶滅の淵に立たされています。
ベアードバクの生態
生息地
メキシコからコロンビアにかけて、標高3,600mまでの池や川がある熱帯雨林やマングローブ、沼沢林などに生息します。
形態
体長は1.5~2.5m、肩高は0.7~1.2m、体重は150~300㎏、尾長は5~13㎝で、アメリカバクより若干小さくなります。
アメリカバクとよく似ていますが、タテガミがないことで区別できます。
鼻は柔軟で、泳ぐ際シュノーケルの役割を果たします。
食性
植物食のベアードバクは、枝や葉、果実などの他、水生植物も食べます。
捕食者にはジャガーやピューマが知られています。
行動・社会
ベアードバクは夜行性ないし薄明薄暮性で、日中の暑い時間はあまり活動しません。
主に単独性ですが、なわばり性は強くなく、偶発的に複数が集まることがあります。
オスの行動圏は約1㎢で、メスはそれよりも広い行動圏を持ちます。
彼らは水中でも地上でも排泄を行い、行動圏のマーキングの役割を果たしているとされています。
繁殖
繁殖は雨季が始まる前に行われることが多いようです。
メスは390~400日の妊娠期間ののち、約10㎏の赤ちゃんを通常1頭産みます。
赤ちゃんは“スイカ”のような模様をしています。
1歳ごろ離乳し、1~2歳で独立していきます。
寿命について、飼育下では30年近く生きたものがいます。
人間とベアードバク
絶滅リスク・保全
ベアードバクの個体数は5,500頭未満とされ、現在も減少中であるとされています。
IUCNのレッドリストでは絶滅危惧ⅠB類に指定されており、ワシントン条約(CITES)の附属書Ⅰに記載されています。
主な脅威は生息地の破壊と狩猟です。
ベアードバクは肉目的、スポーツ目的で狩猟されています。
このほか、家畜から移る感染症やロードキル、気候変動などは今後脅威となっていく可能性があります。
動物園
ベアードバクは、神奈川県横浜市にある金沢動物園で見ることができます。
ここでは同じ奇蹄目のなかまであるインドサイにも会うことができます。
ベアードバク | 金沢動物園