プーズーの基本情報
英名:Southern Pudu
学名:Pudu puda
分類:鯨偶蹄目 シカ科 プーズー属
生息地:アルゼンチン、チリ
保全状況:NT〈準絶滅危惧〉
肩身が狭い小さなシカ
プーズーという耳慣れない言葉は、チリの南中央部とアルゼンチンの南西部に住む原住民、マプチェの人々の言葉で「小さいシカ」という意味です。
その名の通り、マプチェの人が暮らす地域に生息する彼らは、シカ科の中では最小。
マメジカという彼らより小さなマメジカ科の偶蹄類がいますが、彼らは角を持たない代わりに牙を持ちます。
そのため、真のシカという分類の中ではプーズーが最も小さくなります。
体長は1mに満たず、体重は10㎏程度しかありません。
ところで、そんな小さなプーズーはある動物たちに悩まされています。
まずは外来哺乳類。
ノロジカやダマジカ、アナウサギいった本来はヨーロッパなど別の地域に生息する哺乳類が、プーズーが生息する南米にも進出しており、特にエサの面で競合しているとされています。
プーズーはブラウザーで木の葉を主食としています。
植物がそこら中にあっても、すべての植物がエサとなるわけではありません。
選択的にエサを食べるプーズーにとって、同じようなエサを食べる外来種は、生存を脅かす脅威となる可能性があります。
また、イノシシなどの外来種はプーズーの生息環境に生える様々な植物を食べ、改変してしまうことで、プーズーの脅威となっている可能性があります。
プーズーを悩ませるもう一つの存在が家畜です。
例えば、ウシは病原体を持っており、プーズーに感染させる可能性があります。
そして何よりも危険なのがイエイヌです。
イエイヌによる攻撃、捕食はプーズーにとっての主要な脅威とされており、彼らの個体数が減少している大きな理由でもあります。
プーズーが生息している森林は切り倒され、人間の住処やインフラに変貌していますが、こうした環境の改変はイエイヌのプーズーに対する影響をさらに助長することになります。
南米の森林でひっそりと暮らす小さなプーズーは、迫りくる脅威を感じながら肩身の狭い思いをしています。
プーズーの生態
生息地
プーズーは、チリの南中央部とアルゼンチンの南西部のごく一部の、標高1,700mまでの温帯林に生息します。
成熟した森でも攪乱された森でも暮らすことができます。
下層の植生が密な環境に好んで生息します。
形態
体長は85㎝を超えることはなく、肩高は35~45㎝、体重は6.5~13.5㎏、尾長は3~4㎝。
オスとメスはほとんど同じ見た目をしていますが、オスの方が1㎏程度重いです。
角はオスのみにしか生えません。
枝分かれせず、長さは6~9㎝。
7月に生え、11月に完成し、南半球の夏に抜け落ちます。
オスでは眼窩前腺が発達しており、そこからの分泌物はマーキングに使われます。
食性
ブラウザーであるプーズーは葉を主食とします。
反芻動物であるプーズーは4つの胃を持ち、微生物の力を借りて植物を消化します。
捕食者にはピューマやコドコド、猛禽類などが知られています。
特にチリに生息するピューマにとって、プーズーは重要な餌生物です。
行動・社会
薄明薄暮時に活発に活動しますが、夜に活動することもあります。
行動圏は10~25haほど。
彼らは主に単独性とされていますが、行動圏は重複し、3頭までが同所で見られることもあります。
嗅覚が優れており、それを用いたコミュニケーションが主要です。
繁殖
4月~6月にかけて交尾し、12月から1月に出産が見られます。
メスは年に1度、約7ヵ月の妊娠期間ののち、白い斑点がある体長20㎝、体重1㎏未満の赤ちゃんを通常1頭産みます。
赤ちゃんは目が開いた状態で生まれ、すぐ立ち上がり、生後1時間程度で母乳を飲み始めます。
子育ては母親の役割です。
子供は生後1~2ヵ月で離乳し、8ヵ月ごろには独立します。
1.5歳までには性成熟に達し、オスは生後9~12ヵ月で角が生えます。
寿命について、飼育下では17年以上生きた個体がいます。
人間とプーズー
絶滅リスク・保全
プーズーは現在も個体数を減少させていると推測されており、IUCNのレッドリストでは準絶滅危惧に指定されています。
また、ワシントン条約(CITE)では附属書Ⅰに記載され、国際取引が原則禁止されています。
主要な脅威は生息地の破壊です。
地域によってはかつての半分以上の森林が失われており、プーズーの生存を危ぶめています。
このほか密猟やロードキルなども脅威となっています。
動物園
日本では、埼玉県のこども動物自然公園と、兵庫県の神戸どうぶつ王国がプーズーを飼育・展示しています。