チャコペッカリーの基本情報
英名:Chacoan Peccary
学名:Catagonus wagneri
分類:鯨偶蹄目 ペッカリー科 チャコペッカリー属
生息地:アルゼンチン、ボリビア、パラグアイ
保全状況:EN〈絶滅危惧ⅠB類〉

参考文献
グランチャコのペッカリー
それまで絶滅したと思われており、1975年に初めて生きた個体が確認されたチャコペッカリーは、パラグアイ西部、ボリビア南東部、アルゼンチン北部にわたって、グランチャコと呼ばれる地域にのみ生息します。
グランチャコは雨があまり降らず乾燥しており、気温が高い地域で、水分が奪われるのを防ぐために葉ではなく棘を発達させた植物が多いことで特徴づけられます。
このグランチャコに生息するチャコペッカリーは、厳しい環境によく適応しています。
一部では20㎝にもなる長い体毛は、棘がある植物から身を守ります。
また、比較的長い脚と小さい足は、棘を持つ植物が生い茂る環境での移動を容易にします。
食性に目を移すと、彼らはサボテンを最も食べます。
水分のほとんどをこのサボテンから摂取するため、乾燥した環境でも生きていくことができます。
ところでサボテンは、水分を多く失う日中ではなく、夜に気孔を開き二酸化炭素を吸収するCAM植物と呼ばれる特殊な植物です。
夜には太陽光がなく光合成ができないため、サボテンは吸収した二酸化炭素をリンゴ酸などの有機酸に結合させ、液胞に蓄積しておきます。
そして日が出るとそこから二酸化炭素を放出し、光合成をしてエネルギーを得ているのです。
このように酸性度の高いサボテンは、哺乳類にとってはあまりいいエサではありません。
しかし、チャコペッカリーはこの酸を消化できる腎臓を持っているため、サボテンを主食とすることができています。
他にも彼らはサボテンを消化するのに特殊化した、2部屋に分かれた胃を持っています。
乾燥地域への適応は他にも見られます。
例えば、彼らは水分を極力失わないようにするために、非常に濃縮な尿を排出します。
また、彼らはミネラルなどの足りない栄養分を補うために、ハキリアリなどのアリ塚をなめます。
このように厳しい環境に適応しているチャコペッカリーですが、現在彼らは大きな脅威に直面しています。
大きな脅威の一つが生息地の破壊です。
特に乾燥地域に適応している大豆の農地拡大により、チャコペッカリーの生息地がどんどん縮小しています。
過去15年の間で彼らの生息地の50%以上が失われたと推定されており、同じ事が将来の15年で起きると言われています。
かつて思われていたように、彼らが本当に絶滅種とならないよう祈るばかりです。

チャコペッカリーの生態
生息地
チャコペッカリーはグランチャコの乾燥地帯に生息します。
形態
体長は90~117㎝、肩高は50~70㎝、体重は30~50㎏、尾長は3~10㎝でペッカリーの中では最大です。
ペッカリーにしては比較的大きな耳と長い吻部が特徴的です。
上顎犬歯が上に曲がり外から見えるイノシシのなかまと違い、彼らの上顎犬歯は下に向いています。
歯は上下でしっかりと噛みあいます。

食性
サボテンを主食とし、アカシアやキアベなどの果実、葉、根、死肉、小型哺乳類なども食べます。
種子を消化しきらず排出する彼らは種子散布者としての役割を持っています。
捕食者にはピューマとジャガーが知られています。


行動・社会
昼行性の彼らは10頭までのオスメス交じった群れで暮らします。
群れには序列はないようです。
行動圏は約1,000haで、臭腺から出る分泌物でマーキングされます。
なわばり性が見られますが、他のペッカリーほど攻撃的ではありません。

繁殖
出産は9月から11月にかけて見られます。
メスは年に1度出産します。
妊娠期間は約150日で、一度に1~4頭、通常2~3頭の赤ちゃんを産みます。
赤ちゃんは生後すぐに母親について歩くことができるようになります。
性成熟には2歳までには達し、寿命は野生で10年未満、飼育下では18年の記録があります。
人間とチャコペッカリー
絶滅リスク・保全
全個体数の情報はありませんが、アルゼンチンでは2002年に3,200頭、パラグアイでは1990年代初頭に5,000頭いたとされています。
個体数は現在減少中とされており、IUCNのレッドリストでは絶滅危惧ⅠB類、ワシントン条約(CITES)では附属書Ⅰに記載されています。
脅威としては生息地の破壊の他、狩猟が挙げられます。
他のペッカリーと比べるとその毛皮の価値は10分の1程度ですが、その肉は現地の人々にとって重要なタンパク源です。
現地のブッシュミート市場では、最も重要なものの一種とされています。

動物園
日本でチャコペッカリーに会うことはできませんが、近縁のクビワペッカリーには日本のいくつかの動物園で見ることができます。
