シフゾウの基本情報
英名:Père David’s Deer
学名:Elaphurus davidianus
分類:鯨偶蹄目 シカ科 シフゾウ属
生息地:中国
保全状況:EW〈野生絶滅〉

絶滅を経験した四不像
シフゾウという聞きなれない名前を漢字で書くと「四不像」。
これは、蹄はウシに、頭はウマに、角はシカに、体はロバに似ているがそのどれでもないということから付けられた名前です。
確かにその姿はどれにも似つかない不思議な様子を呈していますが、枝分かれした角を見るとわかるように、彼らはシカ科に分類されるシカのなかまです。
そんなシフゾウですが、一度絶滅しています。
かつて中国の湿地や沼地に生息していたとされるシフゾウは、狩猟や人間による生息地の開墾などの影響で、西暦400年ごろにはすでに絶滅に近かったとされています。
ただ、北京郊外にある王朝所有の狩猟区では、約200㎢の土地の中で多くのシフゾウが長らく飼育されていました。
この狩猟区は元の時代から他とは隔離されていたため、その中で暮らすシフゾウは生きのびることができたのです。
1864年、フランス人宣教師のアルマン・ダヴィドはそこで飼われていたシフゾウを発見し、その新奇さから1866年、骨格の一部をパリに持ち帰ります。
それを見たフランス人博物学者のアルフォンス・ミルヌ=エドワールは種としてその動物を記載し、「ダヴィド神父のシカ」という名前を付けます。
ちなみにダヴィドですが、彼はパンダを西洋世界に紹介した人としても有名です。

そんな折、1895年に永定河の氾濫で狩猟区が洪水に見舞われ、多くのシフゾウが死んでしまい、残り20~30頭になるまでになってしまいます。
さらに1900年、反キリスト教の宗教団体、義和団による蜂起である義和団事件の最中、狩猟区は軍に乗っ取られ、そこにいた残りのシフゾウたちは射殺されたり食べられたりして全滅してしまいます。
シフゾウという動物がこの世からいなくなったと思われましたが、奇跡的にシフゾウは生きていました。
イギリス、ベルギー、ドイツ、フランスに計18頭のシフゾウが飼育されていたのです。
ここからシフゾウの繁殖計画が持ち上がります。
繁殖できる個体は11頭だけでしたが、イギリス貴族を中心に努力が重ねられた結果、1956年には中国に飼育個体が一部返還され、1985年には中国で最初の再導入(5頭のオスと15頭のメス)が試みられます。
再導入とはもともといた場所に再びその動物が導入されることで、その後も中国では何度か再導入が行われました。
その結果、再導入された個体は1993年には120頭程度でしたが、2008年ごろには2,000頭を超えるまでに増加します。
また、洪水のタイミングで囲いの外に逃げ出した個体たちも各々繁殖し、そうした個体は現在、全部で600頭ほどいると推測されています。
今生きる個体は少数個体の子孫であるため、遺伝的多様性に欠けることが懸念点ですが、彼らの回復劇は刮目に値します。
シフゾウというか、フシゾウ(不死像)です。

シフゾウの生態
生息地
シフゾウは、背の低い草が生える草原や葦原、沼地に生息します。
形態
体長は183~216㎝、体重はオスが約215㎏、メスが約160㎏、尾長は22~35㎝です。
オスにのみ生える枝角(アントラー)は55~80㎝で、12月から1月に落ちます。
その後すぐに新しい角が生え始め、5月ごろ最大となり、周りの皮膚がはがれ落ちます。
食性
草や葦、葉っぱなどを食べます。
シフゾウは反芻する反芻動物です。
行動・社会
普段は雌雄入り乱れた大きな群れで暮らします。
オスは繁殖期の2ヵ月ほど前、群れを一度離れ、その後合流しハレムを作るために闘争に明け暮れます。
なわばりはなく、オスは囲ったメスが他のオスにとられないよう防衛します。
シフゾウは泳ぎが得意で、長時間水中にいることもあります。

繁殖
繁殖期は6月~7月で、出産は4月~5月に見られます。
メスの妊娠期間は270~300日で、通常1頭の赤ちゃんが生まれます。
赤ちゃんは生後10~11ヵ月で完全に離乳し、2歳ごろ性成熟に達します。
寿命について、飼育下で18年生きた個体がいます。
人間とシフゾウ
絶滅リスク・保全
現在シフゾウには真の野生個体と言える個体がいないため、IUCNのレッドリストでは野生絶滅と評価されています。
しかし、現在保護区から逃げ生きのびる個体群の今後によって評価は変更される可能性はあります。


動物園
シフゾウは野生では絶滅していますが、世界各国に飼育個体がおり、日本でも会うことができます。
日本では東京都の多摩動物公園、広島県の安佐動物公園、熊本県の熊本市動植物園がシフゾウを飼育しています。